姉と姉弟喧嘩を繰り広げている間に、エルトランド大教会の下に着く。
最初の印象は白亜の城。
リヒト城に匹敵するんじゃないかというくらい、大きな教会だった。
長く続く大階段を、僕達は登って行く。
「グ、グンジョウ…なんでお前…そんなサクサク登れんの?」
僕の後方にいたのか、エミル君が息も絶え絶えで僕に聞いてきたので、彼へニヤリと笑いながら答えた。
「実は、秘密の特訓してるんだよね。だから体力があるんだよ」
「…さ、流石、次期国王…! 俺、お前の事…支えられるかなぁ…?」
ヒィヒィ言いながら、エミル君がそんな事を言う。
本来なら、妹であるツェリを国外追放した僕を、内心では憎んでいてもおかしくないのに。
少し目を丸くし、立ち止まって自分を見ている事に気付いたエミル君は、僕と同じ段数に上がった時、胸を軽く叩いてくる。
「ばーか…お前と幼等部からの付き合いなんだから、あんな事でお前を憎むわけないだろ…むしろ、妹が迷惑かけて悪かったな、グンジョウ。お前には嫌な思いばっかさせちまった…止められなかった俺も悪かったよ。でもな、はっきり言うぞ」
エミル君は息を整え、僕を真っ直ぐ見据えた。
「俺は、お前に感謝してる。陛下に言ってハインリヒ家を取り潰しにしなかった事もだが、何より妹の命を助けてくれた事。俺は神よりも何よりも、お前に感謝する。だから、親友としても臣下としても、お前を支えていくつもりだ。俺の得意分野で、だけど。ったく、小っ恥ずかしいな、これ」
彼はそう言い、階段を登って行く。
僕は嬉しくなり、早足で階段を駆け上がってエミル君に追いつき、彼の肩に腕を回した。
「やっぱ、僕の親友は最高だな。ツェリ、元気そうだったよエミル君」
「あー、二学期の頭くらいまでオーシア行ってたんだもんな。そっか、元気にしてるか。そりゃ良かった」
ニッとエミル君は笑う。
リューネに帰った後、ハインリヒ卿に土産話の一つとして語ってもらおう。
階段を登り切り、聖堂の中へと案内される。
サンテブルク同様、奥の方に石像が見えた。
あれがイオン神なのだろう。
聖堂内は撮影禁止という声と共に、中を撮ろうとしていた生徒達が携帯を下ろす。
目の端にユエとユタカが見えたが、二人ともイオン神に祈りを捧げていた。
無神論者かと思っていたのだが、二人は何を祈ったのだろうか?
話したらご利益がなくなりそうだから、聞かないでおくけれど。
ガイドの教会騎士の話を聞き、三時間後にバスの駐車場集合という事で自由時間になる。
僕はユエの所へ行こうとしたのだが、その前に彼女へ声をかける一団がいて、歩みを止めた。
「ユエ嬢、俺達と一緒に自由時間の間行動しない?」
「いつも殿下達と一緒で、息苦しくない? 大丈夫?」
「ちょっとくらい他の男と遊んだって、バチ当たんないって」
ユエに声を、というよりはナンパかあれ?
ユタカと一緒にいたから、彼女にも声をかけているようだ。
それを見ていたシンクが、どうしようかなぁ、と状況を傍観している。
「おい、シンク…あれ…」
「あぁ。助けに入った方が良いんだけど、な」
じゃあなんで動かないんだよ、お前。
二人をナンパしている同級生を止めようと、僕は一歩踏み出した。
瞬間。
「息苦しい? 貴方達と一緒に行動する方が息苦しいので、さっさと目の前から消えて下さいませんか? というか、同じ空気を吸っているのも悍ましいので、この世から消えて下さったら私とても嬉しいんですけど」
「他の男と遊ぶって選択肢が、全く意味わかんないんだけど。というか、自由時間なのにあんた達と話してる時間さえ勿体無い。退け、去れ、邪魔だ。不埒な輩には鉄槌を、って立花家の教えなの。ママには怒られるけど、ここで魔法ぶっ放してあんた達消し炭にしてやっても良いんだよ?」
ユエ、それ駄目な奴!!
魔法を使うのもだけど、ここ大聖堂だから!!
歴史的建造物に傷付けたら、国際問題!!
僕は慌てて、彼女達と男子生徒の間に割って入る。
「ユエ、あのね…?!」
「ダメだよ、ユエ。こういう時に使う魔法は、攻撃魔法じゃなくて影魔法だから。ゆっくり…ゆーっくり、使用者の養分になるように溶かして溶かして…骨の一つも残らないくらい溶かすの。ほら、貴方達。私達の養分になれるなら本望ですよね?」
ニコリと、ナンパしてきた男子生徒達に、ユタカが微笑む。
ヒイッ、と悲鳴を上げて、彼らは転がるように逃げて行った。
ユエへ注意しようと言葉を紡いだが、ユタカの気迫に僕も呆気に取られる。
そんな僕らの様子を見ていたシンクが、クックッと笑いながら近付いてきた。
「ユタカ、脅しすぎ…!」
「本当に出来るもの。でも、あんなのを養分にはしたくないなぁ。不味そう。するんなら、お野菜の屑とかの方が、エコだよね?」
クスクスとユタカも笑う。
本気に見えたけど、あれ脅しだったの?
「アオ、来るの遅い。学園祭の時も傍観してたよね? 彼女が襲われても平気なの?」
僕の腕に抱きつき、ユエがムッとしながら見上げてくる。