何が悲しくて、自分が写った写真が欲しいと思うのか。
そんな物、家族写真だけで十分だ。
◆◆◆
昼を過ぎたくらいで、シャナがお腹が減ったと母様達に言う。
ならお蕎麦が食べたいと母が言うので、僕達は施設の中に入っている蕎麦屋に入店した。
父様は母様と同じもりそば、姉は海老天そば、おばさんは辛そば、僕は鴨せいろというものが気になったのでそれを頼む。
ユエとユタカは少し悩んだ後、きつねそばとかけそばを頼んでいた。
箸の使い方は母様から習っていたので、運ばれてきた蕎麦を難なく食べる。
久しぶりに食べるのであろう蕎麦に、母様は感動してニコニコと微笑みを浮かべていた。
その様子を、父様も嬉しそうに見ている。
食事を終え、店から出た時に父様がおばさんへこそっと、リューネでも蕎麦が食べられるようにならないだろうかと相談していた。
母様が喜ぶのなら、何でもしてあげたいと父様は思ったのだろう。
それはおばさんも同じだったようで、リューネやオーシアにないものは輸入して、あちらで育てられるようにしようとか言い始めていた。
いつもなら、それを聞いていた母様に二人は止められているのだが、母はこの時シャナと共に外を眺めていたからか、気付かなかったようだ。
施設内にプラネタリウムというものがあるらしく、ユエとユタカが行きたいとおばさんに言う。
だが、食事をした後のシャナにそれを見せた瞬間、爆睡する事請け合いなので僕は却下を提案した。
寝ないと文句を言っていた姉だったが、確率十割で寝るに決まっていると押し問答してしまう。
「寝たら誰が運ぶと思ってんだお前。城の中ならともかく、衆人環視がある中で叩き起こせるわけないだろアホ!」
「ぶー!」
ならばと、ユエが水族館はどうかと言ってくる。
「動かないわけじゃないし、歩いてればシャナちゃん寝ちゃう事もないでしょ?」
「グンちゃん博識だから、魚の種類とか教えてよ」
あっちの海洋生物ならともかく、こっちのは良く分からないんだけど…。
まぁ、姉が荷物にならないのなら僕は良かったので、親達と共に水族館に行く。
館内は薄暗く、水槽内がよく見えるようになっていた。
「グンジョウ、これ何だろう?」
「何だろうね? 文字読めないんだよなぁ…」
こちらの言語で説明が書いてあるのだろうが、それについては学習も何も出来なかったので、プレート内の文字を読む事が出来ず、僕も姉同様首を傾げる。
水槽の中で、フヨフヨと動くこれは一体何なのだろうか?
「クラゲって書いてあるのよ。毒があるのとないのがあってね。毒があるのは刺されたら数時間で死ぬくらい、危ないものなの。ここにいるのは毒なしのクラゲね」
「「へー…」」
見てる分には楽しいが、そんな危ない種類がいるのか。
リューネの海にはいない種類だな。
次に来たのは大きい水槽で、大小様々な魚が泳いでいる。
「ママ、あれ何?」
「あの大きいやつは鮫だな。鮫は基本的に肉食で、穏やかな奴は一握りだ。遠泳に出なければ会う確率は低いとはいえ、稀に浅瀬に来て捕食する奴もいるから気をつけろ。ちなみに、ある種類の鮫の卵は三大珍味として食されている。あのでかいヒレはフカヒレと言ってな、工程は面倒臭いが高級食材として扱われている」
気を付けろって…別にこっちで海遊びするわけでもないから、その説明はいるのだろうか…。
あと、珍味あたりでシャナが食いついたので、食い意地張りすぎだろと姉を呆れた目で見た。
両親は僕らから少し離れた所で、同じく水槽を見上げて何か話している。
そういえばユエは? と思った僕は、辺りを見渡した。
水槽のガラスに手を添え、見上げている彼女を見つけた僕は、声をかける。
「ユエ、何してんの?」
「うん? いや、水の中って綺麗なんだなぁって思って。夏とかに海へ入る事はあるけど、見上げる事なんて無いから。あとね、アオちゃん。私、青色好きなの。この水槽の中にある光、人工のものだろうけど青色でしょ? 良いなぁ、綺麗だなぁって見てたの」
ユエはそう言って、僕に微笑んだ。
あっそう、と僕は彼女に返事を返し、同じく水槽を見上げた。
確かにキラキラ光って綺麗だし、幻想的ではある。
でも、彼女の住まいであるトリスタン領は海辺があるのだし、夏に魔法を使って海へ潜ってから、この光景を見れば良いだけの話なのでは無いだろうか?
青色が好きって事も、どうせ僕の髪と目の色が青だからだろう、と冷めた目でユエを見る。
おばさんの講義に満足したのか、シャナが僕らを呼びに来た。
次はペンギンという鳥類を見に行くと、姉はテンション高く言いながら僕の腕を引っ張ってくる。
今の僕がここにいたのなら、昔の僕を殴っていた事だろう。
光に照らされるユエは、綺麗で可愛くて神々しいくらい美しかったというのに。
それを、あっそう、だけで済ますとは。
やり直せるのなら、やり直したいと思う。
取り敢えず、この時の僕に言いたい事は、お前の目は節穴かクソボケが、だ。