ホテルの庭に来てみると、冬の匂いはリューネと変わりなく、だが星の位置は少し違うような気がする。
異国に来ているんだなぁ、なんて星を見上げながら思った。
空が白むまでそこにいたせいで体が冷え、僕はそそくさと部屋に戻る。
「お。お帰りー。どこ行ってたん?」
カーマイヤーが洗面台で歯を磨きながら、外から帰って来た僕に問うて来た。
彼以外の二人はまだ寝ているようで、エミル君の部屋からはイビキが聞こえてくる。
ここまで聞こえるって相当なので、エーリは結婚した後大変だな、なんて他人事のように思う。
寝てる間なんて、誰も分かんないしね。
もしかしたら、僕も酷いかもしれないし。
「起きた後、二度寝する気になれなくて外にいたら、体冷やした。風呂入る」
自分の部屋から一式取ってきて、カーマイヤーの横を通って風呂場に直行する。
体を洗っている最中、浴室の扉が開き、カーマイヤーが顔を出した。
「ユエ嬢来たら、ここに通そうか?」
「やめろ馬鹿!! むしろそんな事したら、お前が立花先生に殺されるからな?!」
おばさんの名前を出すと、怒鳴んなよ冗談じゃん、と彼は引っ込んで扉を閉める。
冗談に聞こえないし、何ならユエは僕と風呂に入る事を画策しているから、冗談にもならない。
もし彼女がここに突撃してきたら、理性が切れる事請け合いである。
風呂から上がって、タオルで頭を拭きながら出てくると、ソファーにユエとユタカがいて僕は固まった。
カーマイヤーと、起きたエミル君やシンクと談笑している彼女達を、思わず無言で見つめてしまう。
「あ、グンちゃん。おはよう」
「……おはよう。なんでいるの君達…」
僕の姿を見たユタカが朝の挨拶をし、それに返しながら疑問を投げかけた。
「見苦しくないように髪を結ってみたんだけど、ちょっとしっくり来なくて。シンクに髪を結ってもらいに来たの」
「私はアオに会いたかったから付いてきた。ユタカと同じ班だし。おはよ、アオ…って!! また髪乾かさないで出てきたの?! もう!!」
ユエはソファーから立ち上がり、僕の方にズンズンと歩み寄ってきたかと思えば、僕の腕を掴み洗面台に連れていく。
備え付けてあった椅子に僕を座らせ、部屋の付属品であるドライヤーを出し起動させて、温風を出しながら髪を乾かしてくれる。
「風邪引くってば!!」
「そんな簡単に引かないってば…」
とは言っても、ノーム2の月にユエの前で倒れてしまった身からしては、彼女の心配は尤もなもので。
僕の髪を乾かす為に、その手が頭を撫でる。
心地良くて、僕は目を閉じた。
「アオ? 寝ないでよ?」
「寝てないよ。君の手が心地良いから、寝そうではあるけどね」
目を開け、鏡越しに彼女へ微笑む。
愛おしいと、目で告げながら。
そんな僕の表情を見たユエは、少しだけ目を逸らした。
「…ずるい。そんな顔されたら、怒れないじゃない…」
「怒らないで欲しいんだけどね」
髪を乾かし終わったのか、ユエがドライヤーを止め、片付け始める。
僕はユエの方に向き直り、彼女を抱きしめた。
座っている関係上、僕の顔はユエの胸に埋められる形になったが。
「ア、アオ…?」
「好きだよ、ユエ。髪乾かしてくれてありがとう。愛してる」
甘えるように、抱きしめる腕へ力を込めると彼女はクスクス笑いながら、僕の頭を抱きしめてくれた。
「苦しいよ、アオ」
「ごめん。だけど、暫くこのままで」
シンクから扉をノックされるまで、僕らはそのまま抱き合っていた。
◆◆◆
2日目に観光する場所は、ベルカの総本山であるエルトランド大教会。
バスから降りる前、駐車した瞬間から空気が変わり、何となく王都にあるサンテブルク教会に似た雰囲気を感じる。
それは降りてからも変わりなく、なんだこれと首を捻った。
「どうしたの、グンジョウ?」
僕の後から降りてきた姉が、首を捻る僕を見つけ尋ねてくる。
「いや…なんか、空気違くない? ホテルにいた時と今と」
「聖域だからじゃね? 何、気分悪い系?」
僕を覗き込むように、シンクが隣に立ち見てきた。
フルフルと、僕は首を横に振る。
「気分は悪くない。むしろ空気が澄みすぎているのに、違和感を感じているだけ。そっか、聖域か…父様から聞いた事ある。祖国でもそうだったって。祖国であるスェッド国の白の女王様が、そんなものを張っていたとか何とか」
それでも、統合騒乱には耐えられず皆消えてしまったけれど。
ガイドの教会騎士の案内で、僕らはエルトランド大教会に続く道を歩く。
と、行列が出来ている場所を見たシャナが、僕の服の袖を引っ張ってきた。
「ね、グンジョウ。あれ何の店?」
「共通語の勉強、筆記までしたはずなんだけど……痛いって…! 皮膚を抓るな…!!」
小声で抗議するが、姉は僕を睨むだけで何も言わない。
ついでに抓っている場所も離さなかったので、僕は眉を寄せながら言う。
「パン屋とフルーツジュース屋だって」
「成る程。あとでツルギ君と来てみようかな」
列へ並んでる間に、時間切れにならなきゃ良いけどな。
内心で舌を出すと、脇を叩かれた。
この暴力姉、ツルギに怒られてしまえ。