「なら、あの事態を引き起こしたのは僕という事ではないか! もっと詳しく立花卿に言っておけ!! 一人で行けば、ユエもユタカも傷つく事は無かったではないか!!」
「…それが、いい判断だって、王妃様も思ったから。だから私達を寄越したんだよ、アオ」
静かに、背後から声がかけられた。
そちらをゆっくりと振り返る。
「ユエ…」
一体いつの間に来たのか。
ユタカがいない所を見ると、一人で来たようだ。
転移の魔力の揺らぎもわからないほど、僕は頭に血が昇っていたらしい。
「後の二つは、私が言うね。あの子は
寂しそうに笑う彼女に近寄り、抱きしめた。
そんなユエを、見ていたくなかったのだ。
「貴方は夕陽君。でも、今はグンジョウって名前がある。私はどっちの貴方も大好き。ごめんね、黙ってようって思ってたのに、トウカが現れて止まらなくなっちゃった」
「………」
そう言って、ユエは困ったように眉を下げた。
僕は無言で彼女を抱き上げ、母様の横を通る。
「グンジョウ、オイタはダメよ」
「宣誓を覆すつもりはない。元の僕に戻るためだ、黙ってろ」
母様の忠告に一睨みだけして、僕は自室へと向かう。
部屋に入り、ユエを乱暴にベッドへ投げた。
小さい悲鳴が聞こえたが、僕はユエに覆い被さる。
そしてその唇を奪った。
「ん…っ! んぅっ!」
さらに深く口付けをすると、ユエの口の端から熱い吐息が漏れる。
最初僕の服を掴んでいたユエだったが、だんだん握る力がなくなっていき、その手はベッドへ落ちた。
「ユエ…ねぇ、僕とユウヒ、どっちがキスが上手い…?」
「………」
彼女の耳元で囁く。
息が上がってぼんやりと僕を見るユエだったが、ポツリと
「…夕陽君と、キスした事ない…」
と呟いた。
「え…?」
「夕陽君、結構硬派で…そういうのは、結婚出来る年齢まで、しないべきだって…。だから、夕陽君とキスもした事ないし、それ以上もない、よ…? アオ…もしかして、夕陽君に、嫉妬してた…? 知らない私を知ってるって、思ってた…?」
指摘されて、僕は顔を真っ赤にする。
このイラつきの元はそれだったのか。
僕には前世の記憶がない。
むしろ僕に前世があると思ってなかった。
前のユエと、自分が恋人同士だったのは素直に嬉しい。
今世でも、ユエと恋人になれて嬉しかった。
だが、前のユエを知っている僕に、自然と嫉妬してしまっていたらしい。
僕は彼女に体重をかけないよう、彼女の胸に顔を乗せた。
「…ごめん。そうかも…」
「ふふ…嫉妬に駆られるアオも、格好良かったよ…?」
情けないの間違いじゃないのかな、それ。
息が整ってきたようで、紅潮していたユエの頬も元の色に戻っている。
「ナズナおじ様に、本当にそっくりだったよさっきのアオ。もっと歳を取ったら、おじ様みたいに格好良くなるんだろうね」
「…怖くなかった? シャナからは別人みたいって言われるんだけど」
ううん、とユエは首を横に振った。
「私にとっては、アオはアオだもん。ナズナおじ様に似てるアオも、いつものアオも、こうやって恥ずかしがってるアオも。みんな大好き」
「…ユエ…君、聖母か何か…?」
少し体を起こし、ユエの頬に自分のをくっつけて頬擦りする。
そんな僕の頭を、彼女は撫でてくれた。
「聖母なら、ユタカと喧嘩なんてしないでしょ? こんな事をするのは、貴方だけだよアオ」
慈愛のこもった声で言われ、僕は彼女を抱きしめる。
「ユエ…僕がもし、また君を怒らせるような事をしても、許してくれる…?」
「程度には寄るよ。でも、怒っても泣いても、最後には許しちゃうかな。だって、貴方が大好きなんだもん」
抱きしめる力を強め、僕は目を閉じた。
好きだ、と呟いて僕は意識を手放す。
今度は夢も見ずに、僕は深い眠りに落ちた。
◆◆◆
朝の光に目を開けると、目の前にユエの寝顔があって固まった。
昨夜の記憶を思い出し、僕は冷や汗が流れ落ちるのを感じる。
やばいユーリおじさんに殺される…!!
彼女を夜遅くまで拘束して帰さなかった事。
前回それでしこたま怒られたばかりだというのに。
多分、ユエは添い寝してくれてそのまま寝てしまったか、僕の拘束が解けなくて寝てしまったかのどちらかだろう。
「ユエ、ユエ…っ! 起きて…っ!! ヤバい、僕死ぬかもしれない…っ!!」
起き上がり、彼女を揺り起こす。
穏やかに寝ている所を起こすのは心苦しくはあるけど、流石にこの状態はまずい。
何もやましい事はしてはいない。
神に誓ってそれは言える。
だが、状況的にそれを言ったところで誰も信じないだろう。