「珍しい。真子に対して、沈黙を貫くかと思っていたのだが。自分の正体をバラすのだな、カヅキ?」
「もうそろそろ、私だって眠くなってきたんだ。早くお引き取り願いたいんだよ」
大きく欠伸をし、おばさんは叔母様と視線を合わせる。
叔母様は信じられないものを見たかのように、頭を振った。
「嘘、嘘よ!! 夏月さんは、男性のはずでしょう?!」
「生まれ直したら、確率など二分の一だろう。生まれ直した結果、私は女になった。それだけの話だ」
やれやれと、おばさんは肩を竦める。
また嘘だと呟く叔母様に、母様が痺れを切らしたのだろう。
ブワッと魔力風が吹き始めた。
「シャル!! 流石にここで魔法を使うのは…!!」
「安心しろ、ナズナ。気絶させるだけだ。カヅキ、記憶操作をしておけ。真子、お前の短慮さは欠点だ。それが自分の首を絞める事にもなる。お前ももういい大人だ。少しは考えて行動しろ。では、もう会う事もないだろう。息災でな、真子」
母様が腕を横に振る。
叔母様とトウカさんに重力がかかったようで、廊下まで吹っ飛ばされていった。
そちらを見ると二人ともグッタリして動かず、その傍へおばさんが歩いて行く。
「何うっさい…って、何これ?!」
「アオちゃん無事?! 怪我してない?!」
やっと騒動が治った後、ユエとユタカが寝ぼけ眼を擦り部屋から出てきた。
そして、惨状を見てユタカは驚き、ユエは僕の安否を確認してくる。
「僕は無事。シャナもね。あの、母様…」
僕は恐る恐る母様の方を見た。
母様は時魔法を使って部屋の状態を戻しているようで、僕の問いかけに首を傾げる。
「ん? あぁ、驚かせてしまったわね。ごめんなさいね、二人とも。うちの愚妹のカヅキカヅキ発言にイライラしてしまって…」
とりあえずいつもの母様だと、僕とシャナはホッと胸を撫で下ろす。
だが、母様を後ろから抱きしめた父様が、珍しく母様へ怒鳴った。
「だから!! あれはやめろって何度懇願すればいいんだ、シャル?!」
「…煩いわねぇ…別に貴方に向けてないんだから良いじゃないの。耳元で怒鳴らないで頂戴よ…」
耳を押さえ、母様が顔を顰める。
廊下や窓際に倒れていた人達が影に沈み始め、おばさんが篠原家に送り返そうとしているのだな、と思った。
「痴話喧嘩もそこまでにしておけ、二人とも。お前達。目が冴えてしまったかもしれんが、寝ろ。私ももう寝る」
僕らはおばさんの言葉に素直に従い、次の日を迎える。
朝から両親の姿が見えなかったが、どうせ昨日お盛んだったんだろうと、おばさんから言われた。
この時の叔母様が苛烈過ぎて、母様の妹なのかとほんの少し疑ってしまった。
人の話全く聞かなかったし。
母様と性格が真反対過ぎて、あれが母親でなくて良かったと本気で思った。
◆◆◆
「アオ。起きて、アオ。もう朝だよ?」
体を揺さぶられて、僕は目を覚ます。
目の前がボヤけていて、僕はサイドテーブルに置いてある眼鏡を手に取り、かけた。
横を見ると、ユエが不思議そうな顔で僕を覗き込んでいる。
「…ごめん、ユエ。今王歴何年?」
「え? 寝惚けてる? リューネ王歴、527年だよ? アオ、体調悪い?」
ユエが僕の額に手を乗せて、心配そうな顔をした。
確か、僕が13の時521年だったから…。
「あー…うん、寝惚けてる。おはよう、ユエ。なんか、昔の夢見てた…」
「昔っていつ?」
僕は起き上がり、彼女を抱きしめる。
いつものように甘い匂いと柔らかい体に、やっとこれが現実なのだと頭が認識し始めた。
「僕らが中等部生だった時、日本に家族旅行へ行っただろ?」
「あー、あの時。2泊3日なのに、1日目の夜に凄い事起こったあれ。あの日の夢見てたんだ、アオ」
うん、と僕は頷きながらユエの胸に顔を埋める。
別に夫婦なんだから、これくらいは良いだろう。
ユエは僕の頭を撫でながら、苦笑したようだ。
「あの時のアオ、結構冷たかったよね。友人以下みたいな対応で。私やユタカも大概だったけど」
「あれより前に君を好きだと自覚出来ていれば、デート出来たのにな、って少し残念に思うよ」
クスクスと、僕の頭上でユエは笑う。
それすらも良い思い出だとでも言うように。
「あの時の写真まだあるけど…アオいる?」
「いる。頂戴、ユエ。あ、その前に」
僕は顔を上げ、ユエにキスをする。
式を挙げてから、まだ一ヶ月しか経っていない新婚なわけで。
「おはようのキスするの、忘れてた」
「もう……馬鹿」
少し頬を染めるユエが可愛くて、僕はニッと笑う。
しかし、行けるならまた日本へ行ってみたいものだ。
今度は、ユエと夫婦として。
あと、翻訳魔法は僕も彼女も必要はないだろう。
だって、前世は日本人だったわけだからね。
長くなってしもうた…
番外編1、これで終了です