もうそろそろ秋も終わりかけで、肌寒さを感じ始めた頃。
僕はカヅキおばさんに呼び出されていた。
「遺跡の調査ですか?」
学校にあるカヅキおばさん専用の部屋で、煙草に似て非なる物であるエリクシールを吸いながら、おばさんは僕に遺跡の調査に行くよう告げる。
なんでそんな話を僕に持ってくるのだろうか?
カヅキおばさんは少しイラついているようで、机に置いた資料を指でトントンとずっと叩いていた。
「最近見つかったものらしいんだが、危険性がないか調査してこいとギルドマスターから私に話が来てな。忙しいと断ったのだが、だったら生徒の実習に使えばいいときたもんだ。お前なら、少しの危険性があった所で排除出来るだろう。授業も多少遅れた所で、挽回できる頭も持っているしな」
「はぁ…。ですが、立花先生。一応ではありますが、僕は王太子です。僕の次の候補はいますが、危険な任務なんて…」
わかっている、とカヅキおばさんはため息を吐く。
若干頭が痛そうにしているのは、おばさんが色んな事を抱えて仕事しているせいだろうか。
他の人達に任せられない事情でもあるのか?
おばさんは僕に、今までずっと叩いていた資料を渡してくる。
チラリと軽く見たが、半径30キロと結構大規模だ。
「その為に、ユエとユタカも連れて行かせる…そんな目で見るな。わかっていると言っているだろう。うちの娘達の実力はお前も知る所だとは思うが、頭の方も誰に似たのか優秀でな。少し抜けた所で問題はない。逆にシャナとツルギは駄目だ。ツルギはともかく、シャナの頭が残念でな」
ユエの名前が出された瞬間僕の目つきが鋭くなったのを見て、カヅキおばさんは肩を竦める。
あと、シャナの頭が残念なのはいつもの事だ。
「それ、二人の担任にも話通してあるんですか」
「勿論だとも。そこら辺は抜かりない。ユエを連れて行きたくないのはわかっている。だが、あれは私の娘だ。大事な人が自分から遠い場所で危険な目に遭うとわかりきっているのに、それを見て見ぬ振りなど出来ない。ユエは私の性質をよく受け継いでいるようだ」
くっくっ、と笑い始めたカヅキおばさんだったが、僕は全く笑えなかった。
「それ、僕の盾になって死ぬ可能性もあるって事でしょう? 笑い事ではないんですが」
「だからこそユタカも連れて行かせるんだ。あれも諦めは悪いが、ユエ同様優秀だ。それこそ、ユタカを盾にしても構わんぞ」
この人、自分の娘を何だと思ってるんだ?
そんな事を思っていると、僕の心を読んだのかカヅキおばさんは鼻で僕の事を笑ってくる。
「たかが少しの外傷で死ぬよう鍛えてはいない。攻撃に対する反応速度と、俊敏はお前よりも上だ。魔法の腕は二人ともからきしなのは…まぁ、私に似たのだろうな。使えはすれど、コントロールが上手く出来ていない所とかな」
おばさんがこういう性格なのは知っているが、二人とも連れて行くには危険すぎるのではないだろうか。
返答できず黙っているとおばさんは指を鳴らす。
魔法の発動を感知して、僕は後ろを振り返った。
後方に魔法陣が展開され、ユエとユタカが転送されてくる。
「お前達、グンジョウについていけ。自分に出来る範囲でグンジョウを守れ。これは母親である私の言葉ではない。王妃殿下のお言葉である」
母様の名前が出て、僕はそういう事かと舌打ちしたくなった。
最近、母様には予知能力が付与されたらしい。
それが発覚した時、サンテブルク教会に殴り込みに行こうとする母様を、父様と止めたのはほんのこの間の事だ。
これも、予知で見た出来事だという事か。
城にいたら問い詰められた事だが、今は2学期の真っ只中だ。
城に飛べる魔力も、僕には備わっていない。
「立花先生、一つ聞かせてください。この出来事で、誰か死者は出ますか?」
「出るなら、すべての仕事を投げ打って私自身が出ている。王妃にもそれは確認済みだ。これはグンジョウ、お前に関係する事柄らしい。それ以上は教えてくれなかった」
冬休みに帰ったら、母様を問い詰める必要性があるな。
僕は深いため息をついて、カヅキおばさんに頭を下げた。
「わかりました。その依頼、お受けします。ですが、危険性があると判明した時点で撤退します。それで宜しいですね? 立花卿」
「本来ならお前に任せるべきではないのは理解している。恨み言はお前の母親に言うんだな、殿下」
それは勿論、冬休みに延々と言うつもりだ。
◆◆◆
グランドラント遺跡と名付けられたここは、地下の空洞の中にあったらしい。
今まで発見されなかったのは、入り口が岩と土で塞がっていたからだとか。
この間の土砂崩れで入り口が露出したので、近くの住民が入り口を拡張し、人が通れるぐらいまで広げたそうだ。
入り口付近を探索したギルドの所属員は、ここは太古の都市だったのでは、と報告している。
ただこの都市をサーチした所、あまりにも規模が大き過ぎたので、何か危険性があるのではとカヅキおばさんに話が回ってきたらしい。