シャナはといえば、甘いコーヒーを飲みながら僕らの様子を呆れた目で見ている。
寝てるかと思ってたんだけどな。
「あんた達の様子が心配すぎて、寝れるかっての」
「心読まないでもらって良いですかね、姉さん…」
ん、とツルギからブラックコーヒーを渡される。
ありがたく貰い、蓋を開けて一気に飲んだ。
よし目が冴えた。
シンクもコーヒーを貰い、チビチビ飲み始める。
酒じゃねぇんだからと、苦笑した時だった。
扉がほんの少しだけ開き、看護師が顔を出したのだ。
「グンジョウ殿下、立花先生がお呼びです」
「え、僕だけ?」
ユタカもいるのだから、シンクも呼ばれるべきではと思ったが、まさかと最悪の想像をしてしまう。
しかし看護師はそんな僕の表情を見、マスクの下で苦笑したようだった。
「妃殿下が、殿下を呼べと叫んでいるので…呆れた先生が殿下を中に入れろと…」
「…あ……あ、そっち…ですか…」
ユエが危険な状態じゃなく安心したが、僕を呼べって……行きますけども。
看護師に伴われ、僕はユエがいるであろう部屋に入る。
「うわぁぁぁんっ!! アオぉぉっ!! 痛いよぉぉっ!!」
分娩台と呼ばれている代物の上で、ユエが泣き叫んでいた。
僕は彼女の傍に寄り、その手を握る。
「ユエ、ユエ。来たよ。痛いね、辛いね。代わってあげたいくらいだよ」
「うぇぇぇ…っ!! なら代わってよぉっ!!」
ユエからの握力で骨が折れそうになるが、泣いている彼女の涙や汗をハンカチで拭ってやった。
彼女を励まし、傍にいる事くらいしか僕には出来ないから。
「ユエー、少しいきめ。やっと頭が出てきた」
「やっと?! 何時間ここにいるのよ?! もうやだー!! 帰るー!! おうち帰るぅぅぅっ!!」
何時間と言われたら、もう12時間過ぎてはいるけれど。
それ言ったらユエが発狂しそうだから、黙っておく。
おばさんの指示で、力を入れたり抜いたりを繰り返すユエに、言葉をかけ続けた。
そして。
「ふぎゃあ!! んぎゃあ!!」
赤ん坊の泣き声が、部屋に響き渡る。
看護師が取り上げたその子は、体を真っ赤に染めて元気に泣いていた。
「産ま、れた…。ユエ、産まれたよ…! 男の子だ…! ありがとう、ユエ…! 辛くて苦しい中、よく頑張ったね…! お疲れ様…っ!!」
「…アオ……泣き虫だ、ね…でも、私、嬉しい…な…そんなに、喜んでもらえる…なん、て…」
ユエはそう言い、意識を手放したようだった。
出産は命懸けと聞くが、本当に僕の妻は偉いと思う。
こんなに頑張って、僕達の子を産んでくれたのだから。
「グンジョウ、抱いてやれ」
お包みと呼ばれる物に包まれた我が子を、おばさんは渡してくる。
恐る恐る、壊れ物を扱うが如くそっと抱いた。
少しの重みと共に、僕とユエの子供はほんの少し欠伸をする。
可愛い。
とても、とても可愛い。
ユエのお腹の中にいた子が、僕の目の前で息をして、体温も温かくて。
生きてるって、この子を守らなければって…そう、思った。
バタバタと部屋の外が騒がしくなる。
なんだとそちらを見れば、おばさんが笑った。
「ユタカの所も産まれたよ。あっちは女の子だ」
「…シンク、僕と一緒で泣いてるでしょ?」
そうだな、なんておばさんは笑いながら部屋を出ていく。
僕は看護師に我が子を預け、ベッドで運ばれていくユエへ付き添った。
病室に着き、面会者用の椅子を引っ張り出して座る。
窓の外を眺めると、空が白んでいくのが見えた。
「日付変わったから…もう23日か…」
今日の業務出来なさそうだな、なんて苦笑する。
結構城へ帰ってなかったけれど、大丈夫だったかな。
僕はそう思い、携帯を開く。
母様からメッセが届いており、業務は全て自分がやるから、今はユエの傍にいてあげろと来ていた。
シャナもだけど、母様も家族想いだよなぁ。
そういえばシャナどうしたんだろう。
看護師から呼ばれて、それっきりなんだけど。
シンクの方についててあげてんのかな。
段々眠くなってきた僕は、回らなくなってきた頭で考え、瞼を閉じた瞬間意識を手放した。
◆◆◆
「アオ、アオ。起きて。そんな所で寝てたら風邪ひいちゃう」
体を揺さぶられるのと、ユエの声で瞼を開ける。
彼女の足元と、体に感じる冷たさで、僕は床に寝転んでいたと気付いた。
ゆっくりと起き上がるが、視界がぼやけている。
あれ、眼鏡吹っ飛んだかな…。
ボーッとしていると、ユエが僕の手に眼鏡を握らせてきた。
それをかけ、彼女を見る。
いつもの、仕方がないなと笑っているユエの姿が目に映り、入院着という事もあってここ病院だったけな、なんてやっと脳が覚醒してくれた。
「ごめん、ユエ。寝ないでずっといたから…」
「謝らないでよ、アオ。それに、謝るならこっちの方。手、バキバキに折っちゃってるから…ごめんね、加減出来なかった…」
ユエの手を握っていた方を見ると、赤黒く腫れており、関節やら何やらがぐっちゃぐちゃなのが、傍目から見てもわかるくらいだった。
まぁ握っていたの右手で、利き手じゃないから別に良いんだけど。