シャナの後方からツルギとユタカが歩いてきてるのが見えて、僕はユタカに声をかける。
「ユタカ、大丈夫だった? 怪我とかしてない?」
「グンちゃん、おはよー…なんとか。あ、今日から私もお城に住むからよろしくねグンちゃん」
ニコ、と笑いながら言うユタカに首を傾げた。
「え、なんで?」
専属護衛であるユタカが、城に住むと言ってくるのは、わかるんだけど。
今までユエとカヅキおばさんと一緒に、城に来ては帰ってたはずなのに、いきなりどうしたのだろうか?
「え? なっちゃんにそのお話されたって聞いてたんだけど。グンちゃんや私達が一緒に毎日お城に帰って、なっちゃんとママから鍛え直されるって」
そんな話聞いてはいない。
魔王討伐の話はされたが、それだけだったはずだ。
昨日の事を思い出しながら、彼女に尋ねる。
「ごめん、魔王討伐の件は聞いたけど、その話は初耳かな。手を貸さないって言われたんだけど、それ本当に?」
「うん。私も目が覚めた時に、ママに言われたんだけど。グンちゃんが聞いてないなんて、珍しいね?」
昨日はそれ処ではなかったし、今朝もそうだった。
もう少し余裕があったのなら、詳しく話を聞けたかもしれないが…いや、そう思った所で後の祭りというか何というか。
「魔王討伐自体は私達でしなきゃいけないけど、鍛えるのには手を貸すって意味じゃない? 私達で自己鍛錬するにしても限界があるし、王妃様って前の魔王を討伐したんでしょ? その実績があるから、私達を鍛え直すって話だろうけど」
ママも先生だから教え慣れているだろうし、とユエは言った。
「ママも、オーシアで魔神を倒した事あるから。二人から鍛えられるって、結構死ぬ可能性あるんじゃない? 主にグンちゃんが」
「流石に手加減はしてくれないよね。死なせないようには、してくれると思うけど…」
二人の心配そうな顔が、僕に向けられる。
母様の鍛錬は受けた事あるけれど、あれよりも手厳しいのがカヅキおばさんなイメージがある。
いや、一回もカヅキおばさんからの鍛錬を受けた事はないんだけど。
勝手なイメージである。
「三人とも、ホームルーム始まるまであと10分だよ! 早く早く!!」
腕時計を確認すると、シャナの言う通り後10分しかない。
この位置から教室までは、結構な距離がある。
「シャナ、ユタカ。あと自分で何とか出来る? ツルギ…は、シャナに何とかしてもらって。じゃあ、お先!」
僕はユエをお姫様抱っこして脚力強化を施し、一気にシャナの横を駆け抜けた。
ずるい、なんて姉の声が聞こえたが無視する。
僕の首に腕を巻き付け、しがみつくようにしていたユエが聞いてきた。
「アオ、大丈夫? 昨日回復魔法かけたけど、痛む所ない?」
「あ、やっぱり? 全身強化使うと、寝込む事多いんだ。朝すんなり起きられてなんでだろ、ってさっきチラッと考えたんだけど、ユエが何かしてくれたのかな、って結論付けてたんだ。ありがとう、ユエ」
彼女の頭に頬擦りすると、くすぐったそうにユエは笑う。
高等部の校舎が見えてきて、そこに設置されている時計を見ると残り5分。
チラッと見た、僕が所属している教室の窓が開いていたので、僕はそこへ一気に跳躍した。
「おはよーさん、グンジョウ。彼女連れでダイナミック登校とはやるじゃねぇか」
「…エミル君。察して窓開けててくれたのは助かったよ、ナイス判断。いや、本当に」
ユエを降ろし、エミル君と拳を合わせる。
いつもなら、エミル君とツェリと一緒に登校するはずの僕が現れない、教室にもいないというのでこの判断をしてくれたのだろう。
流石幼等部からの付き合いで、僕の親友である。
そういえば外靴で中に入ってしまったと下を見ると、いつの間にか中靴になっていた。
それと、制服も。
ユエを見ると、ニッと笑ってピースをしていた。
僕の彼女は、本当に気遣いが出来る子だ。
「間に合ったーっ!!」
シャナがツルギを抱え上げて、教室に飛び込んでくる。
抱え上げられたツルギは、恥ずかしそうに自分の顔を覆っていた。
男として、それは恥ずかしいよなツルギ。
わかるよ。
「本当に今朝はありがとうシャナ。ユエの次くらいに好きだよ」
「うん、一番って言われたら怖い思いをしていた所だよ、グンジョウ…」
今朝の事について再び礼を言うと、シャナが怪訝そうな顔で僕に言ってくる。
言うつもり全くないんだけど。
ユエも抱きつかないで、冗談だから。
「ユエ、あと1分。早く教室行こ」
シャナの後ろからユタカが顔を出し、ユエの手を取って教室を出て行った。
そういえば隣のクラスだったっけ。
二人を見送り、僕とシャナも自分の席に着いた。
少し前の席に、ツェリの姿を見つける。
夏季休暇で会って以来、あまり僕達の間に会話らしい会話がなくなっていた。
傷付けた自覚はあるが、でもどうしようもない。
僕はユエが好きで、愛してて、ツェリの気持ちに応える事は出来ないのだから。
大体告白もされてはいないのだが。
カヅキおばさんが入ってきてホームルームを始めたが、僕はツェリの後ろ姿から窓の外へ視線を向けたのだった。