父様と母様の馴れ初めを聞いた事が、一度だけある。
母様は初め、記憶を失っていた。
それを、ハルト叔父様を助けた事によって王族親衛隊に入隊する運びとなり、父様と出会ったらしい。
父様は母様を一目見た瞬間恋に落ちたらしいが、母様の方の最初の印象は、馴れ馴れしい奴だったみたい。
それから一緒に時間を過ごしていくうち、母様も父様に恋をしたそうだ。
魔王を倒した事で母様は貴族の養女となり、その当時の法でどうやって母様と婚姻を結ぶか考えていた父様は、内心歓喜した。
それからあれよあれよという間に結婚して今に至る、と。
そのせいなのか、法を改正して王族でも平民と結婚出来るようにしたら、婚約者を探す家がほぼいなくなった。
このままでは、家が取り潰しになるという苦情もあったのか、高等部を卒業するまでに婚約者を定めなければ、卒業後家が選んだ婚約者と結婚する、なんて法律が出来上がってしまった。
「面倒だよね…」
「まぁ、好きな奴いねぇとそうなるよな。おっと、先生が来たようだ」
僕達の担任である、カヅキおばさんが出席簿を持ちながら入ってくる。
席に着席した僕達は、カヅキおばさんの点呼に返事をしていく。
軽くこれからの予定とかの連絡事項を話し終えたおばさんは、ホームルームを終わらせた後、僕の方を見て手招きした。
何だろうと席を立ち、カヅキおばさんの元へ行く。
「何でしょうか、立花先生」
「昨夜はすまなかったな、グンジョウ。うちの馬鹿娘達が。あいつらは地獄よりも厳しい場所に送っておいたから、暫くは学校に来れないだろうさ。安心してくれ」
厳しい場所?
本国であるオーシアに送ったわけではないのか。
まぁ、被害者ではあるが、彼女らと会えなくなるのは少し寂しいものを感じる。
「そうですか。ちなみにどちらに?」
「様子でも見に行くつもりか? やめておけ。師匠の所に頭下げて連れてったんだ。とばっちり食うぞ」
カヅキおばさんが言う師匠。
僕とシャナのお祖母様であり、母様の義理の母親である、ターニャ・テスタロッサ夫人。
とても礼儀に厳しく、僕やシャナもテーブルマナー以下、全ての礼儀作法を叩き込まれた。
シャナも半べそかきながら、一生懸命やっていたんだよな。
別にお祖母様は、ただ厳しいだけの人ではなかったから、僕もシャナも嫌いになんてならなかった。
母様から聞いていたであろう僕らの好物を、練習の合間に食べさせてくれていたのだから。
「別に、お祖母様はそんな事なさらないと思いますけど」
「いいや、師匠は恐ろしい人だ。しごかれた私が言うんだ、間違いない…」
自分の腕を擦りながら、カヅキおばさんはそう言った。
一体僕らが生まれる前に何があったというのか。
◆◆◆
2人がいなくなって、数日が経った頃。
カヅキおばさんが寮の部屋でゆっくりしてた僕らの所へやって来た。
「すまん、シャナ。駄賃をやるから、ちょっと着いてきてくれないか?」
「え、いらないけど。どうかした?」
一応、僕らも母様からお小遣いという名目の預金を持ってはいる。
だから、駄賃と言われても別にいらないという返事しか返せないのだ。
「いや、あいつらがな…こんなのはシャナでも出来ないはずなのに、なんで自分達がやらなければならないと駄々を捏ねてな…」
一体何をやらされているのか、察しがいった。
シャナは僕の方を見て、首を傾げている。
「あたしでも出来ないって何? てか、ユエちゃんとユタカちゃんどこ行ってるの?」
「テスタロッサのお祖母様のとこ」
それを聞いて、シャナは合点がいったようだ。
なるほどと呟いて、姉はカヅキおばさんに着いていくと言う。
「僕もシャナが心配なんで、着いて行っても良いですか?」
「気配遮断するなら連れて行っても良いが…」
また高度なテクニックを要求してきたな、おばさん…。
それこの間、母様からの訓練で身につけたばっかりなんですけどね。
腕が鈍るからという理由と、将来自分達に何かあった時は、賊が僕の命を狙ってくるだろうという事で、長期休暇で城へ帰る度に父様から政務を、そして母様からは戦闘訓練を受けていた。
力量が違い過ぎて何度吹っ飛ばされた事だろうか。
流石、父様の元専属護衛だと感心した。
その細腕のどこに、そんな力があるのかと驚いてしまったくらいだ。
「一応出来ます」
「そうか。ならついてこい」
おばさんは自分の影を伸ばし、ゲートを作る。
最初にシャナが入り、次いで僕も入った。
すぐに景色が変わり、テスタロッサの屋敷に転移したのだと気づく。
僕は直ぐ様気配遮断のスキルを使い、二人に勘付かれないようにした。
おばさんとシャナが扉をくぐるのを見届け、僕はユエとユタカに見えないよう、扉の陰に隠れる。
「師匠、シャナを連れてきました」
二人が駄々を捏ねたせいで、お祖母様も呆れ果てたのだろう。
なら、見本を連れてくるようにとカヅキおばさんへ言ったに違いなかった。
「お疲れ様です、カヅキ。姫殿下、お久しぶりです」