そこまで言っていると、ユエは僕の腕を外し、僕の首に自らの腕を絡めてくる。
「…私、嫉妬深いの。アオに誰も触れてほしくない。本当はメイドさんにだって、アオに触って欲しくないんだよ? アオに触れるのは、私だけで良い。アオに愛されるのは、私だけで良いの。ねぇ、アオ。こんな私、重いかな?」
「…ううん。全く、重くなんてない。ユエ、愛してる」
彼女を力強く抱きしめた。
許してもらったとは思わないけど、それでも僕が触れる事は許してくれているユエが愛おしい。
「ぷっ、くっくっく…!! 茶番すぎてウケる…!」
僕らの左側、広場になっている方向からそんな声が聞こえた。
僕らはすぐさま離れ、魔武器を展開する。
水が枯れ果て、噴水だっただろう場所に足を組み、笑っている女の子がいた。
今の今まで、そこには誰もいなかったというのに。
「…君は」
夢の中で見た女の子が座っている。
白と黒が絶妙に配色されたフード付きのパーカーを着て、しかしそれはとても大きく、顔の半分以上を隠し、口元だけしか見えない。
丈も膝より上で、袖なんて手さえも出ていないその姿。
フードから見えている薄ピンクの髪。
夢の中の女の子が、今僕の目の前にいる。
「久しぶり、お兄ちゃん。あぁ、余計なものもくっついてきてるけど、邪魔したら殺すから」
女の子が言っているのはユエの事だろう。
ユエを守るため、彼女の前に出る。
そして魔武器を女の子の方へ向けた。
その行為の何が、女の子の琴線に触れたのかはわからない。
「ぎゃははははっ!! 実の妹に剣向けるとか、お兄ちゃん酷いよねぇ?! アタシはただ、お兄ちゃんとまた愛死合いたいだけなのに。そんな妹の願いも、聞いてくれないの?」
「悪いけど、君みたいな妹を持った覚えはない。ユエに危害を加えるというなら…」
僕の言葉は、そこで途切れた。
銃声と共に、女の子の額部分が撃ち抜かれたからだ。
後ろを振り向くと、ユエが冷たい目をして銃を掲げている。
その銃口からは硝煙が上がっており、撃ったのはユエだという事がわかった。
「え…? ユエ?」
驚いて彼女を見つめていると、背後から爆笑する声が聞こえる。
「あっははははっ!! いきなりなんて酷いじゃん。別にアタシまだ何もしてねーし。そんなに鬱憤溜まってたわけ? ヤダヤダ、八つ当たりとか見苦しー」
「喧しい。よく私の前に現れたわね、桃華。貴方が夕陽君に何をしたのか、私知ってるんだから。よくも、よくも夕陽君を殺したな……許さないっ!!」
ユエが飛び出していく。
トーカと呼ばれた女の子もフードを外し、両の手に片手剣を呼び出し、ユエに切り掛かる。
それを魔武器であろうか銃で受け止め、もう片方の手に同じような銃を呼び出して、ユエはトーカに撃つ。
「先にアタシからお兄ちゃんを奪ったのはアンタのくせに? 逆ギレしないでもらっていいですかぁ?」
「実の兄を性的に好きになった、気持ち悪いあんたに言われたくないっ!!」
銃弾を撃ち込まれているのに、トーカは平気そうに笑っている。
ユエの射線に入ったら、多分僕はマズイ事になりそうなので、戦闘に参加できない。
ユエの銃声を聞きつけたのか、入り口付近に置いてきたユタカが追い付いてきた。
「グンちゃん、何この状況…」
「僕も分かんない…」
暫く二人の戦闘を見ていると、トーカがユエの腹を蹴って距離を取る。
蹴りの威力が凄かったのか、ユエは建物にぶつかってグッタリした。
「ユエっ!!」
「グンちゃん!!」
ギィンッと金属音が背後から聞こえる。
ユエの方を見ていて、トーカから注意が逸れた。
その隙を狙われたようだが、間にユタカが入ってくれたようだ。
「ねぇ、邪魔なんだけど」
「グンちゃん! ユエ起こして!! あのくらいで、死なないからっ!!」
トーカの剣を薙ぎ払い、ユタカはトーカを僕から引き離そうとする。
彼女の意を汲んで、僕はユエの方に走り出した。
「ユエ! ユエっ!」
彼女の頬を軽く叩く。
その目がうっすら開き、僕を見てユエは微笑んだ。
しかし、その口から発せられたのは僕の名前ではなく。
「夕陽君…貴方を置いて、逝って…ごめんね…。ごめんね、夕陽君…」
そう言って、ユエは気絶した。
訳がわからない事が起こっている。
頭の整理が追いつかない。
何が何だかわからない。
「きゃあっ!!」
ユタカの悲鳴が聞こえ、僕はそちらを見る。
ユエ同様、ユタカも気絶してしまったようだ。
トーカが僕を見てニヤニヤと笑っている。
「やっと二人きりだね、お兄ちゃん」
「…………」
あぁ、もう良い。
母様は、死人は出ないと言った。
なら、無茶をしても構わないだろう。
大切な人も守れないのなら、僕の身などどうでも良い。
僕は立ち上がり、髪を掻き上げ、眼鏡を投げ捨てた。
甘えなど捨てろ、僕。
それは今、不要なものだ。
目の前にいるのは、敵だ。
敵は排除するのみ。
ブランシュとノワールを持ち、身を低くする。
身体強化を全身に施した。
トーカの笑い声が耳障りだが、構うものか。
「……っ!!」
地面を思い切り蹴る。