「あんなの、人が送っていい生活じゃない。よくナツキの精神が壊れなかったと思うよ。まぁ、師匠と私のフォローのおかげだろうがな」
「それについては、とても感謝をしているわ。ありがとう、カヅキ。貴女とターニャがいてくれなかったら、あたし早々に自死を選んでいたかもね?」
ニコリと笑顔でそんな事を言う母様に、父様がムッとする。
母様の口から、自死なんて言葉を聞きたくなかったのだろう。
父様の様子に気付いた母様が、苦笑する。
「もしかしたら、貴方と会う時期が早まったかもしれないのに、怒らないで頂戴よ」
「お前が死んで良かったなど、俺は思いたくない。確かにこちらでお前が亡くなったから、俺はお前と出会えたが…それでも、お前には長生きして欲しいと思う」
あなた、なんて母様が目を潤ませて父様を見上げた。
あー…また二人の世界に入っちゃったよ…。
僕とシャナは両親から背を向けて、やれやれと肩を竦める。
この状態に入ったら、気が済むまでイチャつくのがウチの両親だ。
出来れば外に出たいぐらいなのだが、単独行動はおばさんの迷惑になるだろうから我慢する。
「お前ら、時間は有限なんだからさっさと行くぞ」
「……分かった。シャル、行こうか」
もっと母様とイチャついていたかったのだろうが、おばさんから苦言を呈され、文句を言った所で無駄なのを分かっている父様は素直に従う。
「良いなぁ…」
「羨ましいなぁ…」
ユエとユタカが僕の方をチラチラ見ながら、そんな事を呟いていた。
だがそれを、僕は無視する。
本当、この時の僕冷たかったなぁ…。
今じゃ、ユエに対して口説きまくっているし、この時点の前に自覚していればなぁ…。
なんて、後悔先に立たずなので、仕方ないのだけど。
◆◆◆
1番高いビル…電波塔というらしいのだが、そこ周辺を観光地化した場所に到着する。
「大っきい…」
「上、あんまり見えないねー」
シャナとユエが上を見上げつつ感想を言う。
1番上が展望室になっているようで、全高が600m超えているのだそうだ。
霊峰と呼ばれるベルベット山の中腹もそれくらいだったはずなので、見晴らしは良い方ではないかと思う。
「ほら、お前達。入るぞ」
チケットを買ってくれていたおばさんが、僕らを誘導してくれる。
取り敢えず上から順に見ていって、下の商業施設に行こうという話になった。
エレベーターに乗り、途中乗り継ぎもあったが1番上の展望台に着く。
「うわぁ、すごーい!」
「オーシアでも、ここまで高いとこなんてないよね。アオちゃん、見て見て!」
双子が展望デッキから外を眺め、感嘆の声を上げた。
姉も双子に混じり、凄い凄いと喜んでいる。
デッキから遠い場所で三人を眺めていた僕を、ユエが手招きで呼ぶ。
彼女の隣に立ち、遠くの景色を眺める。
確かに、昇る前に思った通り見晴らしは良い。
下の方は、高所恐怖症の人が見たら卒倒するレベルだけれど。
「見ろ、ナツキ。人がゴミのようだ」
「人が大勢いる中で、そんな事言わないで頂戴。ターニャがいたら怒られているわよ、貴女」
年甲斐もなくはしゃいでいるおばさんを、母様が嗜めている。
父様はそんな母様の隣で、無言で下を見ていた。
その様子に、僕は首を傾げる。
「父様どうしたんだろ?」
「高所恐怖症なんじゃない? 母様から聞いたけど、父様ジェットコースター苦手なんだって。あの浮遊感とか高さとかで、気分悪くなるんだって。大変だよね」
それは大変だなぁ…。
いや、僕も出来れば乗りたくないけど。
眼鏡吹っ飛びそうになるんだもの。
まだ、空中ブランコとかに乗ってる方がマシ。
父様の様子に苦笑した母様は、父様を連れて後方に下がっていく。
「無理しなくても良いのに」
「いや、こういう経験は一度しておくべきだろうと思ってな…すまん、シャル…」
顔も強張っていたようで、後ろに下がった事により父様の表情が安堵に変わった。
本当に大変だな、なんて両親とおばさんを見ていた僕だったが、袖を引っ張られてそちらに顔を向ける。
引っ張っていたのは姉で、自分の携帯を持って振っていた。
「どうしたの、シャナ?」
「グンジョウ、写真撮って!」
デッキ付近で、ユエとユタカに挟まれるようにして立つ姉に、カメラを向ける。
逆光補正をしてから、写真を数枚撮ってやった。
「シャナちゃん、次私達とグンちゃんで!」
「それくらい良いよね、アオちゃん?」
そこまで写真写りは良くないんだけど、旅行に来ているのだから別に良いかと、僕は了承する。
二人共僕の両腕に抱きつき、シャナがユエの携帯で撮った。
「あれ? なんか暗くなった?」
「ちょっと貸せ」
写真を撮ったは良いが被写体が暗くなった事に疑問を覚え、首を傾げる姉に僕はユエの携帯を貸せと伝える。
大体僕らが使っているものと、双子が使っている機種は一緒だったので、逆光補正をしてやりもう一度撮らせた。
「ユエ、それあとで送って」
「それは当たり前でしょ。これ、待ち受けにしよーっと。アオちゃんにも送るね」
僕は良い、と彼女の提案を断る。