瞬間、二人に闇魔法が炸裂した。
「誰でもいいから受け止めてーっ!!」
「姫っ!!」
落下してきたシャナをツルギが受け止めたが、勢いが強すぎて二人とも転がり、そのまま動かなくなる。
あれ、気絶した……まずい!!
術の発動が途中で止まった。
シャナが意識を消失した事によるものだ。
「もう少しで、全身ズタボロになる所だったわ。危なかった」
「グンジョウ、やるな。だが、まだまだだ」
全くの無傷で、二人は立っている。
ユエとユタカを見ると既に倒れており、起き上がっているのは僕一人。
「さて、言い残すことはあるかしら?」
「あの…今日、学園祭なので…少し手加減を…」
だーめ、なんて言いながら、母様は浮かばせていた光球を全て僕に叩き込み、僕の意識は暗転した。
◆◆◆
数週間前、うちのクラスの出し物が劇に決まった時。
僕は机を叩いて抗議した。
「なんで僕が姫役なんですか?!」
立候補がいなかったからと、推薦で姫役に僕が選ばれてしまったのだ。
「別に面白いからいいだろう」
「面白いか面白くないかの話してないんですよ! なんで女性の役を、男の僕がしなきゃいけないかっていう、異議申し立てしてるんです!!」
劇の演目は白雪姫。
カヅキおばさんが、前世の知識と母様からの修正によって絵本を出版し、それが瞬く間に民の間に広まった。
その中の一つである。
そして僕は、その白雪姫の役に抜擢されてしまった。
さらに言えば、王子の役はツェリである。
何この、運命的な配役は。
絶対神の意思でも絡んできているとしか思えない。
母様に言わせれば最高神だろうか。
「せめて裏方にしてもらえませんかね?!」
「ガタイがいい白雪姫! 全く白要素はないが、良いじゃないか、面白い!!」
クラスの委員長である、ルトル・トゥルーデが両手を挙げて爆笑する。
ちなみに彼女は今回の劇では舞台監督として、立候補していた。
「何が面白いんだよ?! 推薦されてはいるけど、せめて狩人とか…」
「狩人は俺の役ー。残念だったな、グンジョウ」
前の席でニヤニヤ笑っているエミル君の肩を掴む。
「代わって!」
「やだ」
面白いなら君でも良くない?!
それに相手はツェリだよ?!
君なら気まずくないだろ、兄妹なんだから!!
と言いたかったが、この場で言えるはずもなく。
「せめて小人…」
「それも全員決まっているし、皆小柄な子ばかりだ。諦めたまえ、グンジョウ君!」
ルトルの高笑いに、僕は肩を落とす他なかった。
その日の昼休み、ユエと食事をしながら先程の話をする。
一体どんな反応をするだろうと思っていたら、僕から顔を背け肩が揺れていた。
「…ユーエー?」
「ご、ごめ…っ! でも、アオの女装…は…ちょっと…み、見た…くく…っ!!」
食べていたサンドイッチを皿に置き、彼女は自分の口を押さえて笑いを堪えているようだった。
僕は少しムッとして、彼女の左手を取り薬指に軽く歯を立てる。
「ひゃ…?! ちょ、アオ…っ!?」
「笑うユエが悪い」
そのまま、ユエの手のひらに口付けしながら彼女を見た。
少し頬を染め、目を右往左往させるユエが可愛くて手を離す。
「アオ…ここ人目が…っ!」
「奥まってるから、別に構わないだろ? それに、見たとしても見て見ぬ振りしてくれるよ」
ニコリと笑うと、ユエは恨めしげな目を僕に向けてきた。
そのまま、サンドイッチを再び食べ始める。
「グンちゃん、見て見ぬ振りって言うけど、見せ付けてるよねそれ。パパに話行くと思うよ、そんな事してると。その点、私ならイチャついても専属護衛だから問題ないよねー」
「いや、問題あるし隣に座らないで。ユタカ、いい加減にしてくれない? 僕はユエが良いのであって、同じ顔でもユタカを好きになる事はないよ」
キッパリ断ると、ユタカがユエを見た。
目付きが鋭く、自分の妹を睨みつけている。
ユエはユエで、ユタカを無視しているようだが。
「でも、私は絶対諦めないから。絶対、ユエと婚約破棄して私としてもらうんだから」
「無いって言ってるんだけど。しつこい。専属護衛で残してるだけで、君に恋愛感情はないから。母様達の例が特殊なんだって、まだわからない?」
ユタカは少し涙目になりながら席から立ち、走り去っていく。
ユエと同じ顔だから、泣かせてしまって罪悪感が出てきた。
「……きつい言い方しちゃった…」
「あれくらいはっきり言わないと、ユタカは分からないよ。あと、ありがとうアオ。ユタカに揺らいでいたら、はっ倒してるとこだった」
それは、ちょっとした修羅場だよな。
三角関係だの、二股だの噂されている身からしたら。
痴話喧嘩からの流血沙汰は、流石に僕は勘弁願いたい。
「ユエだけしか見てないんだから、揺らぐ事はないよ」
ユエの左指にはまっている婚約指輪に触れる。
あの後、似たデザインの指輪を贈っていたのだが、毎日つけてくれているようだ。
ちなみに、僕も付けている。
「アオ、好きだよ」
「僕も。愛してるよ、ユエ」
そう言うと、ユエはふわりと笑った。