僕は彼女の服を見る。
吾妻ノ国の礼服だが、踊れるのか?
何かつんのめって、倒れそうで不安なんだけど。
「そんなに心配なさらなくても、ヒールも履いてますし上手く立ち回って見せますわ」
僕の視線に気付いたのか、ユエが苦笑しながら小声でそう言う。
そんな彼女に僕は眉尻を下げ、謝った。
「あぁ…すまない。君の事になると、私は途端に駄目になってしまってね。私の心配を跳ね除けるくらい、君は強い女性だというのに」
「まぁ、殿下ったら」
21貴族の挨拶が終わると父様が楽団に合図をし、ダンスをするための曲が流れ始める。
僕は立ち上がり、ユエへ手を差し出した。
彼女は僕の手に自分の手を添え、立ち上がる。
そのままホール中央まで行き、僕らは互いに礼をした後、ワルツのリズムで踊り始めた。
「久しぶり過ぎて…私、ちゃんと出来てる?」
「大丈夫。君は運動神経も良いから。本当に、今日の君はとても綺麗だ。この時間が早く終わらないかなって思うよ。早く…二人きりになりたい」
微笑みながら言うと、ユエは少し頬を染める。
この後初夜だって思ったからだろうが。
いや、うん。
そこは僕も意識してはいたけどね。
「アオのえっち…」
「夫婦なんだから別に良いだろ…」
夫婦という言葉へ、ユエは嬉しそうに笑う。
もう夫婦なんだねと言う彼女へ、僕は頷いた。
僕らが三回踊り終えると、招待客の面々や僕の兄弟姉妹達、父様や母様が各々曲に合わせて踊り始める。
僕はユエの手を引いて、テラスの方へと向かった。
「アオ? どうしたの? 私達が抜けちゃ駄目だと思うんだけど…」
「ほんの少しだけ、夜風に当たりたくなったんだ。会場に君だけを残すなんて、蟻に餌を与えるようなものだから癪に触って…」
招待客を蟻って…と、呆れた目を僕に向ける彼女に、僕は拗ねた顔を向ける。
「僕のユエにたかる男はみんな蟻だろ。もしくは蝿」
「アオ、言い過ぎ。誰が聞いてるか分からないのに…」
ユエは僕に寄り添い、肩に頭を乗せてきた。
頭を撫でたかったが、セットが崩れると思った僕は少し身を屈めて、彼女にキスをする。
唇を離すと、しょうがないなとユエは笑った。
「私の旦那様は、本当嫉妬深くていらっしゃる」
「それは君もだろ。だけど、それももう、する必要はないよ。これから身も心も、一つになるんだから」
僕は跪き、彼女の左手を取って薬指にキスを落とす。
気障だとクスクス笑い出したユエを見上げていると、僕らに声がかかった。
「義姉君とご歓談中の所、申し訳ありません兄君。父上が会場に戻るよう、仰せです」
いつの間に来ていたのか、シンクが僕らに頭を下げながら、父様からの伝言を伝える。
「分かった。すまないな、シンク」
「いえ。ご結婚おめでとうございます、兄君、義姉君。私も精進し、ユタカ嬢を幸せに出来るよう努力していく所存ですよ」
ユエの肩を抱き会場に戻る際、僕は弟の肩を軽く叩いた。
頑張れよ、と一言だけ告げて。
上座に戻り、父様が閉会の挨拶をする。
招待客を見送り、僕らは一路自分の部屋へと帰った。
◆◆◆
あー…ヤバい。
緊張する。
風呂に入ってさっぱりした後、僕はバスローブ姿でベッドの縁に座っていた。
手の甲で額を支え蹲っている僕を見たら、ユエは情けないと笑うだろうか。
それとも、お互い緊張して何も話せなくなるか。
一応そういう知識は、本で読んだり携帯で見たりしていたから知っているとはいえ、全て鵜呑みにするなとはエミル君やアラスター、他男友達から聞いている。
何が本当か分からなくなってくる、というのが僕の意見では正しいのだろう。
とりあえず嫌がられたらやめろ、とアドバイスはもらっていたけど…。
「大丈夫かなぁ…僕…」
理性飛ばしてユエに酷い事したくないんだけど…。
あーだこーだと考えていても埒があかないのは分かっているが、ユエが本当に大事なわけで。
「いや、いっそ何もしないで一緒に寝るって手も…!」
あるわけないと、ここに彼女がいたら言われそうではある。
どうしようどうしようと、頭を抱えていると扉がノックされた。
どうぞ、と僕は返事をする。
ゆっくりと扉が開いていき、ロングタイプの白いネグリジェを着たユエが入ってきた。
髪も下ろしていて、とても扇状的である。
彼女も風呂に入った直後だろうか、頬がほんのり色付いていた。
スタスタとユエは歩き、僕の隣に腰掛けてくる。
暫くお互い無言でいたのだが、ユエがポツリと呟き、その言葉に僕は彼女の方を見た。
「アオのヘタレ。どうせ、私に酷い事したら嫌だなぁ、とか考えてたんでしょ」
「いや、あの、当たり前じゃない? あとヘタレ言うな」
ヘタレじゃん、とまた彼女が言ったので、僕はユエを押し倒した。
「言ったでしょ? 乱暴にされたって平気だって。そんなに華奢じゃないよ、って」
僕を見上げ、ユエは微笑む。
腕を上げて、僕の頬を撫でながら。
その姿に劣情を抱く。
僕はリモコンで部屋の電気を消し、彼女に問いかけた。
「ユエ……覚悟は良いか? 理性が切れたら歯止めなんて効かないぞ。君が泣いて嫌がったとしても、それこそ気絶をしてでも、僕は君を抱き続けるからな」
「初めては痛いって聞くし、痛くて泣いちゃうかもだけど…貴方のものになれるのなら、その涙は幸せなものになるって、そう思うの。だから…良いよ、アオ。来て?」
ユエの言葉に、僕の理性はそこで切れた。