ウンディーネ2の月。
今月は学園祭が開催されるらしい。
何年か前からか、生徒主導で催し物を企画し、家族や来賓を招いて二日間でやるお祭りだ。
学生の数も多いから、本当に賑やかである。
飲食店が出来るのは高等部からだが、別に強制ではない。
やらないのは何かを出さなければならないが、大体のクラスは飲食店だそうだ。
母様達の時代だと、各行商人とかが来て自分達の自慢の品を見せ、パトロン探しをしていたらしい。
自分たちで企画とか材料集めとかしない分、そっちの方が楽ではあったそうだ。
そして、うちのクラスは飲食店ではなく、劇をやるらしい。
「……がはっ!!」
なんて、毎日学園から帰ってきてからのカヅキおばさんの鍛錬で、僕は壁側に叩きつけられながら現実逃避をする。
僕らは武器を持っているにも関わらず、おばさんは武器も防具も持っておらず、更にはヒールを履きながらの戦闘で息も上がってはいない。
「私が本気なら、お前達は何度死んでいるのだろうな?」
パンパンと手を打ち払い、僕らを眺めながらおばさんはため息をついた。
先月から始まった戦闘訓練。
おばさんが名付けたのは、強化ならぬ狂化訓練。
狂戦士のように強くなれ、という意味だろうか。
先月から早朝と深夜、城の訓練場でやることになっていた。
「今日は…ちょっと、勘弁して…欲しかったなぁ…」
僕の隣で転がっているシャナが、体の痛みを我慢しながら起き上がる。
その言葉に、おばさんの片方の眉が吊り上がる。
「1日の怠慢が、数日後の命取りになる。お前らを死なせないように、毎日訓練しているこっちの身にもなれ。私はまだ甘い方だぞ? お嬢様は容赦がない。本気になれば平気でその命なんぞ、塵芥だ。今のお前らの実力なら、1秒も保たないだろうな」
「昔の事を言っているのなら、確かにそうだけど。今は衰えてしまって、そこまでの力はないわよ」
母様が苦笑しながらカヅキおばさんの言に、返答した。
相手をしていたユエやユタカ、ツルギは向こう側で倒れている。
母様の服装は、紫のドレスに大きな同色の造花で飾り付けられたもので、普通ならあんな服で動けるはずがない。
しかし母様は、踊るようにユエ達の攻撃を避け、尚且つ避けながら攻撃するのだ。
父様が見ていたなら、まるで蝶のようだな、なんて口にする事だろう。
そして母様もヒールを履きながら、僕達と戦闘している。
この二人、常識ってものが通じないんじゃないのか…?
そんな疑念を抱いても仕方ないと思う。
「お前ら、寝ている暇があるのか? 次は魔法での攻撃を避けてみろ。ちなみに、私は制御が苦手だからな。お嬢様が暴走しないようにはするが、基本口も手も出さんからな。カウントダウン、
僕は痛む体を推してシャナの腕を掴む。
おばさんのカウントが0になった瞬間、母様が光球を作り出し、僕らに放ってきた。
当たる直前で脚力強化でその場を脱する。
しかし、光球はそれだけではない。
複数の光球が僕らを追ってくる。
「シャナ! 反撃!!」
「光には闇だから、えーと、えーと…!!」
シャナを抱えて、光球を避け続ける。
本当ならユエの方を抱えたかったけど、あっちは僕と同じでスピードタイプだ。
ユエだったら、これくらい避けられるだろう。
問題はユタカと、ツルギだ。
あっちはパワータイプで、ツルギに至っては魔武器が籠手とレガースだった。
ユタカの魔武器も蠢いている剣で、見てるだけで少し不安になるような代物。
二人だったら避けるより叩き落としているはずだと予測すれば、やっぱりその通りだったので捨て置く。
そしてシャナは、僕らのパーティで唯一の魔法に特化した人だ。
ここを落とされたら、多分勝ち目はなくなる。
「シャナ! 早く!!」
「わかってるってばっ!!
シャナは光球自体を落とすのではなく、術者の母様に標的を絞ったらしい。
闇の槍が母様を狙うが、それはカヅキおばさんの手によって阻まれる。
「お嬢様に傷一つつけられると思うな」
「あら、頼もしい。流石ね、カヅキ」
ほほほ、なんて母様は扇子を取り出して広げ、笑う。
その間も、光球は勢いを増して僕らに襲いかかってくる。
やばい、そろそろ限界なんだけど…!
シャナを抱えて走っているが、足に痛みが出始めてきた。
更には限定された空間、逃げ場もない。
「ごめん、シャナ。投げるから自分で何とかしてくれない?」
「は? え、ちょま…きゃぁぁぁぁぁあっ!!?」
シャナを上空に投げ、僕は踵を返して母様に突進する。
カヅキおばさんがそれを阻むが、そんな事予想済みだ。
「もう!! 本当に!! グンジョウの!! バカぁっ!!」
僕を罵りながら、姉は落下しながら詠唱する。
杖型にした魔武器を、母様に向けながら。
「開け暗黒の扉! 地上を闇に飲み込ませろ!!
母様とカヅキおばさんの上下に、黒い魔法陣が展開された。
僕はカヅキおばさんの腹を蹴り、その場から脱出する。