ユエは少し照れて、僕から顔を逸らしてしまった。
「なら、結婚指輪は僕に贈らせてね。遅くなるかもしれないけど、ちゃんと選んで贈るからさ」
「……うん、待ってる」
僕の腕に頭を擦り付けて、彼女は微笑む。
とても幸せそうに。
その笑顔を見て、僕も幸せな気持ちになった。
ウィンドウショッピングとでもいうのだろうか、僕とユエは店を一軒一軒、見て回る。
メルディアが何も言わず着いてきてくれているのは、ありがたかった。
これがユタカなら、すでにユエと喧嘩に入っている事だろう。
「あ…」
ユエがある店で、少し声を上げた。
僕は立ち止まり、ユエの目線まで自分の身を屈める。
彼女が見ていたのは貴金属の店だったが、そこのディスプレイに飾られていたのは、シルバーのリングの中にサファイアとガーネットが埋め込まれているタイプの指輪だった。
僕と、彼女の目の色。
多分それが、ユエの目を引いた理由だろう。
「買おうか?」
「いや、でも、値段が…」
値段を見ると、確かに普通の学生では手が出せないくらいの金額だった。
0が6桁ある。
その横には30という数字がくっついていた。
「3000万か…。確かに、カットが少し特殊かもね。石が外れないように、固定されている技術があるのかもしれない。ちょっと見せてもらう?」
「いや、いやいやいや!! 桁を見て、桁を?! 3000万だよ?! 高すぎるって! アオ、これは高価すぎるよ!」
聞いてみたが、ユエは思い切り首を横に振る。
なんでそんなに否定しているのだろうか?
「母様がつけてるのだって、国家予算でお釣りが来るくらいの値段だし、それが何個もあるし…。ユエ、王家に入るってそういう事だって思った方がいいと思う」
「えぇ…金銭感覚バグりそう…」
まぁ、この店が違法な事をしていなければ、の話だけど。
学園都市に店を構える、という事は国の審査を通らなければならない。
たまに推薦してくれる貴族に袖の下を渡して、ぼったくる店もあると、父様から聞かされた事がある。
「まぁ、入るだけ入ってみようよ」
「え…うん…」
ユエは少し不安そうだが、もし違法店なら父様達に報告しなければ。
店内に足を踏み入れると明るい雰囲気で、客もそこそこ入っているようだった。
「こんにちは、本日はどのようなご用件でしょうか?」
案内役の女性だろうかが、店の奥から出てきた。
僕は笑顔を貼り付けて、女性に言う。
「すみません、外にあった指輪を少し見せていただきたいと思いまして。あれはとても珍しいですね。どんな技術が使われているのか、興味がありまして」
「少々お待ちください」
僕の顔を見たユエが少し驚いていた。
こんな作り笑いの顔、見た事がなかったのだろう。
案内役の女性が、表にあった指輪を持ってきてくれる。
手袋を借りて、その指輪を見た。
ふーん…?
これ、オーシアの技術が流用されてるな。
カットは独自のものだろうけど。
「ここの店主さん、オーシアの方なのですか?」
「そうです。立花卿に憧れて技術を磨き、こちらに自分の腕がどれくらいのものか、と挑戦しにきたと仰っていました。それで、お眼鏡には叶いましたでしょうか?」
指輪と手袋を返して、僕はにこやかに笑う。
「そうですね。いい腕を持っているとは思います。でも、今回はやめておきますね。ユエ、行こうか」
立ち上がると、女性は僕を引き止めてきた。
何が悪かったのかと聞かれたので、僕は作り笑いで告げる。
「この技術でこの値段は高すぎると思いますよ。いっても30万くらいでしょうか。別に珍しい鉱石を使っているわけでもない、カットは特殊ではあるでしょうが、見れば誰でも真似できるレベルです。ブランドがあるわけでもないでしょう? 僕、目利きは出来る方なんですよ。これくらいで良いですか? では」
僕はユエを連れて店から出る。
ちょっと心臓が飛び出そうなくらい緊張はしたが、逆ギレして来なくて良かった。
優良店とは言い難いが、あれは伸び代があると思う。
「ア、アオ…言い過ぎじゃ…」
「うーん…まぁ、ぼったくり店じゃなくて良かったね。あの指輪買い損ねたけど、それはごめん」
それは良いんだよ、とユエは僕の顔を見てきた。
ユエの前で見せた事のない顔をしていたから、少し怖かっただろうか?
「本当にごめん。うちのお抱えの職人に、似たの作ってもらうから。多分そっちの方が安く済んだかな…」
「アオ、あのね。目利きってどうするの? やっぱり、鑑定眼とか鍛えた方がいいのかな」
僕の考えとは明後日の方向のユエの言葉に、僕は少し驚いた後笑った。
「ユエ、さっきの怖くなかった? 僕別人みたいだったでしょ?」
「王太子モードのアオの方が怖いよ。すごい空気が張り詰めててさ。それだったら、あの胡散臭そうな作り笑いの方がまだマシ」
あ、僕の作り笑い胡散臭いんだ。
言われた事ないな。
ユエからは他の人から聞いた事のない意見ばかりで、そこが面白いし一緒にいて楽しい。
とりあえず一旦城に帰り、後日婚約指輪を彼女に贈った。