こんな腕の良い縫い師、王都にいたっけかと僕は首を傾げる。
「ママが作ってくれたんだよ。嫁入り道具の一つでも持たせてやらねばな、って」
「おばさんかぁ……それは納得せざるを得ないね」
本当に多才でいらっしゃる。
おばさんが義理の母か…ちょっとそこら辺、考えてなかったかな。
今度プライベートで会ったら、義母上って呼ぼう。
「それ、やめろって言うと思うよママは」
「読むなっての。あぁ、君達。ユエに軽食を。来賓の方々とか21貴族からの挨拶とかで、食事してる暇ないと思うから」
アオは? と聞かれたので、慣れてるから平気と答える。
ウェディングドレスから着替える為に、彼女を部屋まで送り届けた後、僕は親衛隊と共に披露宴会場になっているダンスホールへ向かった。
会場に入ると、数段高くなっている上座に父様と母様が椅子へ座り、僕を待っていた。
僕が座る用の椅子の隣に空席が見え、あぁ、ユエ用だな、なんて少し感慨深くなる。
僕がそこへ座った数十分後、ユエが親衛隊を伴い会場入りした。
その様子を見て、母様が扇子を広げ笑う。
「…どうしたの母様」
「いえね? 思い出しただけよ。あたしがナズナと結婚した日の事を」
成程、母様もあんな感じで会場入りしたわけか。
懐かしいとか思ってるんだろうなぁ。
僕は立ち上がり、上座から数段降りてユエを出迎えた。
ウェディングドレスから一転、彼女は吾妻の礼服に身を包み、色は僕の色である青を纏ってくれている。
青い花の髪飾りと、ヘッドドレスベールをつけたユエは、精霊と言われても信じるくらいに美しいと思った。
「殿下…惚けないで下さいませ」
「あ、あぁ…すまない」
僕の前に立ち、彼女は困ったように笑う。
その声で我に返った僕は、ユエの手を取り上座に上がった。
「ごめん…今日の君、綺麗過ぎて…直視したら思考停止してしまう…」
「あの…頑張って何とかしてください、殿下」
ユエと共に椅子へ腰掛け、彼女に小声で弁明すると、しっかりしろと言外に言われる。
僕らの披露宴なのだから、しっかりしないといけないのは分かっているのだけど。
ユエ、化粧でめっちゃ美人になってるんだよなぁ…っ!!
あぁ、普段の君も可愛いけれど、今日の君は可愛さ通り越して神々しいんだよ…!!
うわ、他の男の目に触れさせたくないなぁ…っ!!
主役が抜けたら駄目なのは理解しているけど、ユエを部屋に連れ込んで誰の目にも触れさせたくない…!!
もしかしなくても、王太子妃になったユエへ粉かける連中いるんじゃないのか…?
ユエに限って浮気なんて絶対しないだろうけど、そんな奴らが湧くの少し耐えられないかなぁ…。
父様のスピーチから始まり、来賓の方々が挨拶と祝辞を述べてくれる。
〈アオ、集中して。表情は取り繕えてるけど、内心で荒ぶらないで〉
〈だって君、すっごく綺麗なんだもの。見ろよ、男性連中の君を見る目。ユエは僕の奥さんだっていうのに。目ぇ潰してやりてぇ…!!〉
物騒な事を考えるなとユエから注意される。
そして僕はふと、彼女に問いかけた。
〈そういえば、結婚式で婚姻届書かなかったけど…アレどうした?〉
〈王妃様が、結婚式当日に陛下に受理させるって言ってたような…〉
来賓の挨拶が終わり、今度は21貴族の当主達の挨拶と祝辞を聞いてる最中、僕は母様に念話で尋ねる。
〈母様、あのさ。僕らの婚姻届どうしたの…?〉
〈何よ、藪から棒に。婚姻届? そんな物、貴方とユエちゃんが学園を卒業した時点で、ナズナに受理させてたわよ。起きるかどうか分からないから、貴方との婚約一旦白紙にする? ってユエちゃんに聞いたら、絶対しないって宣ったものですから〉
僕は思わず、椅子の肘掛けを握りしめた。
若干ミシミシいって、ユエがこちらをチラリと見てくる。
〈じゃあなんで早く言ってくれなかったかなぁ?! ユエと寝室も分けてたしさぁ?!〉
〈様式美というものです。それに、式も挙げてないのにユエちゃんのお腹大きくさせる気なの? 貴方は。今日から好きに出来るのだから、ピーピーギャーギャーと言わないで頂戴〉
母様からジロリと睨まれ、僕は口を噤む。
確かに、もう婚姻してましたなんて僕らに知れたら、子供なんて早く出来るに決まっている。
孫の顔は見たいけれど、僕以外の兄弟姉妹ならともかくと思ったんだろう。
僕、王太子だからね。
跡継ぎのお嫁さんがお腹大きいなんて…祝福はされるだろうけど、民達の笑い話にもなるだろう事は、想像に難くない。
流石僕の母親。
息子の性格をよく分かってらっしゃる。
いや寧ろ、父様の子だからとか思ってそうだな。
ユエに念話でどうしたのかと問われ、先程の事を説明すると彼女も驚いていた。
そして僕と同じ事に思い至り、内心で苦笑いを浮かべたようだ。
立食パーティー形式で、僕らに挨拶が終わった人達は歓談しつつも、チラチラとコチラを見ている。
多分、挨拶が終わり次第ダンスが始まるからだろう。
確か、普通は一回、婚約者は二回、夫婦は三回踊るんだったか。