ちなみに婚姻届もだが、離婚届を受理してもらう手段は三つある。
一つ目は国王である父様が許可をした場合。
これは大体、貴族が多いだろうか。
貴族が離婚とかあまりない事ではあるが、片方の家が下流だったりすると、配偶者から酷い扱いをされていても離縁出来ない場合があるという。
その時に、国王の許可を得れば出来るというのだ。
二つ目は、サンテブルク教会のジルベルト卿が許可をした場合。
滅多にない事だと母様は言うが、王族の離縁関連でこちらを使う事があるという。
ヴェスタ神の御前で愛を誓ったにも関わらず、離縁したい王族はこちらで神に祈りを捧げ、ジルベルト卿に離縁したい旨を告げると、即日でしてくれるらしい。
三つ目は、学園都市を作った年に各地方へ設置された役所だろうか。
こちらを利用するのは主に平民だ。
父様や母様が学生時代、戸籍という物は貴族ぐらいしかなく、平民達は出生しても戸籍がなかったそうだ。
それを制定したのが、父様が王を継いだ時だったらしい。
母様が使うとしたら二つ目だろうなぁ。
父様が許可するわけないから。
というか、母様めっちゃ良い笑顔…。
未だに、結婚記念日忘れられたの根に持ってるんだろうなぁ…。
それを反面教師にして、僕は忘れないように一週間前から、リマインダーで通知するようにしてはいるけど。
「………あの、シャル…?」
「返事はイエスかノーかしかないわよ、ナズナ? 今即決して頂きましょうか。さぁ、どうします陛下? あたしと婚姻を続行したいのなら、条件を飲むか。嫌なら離縁するか。どちらにします?」
笑顔で圧かけてるなぁ…。
総帥モードで話してないから、母様は本気なんだろう。
僕はユエの方を見る。
彼女は少し眉を下げて、心配そうに二人を見つめていた。
自分達の事で、義両親が離縁するなんて、と思っていそうである。
ユエの肩を抱き、僕は微笑む。
顔を上げ僕を見た彼女は、困惑した顔をした。
なんで笑っているのかと思っていそうだ。
だって、どうせ折れるのは父様だろうから。
結果が分かりきっているのに、慌てる必要性は皆無だ。
「……わかった…条件を飲もう…」
物凄く眉を寄せ、父様が予想通り折れた。
その返事を聞いた母様は、満面の笑顔になる。
「孫が幼等部に入るまで、グンジョウの仕事も貴方がなさいな。別に良いわよね? 貴方、仕事が忙しいからとあたしを放置していたのだから。グンジョウ達を身籠もって、一緒にいたの全体で二月くらいだったかしら?」
「…………出張から帰ったら、覚悟しておけよシャル…!」
悔しそうに言う父様の視線を、母様は扇子を広げて、ほほほと笑う事で躱していた。
◆◆◆
僕の代わりに父様が出張へ行く事になり、帰って来たら来たで母様が寝室から出れなくなるという、そんな日々を過ごしていたある日。
ユエと一緒に、城の庭で日光浴をしていたシルフ2の月、彼女の方から軽く振動が来た。
最近眠いと言っていたユエの方を、僕はチラリと見る。
スースーと僕の肩を枕にして、彼女は寝息を立てていた。
なんだ、今の振動?
ユエが動いた様子はないし…。
幸いにも悪阻はなく、子供も順調に育って来ているとサカネ先生から聞かされてはいたが、子供を身籠もっているのはユエなので、彼女の体調を気遣うくらいしか、僕には出来ないのだ。
「大きくなったなぁ…」
彼女を起こさないように、僕は呟く。
本を片手で読み、もう片方はユエの肩を抱いていたのだが、大きくなった彼女のお腹を見た。
太ったみたいで少し嫌だと、苦笑いしていたユエを思い出す。
太ってても君は可愛いよ、なんて言ったけれども。
本を横に置き、僕はユエのお腹に軽く触れた。
その瞬間、僕の手に何かがぶつかる。
ドンっ、と力強いそれに僕は驚き、固まってしまった。
「いっ…たぁ……ん? アオ? どうしたの、固まって」
衝撃で起きたのか、ユエが目を擦りながら僕を見る。
僕はぎこちなく動き、彼女に尋ねた。
「あのさ、ユエ…子供って、お腹突き破ったりしない?」
「そんな、プレデターだのエイリアンだのじゃあるまいし…。アオ、胎動初めて見れたんじゃない?」
そう言われ、僕は頷く。
ユエとほぼ一緒にいるけど、僕といる時に起こった事はなかった。
僕が所用で彼女の元を少し離れたりしていた時に、胎動があったらしいとは聞いていたんだけど。
僕、父親として嫌われてるのかな、なんて落ち込んだ事もあったんだよな。
「そっか、今のが胎動なのか…凄いなぁ…元気だね、僕達の子供」
「まぁ、あと三ヶ月で臨月だし。それよりアオ。子供の名前決まった?」
彼女に問われ、僕は目を逸らす。
全くと呆れた様子のユエへ、僕は言った。
「僕のネーミングセンス最悪なの、ユエだって知ってるだろ? というか教えたし、シャナだって証言してくれたじゃん」
「それでも父親になるんだよ? 名付けの本とか見て決めてよ」
見まくってるんだけど、良いのがなぁ…。
リューネだけでなく、オーシアやベルカ、果てにはおばさんに頼んで、日本の名付けの本や辞書を片っ端から取り寄せて見てはいるが、中々決まらない。