「アンナやリーゼと違って、あの子リオンちゃんが隣にいればニコニコってご機嫌なのよね。だからこそ、ユーリさんに預けられたんだけど」
「それはそれで良かったと思うんだが。俺が抱き上げると泣くんだよな、ラゼッタ…何故だ…」
少ししょんぼりしてしまった父様に、シャナが抱きついていく。
ちなみに僕らは、父様から抱っこされても泣かなかったらしい。
まぁそうされたのも、片手の指で足りる程にしか覚えていないが。
「ほら、あなた。娘が慰めてくれてるわよ?」
姉が心配そうに父様を見上げているものだから、母様が苦笑しつつ父様に言った。
「すまんな、シャナ…。お前はシャルに似て、本当に良い子だ」
「グンジョウも良い子だよ、父様」
あの、そこで僕について言わないでもらって良いですかね、姉君。
何にもしていないのに、話に出されても困るんですよ。
二人に抱きつかれて身動きが取れない僕を見て、父様は笑う。
「それは分かっているが…グンジョウ、婚約者にするのなら、せめてどちらを正妃にするか決めておけよ?」
「なんでそんな話になるかな?! 二人と婚姻なんて結ばないから!! あぁ、もう!! 二人共離してくれない?! 身動き取れないんだけど?!」
父様に言われた僕は、若干怒鳴りながら二人へ離れるよう告げた。
多分、この時の僕は照れていたのだろう。
そうでなければ、彼女達を怒鳴りつけるような事はしなかったはずだ。
「あの、ごめんアオちゃん…」
「…グンちゃん、ごめんなさい」
二人からの謝罪に、僕は少し気まずくなる。
そこまで落ち込まなくても、と思っていたら、シャナが僕に抱きついてきた。
「二人ともごめんねー。グンジョウ、シスコンだからさ。お姉ちゃんの前で二人といちゃつくの、恥ずかしくなったんだよ」
「いや、どういう理屈…あー…もうそれで良いや…」
二人の視線がシャナに向く。
成程、シャナを落とさないと僕が自分の方に気を向けないのか、なんて思っていそうで、僕は二人から視線を逸らしつつ溜息をついた。
「お前ら、漫才やってないで行くぞ」
魔法陣の準備が出来たのか、おばさんが僕らを呼ぶ。
母様達や僕達が魔法陣に乗ったのを見て、おばさんは陣を起動した。
一瞬で景色が切り替わり、大きなビル群や喧騒が聞こえ始める。
何処かの空き地のようで、そこから表通りと思わしき場所が見えた。
「あら、東京? 懐かしいわね。貴女の事だから、もっと片田舎に飛ぶかと思っていたのに」
「田舎過ぎてもつまらんだろう? それに、こいつらには良い経験になるだろうさ」
おばさんの先導で、僕らは表通りに行く。
リューネの王都も人が多いと言えるが、ここまで人が密集しているのは初めて見た。
逸れるとまずいと思った僕は、シャナと手を繋ぐ。
「あ、グンちゃん私とも!」
「何言ってるの? アオちゃんと手を繋ぐのは私だから!」
どちらが僕と手を繋ぐかの喧嘩を始めた二人に、おばさんが拳骨を落とした。
痛いと涙目になっている娘達へ、おばさんは言う。
「そのまま迷子になっても、私は探さんからな」
「ちょっと、ママ?!」
「それは酷いよ?!」
ユエとユタカを見つつ、父様と母様は苦笑していた。
こっちにきても相変わらずだなぁ、なんて思っていそう。
ちなみに父様も黒髪にしてもらっている。
目の色はそのままだけど。
「あれ? 周りの人達の目、あたし達と違うね?」
「そう言えば。なんでだろ?」
黒目もいるが、基本茶色の目だ。
僕とシャナは疑問を覚え、二人に説教しているおばさんには話しかけられず、母様を見る。
「世の中には、カラーコンタクトというものがあるの。それを付けると、どんな目の色にでもなれるのよ。瞳の大きさも変えられるの。あたし達の目が紫だの青だの赤だの、そんな色をしてても周りが気にしないのはそういう事よ」
「成程…」
それ、リューネに持って帰れないだろうか?
技術やら何やら気になるなぁ…。
おばさん作れないのかな?
うーんと唸りながら考え事をする僕の背を、シャナが軽く叩く。
何だと姉の方を見ると、何か物を売っている店を指差した。
「あれ何かな?」
「見るだけなら出来るだろうけど、買えないと思うぞシャナ。リューネの通貨はここじゃ使えないだろうから」
異世界なのは見て分かるし、僕らの国の通貨は通用しないだろう。
カードも一緒。
そこで僕は疑問を覚える。
「2泊3日っておばさん言ってたけど…何処に宿泊するんだ?」
街頭モニターを見れば昼前の時刻を指していて、夜になれば寝るためのホテルなり何なりに行かねばならないだろう。
だが、通貨が通用しない以上、そういう場所に泊まれるはずもなく。
「一回リューネに帰るのかな?」
「いや、それなら二泊三日って言わないような…」
僕と同じ考えになったのか、シャナが疑問を口にする。
それにツッコミを入れつつ、二人の説教が終わったおばさんに尋ねた。
「あの、おばさん。不躾な質問なのですが、お金とかどうするんですか?」
「ん? あぁ、これを渡しておく」
おばさんは、いつもは持っていないカバンから財布を出し、そこからカードを取り出して僕らに渡してくる。