母様にお願いしようかとも思い話したのだが、自分達の子供でしょう、と言われてしまった。
全く以ってその通りなので、それ以上は言えなかったのだが。
「男の子だって診断されてるんだから、男の子の名前だけ考えれば良いのに」
「万が一女の子だった場合どうするんだよ。あー…自分のセンスの無さが恨めしい…!!」
頭を抱え、僕は蹲る。
妊娠が発覚してから、今まで全く決まらないって…僕の性格クソじゃないかなぁ…。
優柔不断な性格、マジ治したい…。
「産まれるまであと三ヶ月だぞーアオー」
「わかってるよぉ…!!」
ユエから言われ、僕は頭を抱えながら返した。
それからというもの、寝る間を惜しんで辞書やらと睨めっこする日々を過ごす。
あまり根を詰め過ぎないように、とユエからは心配されたが、名付けくらい考えられなくて何が父親なんだろうね、と彼女には返した。
そんな話をした一月後に、母様の妊娠が発覚してちょっと動揺したけれど…まぁ、ベルゼビュートだし、彼女が何かしても対処するのは母様達だしと自分に言い聞かせ、子供の名前どうしよう、とまた頭を悩ませる。
そして、ノーム2の月22日。
女の子ならこれ、男の子ならこれとようやく決まり、父様が出張している間の政務をしていた僕の所へ、ユエ付きの侍女が執務室へ転がり込むように現れた。
「殿下!! 妃殿下が産気付きました!!」
その言葉へ僕は驚き、持っていた書類を落とす。
紙が机や床に散乱し、床へと落ちた書類を書記官達が拾っていく様を、ただ目の端で眺めていた。
「ユ、ユエは…?」
僕の声はとても震えていた事だろう。
狼狽えている僕へ、叱責するように侍女は言う。
「王立病院へ参られました! 殿下もお早く!!」
そう言われ、僕は慌てて執務室を飛び出した。
部屋の中、仕事をしていた書記官の中にエミル君がいてくれたので、後は何とかしてくれると願おう。
玄関口に王族専用の車が横付けされており、それへ飛び乗る。
目的地も何も言ってなかったが、連絡が入っていたのだろう。
車はスムーズに病院へ向かった。
病院の中で走るわけにもいかず、僕は早歩きになりながらユエがいるという分娩室前へ行く。
その部屋の前にシンクがいて、お前の所もかよと頭の片隅で思った。
「シンク、ユタカは」
「ユエと大体同じ時間に入ってった……はぁ……大丈夫かなぁ…出産で死ぬ事もあるって、聞いてたから…いや、おばさんとかが付いてるから大丈夫だと思うんだけど……兄ちゃん…ユタカ死んだら、俺どうしたら良いんだろうな…」
ユエも今、部屋の中に入ってお産に励んでいるのだから、そんな不吉な事言わないでくれないだろうか。
というか、僕がここへ到着する前にいるという事は、ユタカと一緒に来たのかこいつ。
僕は分厚い扉の前に置かれている、長椅子へ腰掛ける。
立ち会いが出来ないのは結構辛い。
苦しんでいるユエの傍に居られないなんて。
ユエが出産する時、傍に居たいとおばさんに言った事があるのだが、血が苦手という男性も多くいたそうで、狼狽えるわ木偶の坊のように突っ立ってて邪魔だわ、という理由で申請しないと無理だと言われた。
ここに最初から通院か入院していて、奥さんが望めば大丈夫らしいのだが。
おばさん何足の草鞋履いてんの、医者の免許持ってるってどういう事?
と言いかけたのはご愛嬌と思いたい。
ユエのカルテは、おばさんとサカネ先生で共有されていただろうし、ユタカは元々ここに通院していたっぽそうだし…。
ん?
なんでシンクここにいるんだ?
ユタカ一人で通院させるなんて事、コイツは絶対しないだろうに。
僕は疑問に思った事を弟に聞いた。
「シンク、なんでお前ここに居るんだ? 立ち会いしないのか?」
「…ユタカから、絶対狼狽えて泣くだろうから、ここにいた方がいいって言われた…」
…うん。
僕だもんな、お前。
最初から立ち会ってたら、僕も狼狽えてどうしたら良いか分かんなくなるだろうから、懸命な判断だよユタカ。
知らせが来たのが昼過ぎだったが、初産という事もあり、陽が落ち空に星が輝く時になっても、産まれたという知らせはなかった。
その間、ユエとユタカの事を聞きつけた姉が、夫であるツルギを伴って病院へ来たが、泣きそうになっている弟を叱咤激励してくれる。
ついでに、僕にも。
「グンジョウもそんな顔しない! おばさんが一緒にいるんだから大丈夫! 絶対二人を死なせるなんて事しない! お産が終わるまで、あたしも一緒にいるから。ね? 情けない顔なんて、奥さんに見せられないでしょ? あんた達、父親になるんだから」
長椅子に二人して座っていたのだが、姉はそんな僕らの頭を撫でてくれる。
やっぱり、シャナは弟妹の事になると本当に頼りになるな、と思った。
深夜になっても知らせはなく、僕は椅子から立ち上がり壁に頭をつける。
そのままだと寝そうだったから。
ユエが頑張ってるのに、寝るなんて事出来るわけない。
シンクも立ち上がり、少し呻き声を上げながら僕と同様壁へと頭をつけた。