その言葉で、僕はユエに抱いていた劣情が引っ込んだのだが、逆にユエがシャナを睨みつけた。
「シャナちゃん? アオとお風呂入った事、ツルギにバラしても良いんだよ? 私、ツルギと同じクラスなんだからね? アオからじゃなく、シャナちゃんから誘ったって言うよ? だって事実だもんね。ね、シャナちゃん?」
ユエの顔を見たシャナが、ヒィッ、と引き攣った悲鳴を上げる。
彼女に弱み握られてるのは、僕もなんだけどなぁ…。
それ言われた瞬間、ツルギに殴られやしないだろうか、僕。
「アオも同罪なのは、分かっているようで何より」
「はい、すみません…」
謝罪しながらも、僕は思う。
初夜で絶対、ドロドロに泣かせて啼かせまくってやる…!!
心の中で拳を握っていると、両隣にいた女性陣から冷ややかな目を向けられた。
だから読むなって言ってんだろ?!
僕のプライバシーとか、配慮してくれないわけ?!
結局ユエは、ローストビーフを選んで自分の席へ戻り、シャナはシャナでうちの弟サイテーとか言って、ユエが選ばなかった方のスコッチエッグを取ってから、僕から離れていく。
食欲が失せた僕はそのままトボトボと自分の席に帰り、テーブルに突っ伏した。
「自業自得だろ。我欲出過ぎ。ちったぁ取り繕えや、兄ちゃん」
「うっせぇ…」
いつの間にサラダを取っていたのか、弟が野菜を食いながら僕に注意してくる。
これ、就寝前の自由時間にユエと話す機会を持つ、なんて事…出来ないんだろうなぁ…。
いや、待ち合わせ場所も決めてないから、実質無理ゲー?
終わった…。
はは、なんて乾いた笑いが出たが途端、携帯が震える。
誰だよ。
どうせ母様辺りが、楽しんでるかー、とかメッセ飛ばしてきたんだろ。
そう思い、携帯のロックを外す。
しかし、僕の予想に反してそれはユエからで、夕飯が終わった後、外の庭にある噴水へ来るよう書いてあった。
これあれかなぁ…怒られるパターンかなぁ。
城じゃないから、そんな派手にイチャつけるわけないし。
先生方の巡回もあるから、目は厳しいはずだし。
僕は分かったと返信し、ポケットに携帯を入れた。
夕飯の時間が終わり、僕はユエに指定された噴水に行く。
少し暗がりになっている所で、彼女が僕を待っていた。
「ユエ、あの…」
「アオのえっち。ちょっとビックリしたよ。人いっぱいいるのに、あんな事考えるんだもん。その…来月アオの誕生日だよね? 婚姻届書いてもらっても良い? 受理されたら…あの…」
顔を真っ赤にして言い淀むユエを、僕は抱きしめる。
「うん。考えてた通りの事してあげる。覚悟しててよ、ユエ」
「…うん」
僕の背に腕を回し、彼女は甘えるように頬擦りしてきた。
可愛いと思いつつ、ユエの頭を撫でる。
僕の彼女マジ可愛い。
ヤバい。
周り暗いし、少しくらいつまみ食いしても…。
「アオ?」
「分かってます。分かってるんで、あの、爪立てないでもらって良いですかユエさん。痛いです」
ユエは僕を見上げながら、背中に爪を立ててくる。
普通の彼女の爪だったなら痛くはないのだが、魔法を使って伸ばし、硬質化しているのか刺さってとても痛い。
「アオが悪い」
「はい、その通りです」
修学って言っても旅行だからかなぁ。
少し羽目を外しそうになる。
僕はユエから離れ、また彼女の頭を撫でた。
もう部屋に帰ろうかと言いながら。
「明日の自由時間、デートしてくれる?」
「勿論。君とのデートなら、いくらでもしたいからね」
上目遣いで僕を見る彼女の頬に、キスを落とした。
◆◆◆
夕飯前の宣言通り、シンクは和室に布団を引いてそこで寝ると言い、好きにしろと思った僕は、空いてる一室に置いていた自分の荷物から本を取り、収納空間に入れていく。
ユエとの約束を守るためだ。
そして就寝時間まで、ユエとメッセのやり取りをして寝る。
アラームが鳴る前に起きた僕は、今何時だと携帯を手に取り見た。
「あ…やべ……」
画面がはっきり見えたのと目元の線に、僕は眼鏡をかけたまま寝てしまったと気が付く。
おやすみとユエからのメッセを見た瞬間、寝落ちしてしまったのかと思った。
「何だっけ…寝落ちって気絶と一緒って話…だっけ……あぁ…ユエにまた怒られる…」
また眼鏡かけて寝たの?!
なんて、彼女の声が脳内で普通に再生される。
まぁ、あれ以来予備の眼鏡収納空間に入れてはいるけど…それも全部壊したら、ルカさんからどんな叱責を受ける事やら。
「ユエに会いたいなぁ…」
彼女を抱きしめて二度寝したい。
そんな願望叶うわけもなく、僕は起き上がって寝室の外に出る。
先ほど確認したら午前四時。
僕以外はまだ寝ているようだ。
リューネとの時差を考えると、13時間程だから…。
今向こうは、昨日の午後3時くらいかな。
航空艦の進みが早いから、あんまり時差を感じずに来れるけれど。
今頃母様は、おばさんとティータイム中だろうか。
二度寝をしても良いけれど、そんな気分になれなくて部屋の外に出た。