「女性はみんな、妊娠すると魔力が不安定になるって。あと悪阻とか色々出るって聞いて…」
「悪阻はまだ出てないけど、その症状リューネ人だけでしょ? 私オーシア人だし」
オーシアでも同じじゃないんだ。
それは初めて知った。
「そうなんだ…いや、本当にごめんユエ。その話、おばさんと母様にはもうしたの?」
まだ、とユエは今度こそ魔力を霧散させ、握っていた拳を解いて振る。
「サカネ先生に診断して貰って、ちゃんと機械でも確認した。でも、アオへ一番に報告したいから、ママにも王妃様にも黙ってて貰うようにお願いしてたの」
「…そっか……そっかぁ……っ!!」
浮気とかの話じゃなくて良かったけど、突然の事でそこの思考がストップしていた僕は、彼女の前で蹲った。
今更ながらに実感したのだ。
僕、父親になるんだ。
嬉しい。
とても嬉しい。
子供を産む辛さは、分かち合えないけれど。
それでも、彼女のサポートはしていこう。
…父様とバトルしないといけないな、これ。
流石に身重の妻を置いて、出張になんて行けるわけがない。
「アオ? どうしたの? 体調悪い?」
「…大丈夫。ありがとう、ユエ。僕、今とても嬉しいんだ。父親にならせてくれて、ありがとう。愛しているよ、ユエ」
立ち上がり、ユエを抱きしめる。
ゆったり目の服を着ていたのも、そういう理由からだったのか。
疑って本当にごめん。
僕の背に腕を回したユエは、ふふふ、と笑った。
「陛下にちゃんと言ってね?」
「勿論だよ。君を置いて行けるわけない。最悪殴り合いの喧嘩に発展しても、絶対説き伏せてみせる」
その前に、母様達へ報告に行かなければ。
父様の所はその後だ。
今の時間、5番目の庭でお茶しているはずだからと、彼女を伴い歩く。
庭に到着すると、予想通り母様とおばさんがお茶をしていたのだが、その二人の前。
地面に頭を擦り付けて、土下座をしている蒼髪の男がいた。
蒼髪の男性なんて、僕か二人の弟しかいないわけなのだけど。
あの体格からして、土下座しているのはシンクだろう。
「本当にすんませんでした!!」
僕とユエが唖然とシンクを見つめていると、椅子に座ってお茶を飲んでいたおばさんが、面白そうなものを見る目で弟を見る。
「シンク。お前、特殊な性癖を持っているんだな? 土下座が趣味だったとは、いやはや。驚嘆に値する」
「いや、別に趣味なわけじゃ…性癖でもありませんし…」
弟はそう言いつつ、全く頭を上げようとしない。
一体何をやらかしたのか。
入り口で立ち往生をしている僕らに気付いたのか、母様が苦笑しながら手招きをしてくる。
僕はユエを伴い、二人に近付いた。
「おぉ。お帰り、グンジョウ。オーシアはどうだった?」
「貿易関連や技術関連の事で、陛下へご報告に行く前に…お二人へ先に報告をしておこうかと。もしもの時は、お力添え頂ければ…」
間怠っこしい言い方はよせ、とおばさんから怒られたので僕は簡潔に二人へ言った。
「ユエが、僕の子を身籠りました」
「お前も?!」
僕の言葉で顔を上げた弟が、驚いた顔で振り返る。
お前もって事は…。
「まさか、ユタカもなのか…?」
僕の問いに弟は頷き、また二人…というよりかは、おばさんに土下座し始めた。
「本当にすみませんでした!! この責任はちゃんと取ります!!」
「何故謝られているのか、全く理解出来ないんだが? ユタカが妊娠したから、なんだと言うんだ。シンクお前、私の研究室に入って金を稼いでいるだろう? 生活の基盤も出来ていたはずだ。何を謝る必要がある? 責任は取ると言いながら、逃げる算段をしているわけでもあるまい?」
それは絶対にないと、シンクは顔を上げ真剣な顔でおばさんを見る。
「ユタカを幸せにします。産まれてくる子も、絶対に」
「なら別に良い。子が産まれる前に、ちゃんと籍は入れろよ」
はい、と返事をし、シンクは立ち上がった。
弟の件で驚いてはいたが、まぁ、めでたい事が重なっただけなので、今度は父様の所へ言って口論しなきゃな、と内心で気合いを入れる。
しかしそれも、母様からの爆弾発言で霧散した。
「そういえば、星読みで見たのだけれど。あたしも来年妊娠して出産するわ。年齢的にこれで最後でしょうけど」
「「……はぁ?!」」
お茶を一口飲みつつ言う母親に、僕とシンクは目を見開いて驚く。
私もだな、と言うおばさんに、今度はユエが驚きの声を上げた。
「ママ?! 自分の年考えて?! 一番上と20も離れてるって、もうそれ私の子供って言っても疑われないレベルなんだけど?!」
「待てユエ。それ母様にも刺さる」
おばさんに対して言った言葉なのだが、僕は彼女の肩に手を置き、ストップをかける。
確か、母様とカヅキおばさんは同い年のはずだ。
僕はチラリと母様の方を見る。
怒っている様子はなく、むしろ苦笑いを浮かべている辺り、母様にも刺さってしまったらしい。
いや、僕も彼女と同意見だけれども。
というか、20歳差…ユエとユタカの出産予定は来年になるだろうから…うわ、僕の弟か妹かわからないけど、子供と弟妹が同い年…。