「…っ」
走馬灯のようなものを見ていたらしく、僕が姫役に決まった時の事を思い出していた。
体の痛みは引いていて、多分僕らが全員倒れた事により、母様が全体回復魔法で回復させてくれたのだろう。
頬に柔らかいものが当たっており、横を向いている状態から、正面に体を動かし上を見上げると、ユエの顔があった。
どうやら、僕に膝枕してくれているようだ。
「アオ、起きた?」
「うん…今何時…?」
ユエに時間を尋ねると、近くに置いていただろう鞄から携帯を取り出し、時間を確認する。
「えーと、まだ7時だね。訓練始まってから、一時間しか経ってないよ」
「…みんなは? 母様達は?」
体がだるくて、動かしたくない。
せめて少し寝たくて、ユエに尋ねる。
「ママ達はもういないよ。まぁ、二人とも忙しいし。シャナちゃん達はシャワー浴びに行った。流石に砂埃ついた状態で登校出来ないからって。アオも浴びてくれば?」
「無理…動きたくない…」
うつ伏せになり、ユエの腰に腕を回して目を閉じた。
だがそんな僕の背中を、彼女は軽く叩いてくる。
「朝ご飯も食べないと。アオ、開会式の後すぐ体育館で劇するんでしょ? こんな状態だとまずいんじゃない?」
「……ユエと夫婦だったら、お風呂にも一緒に入れるのに…。体洗ってもらって…少しいちゃついて…朝ご飯も…食べさせて…もらって…」
眠くなりながら願望をつらつら言うと、ユエが吹き出した。
「それ、もう介護だと思うんだけど。やだなぁ、アオ。おじいちゃんっぽいよ」
「………だね」
まだ10代なのに、願望がジジくさいとか…。
でも、あーんしてもらった事ないんだよ、ユエに。
デートも、そんなにしてないからかもだけどさ。
そんな場合じゃないし。
僕は起き上がり、自分の頬を思い切り叩いた。
その動作に、ユエは目を丸くしている。
「起きた、目が覚めた。膝枕してくれてありがとう、ユエ。城のシャワー室、使って。僕自室の方に帰るから」
「え、あ、うん…アオ、後で迎えに行くから、寝ないでね」
お風呂に入った後、何もかも忘れて寝たいんだけど。
僕はユエに笑いかけながら、
「寝てたら叩き起こして」
と言って、自室に帰る。
備え付けの浴室に入り、体全部を洗ってお湯が張ってある浴槽に入った。
浴槽の縁に頭を乗せて、上を見上げる。
「あー…ユエと一緒に入りたい…」
また願望を口にした。
結婚しないと、そういう事はしちゃダメだと頭ではわかっている。
婚姻が出来るのも、高等部卒業後。
あと、2年と4ヶ月我慢しなければならない。
「もう…誰か…僕の煩悩封じて…」
両手で顔を覆う。
ユエにもっと触れたい。
キス以上の事がしたい。
四六時中一緒にいたい。
ずっと、ユエと繋がっていたい。
そんな事ばっかり考えてしまう。
はぁ、とため息をついたのと、浴室の扉がノックされたのは同時だった。
「アオ? もうそろそろご飯食べないと間に合わないよ? まさか…寝てる? 反応なければ入るよー?」
「起きてる! 起きてるから! 待ってユエ! 入ってこないで?!」
起きてるなら入らないよ、との彼女の返答に、僕は安堵する。
流石にこの状態を彼女に見られるわけにはいかない。
「ユエ、ごめんだけど部屋で待っててもらえない? すぐ行くから」
「うん? うん、わかった」
鎮めてからじゃないと、ユエの顔絶対見れない自信が僕にはあった。
深呼吸を何回かして心等を鎮めてから、僕は浴室から出る。
「ごめん、お待たせ」
「結構長かったけど、大丈夫? 逆上せてない?」
扉の前で待ってたユエは、僕の様子を見て心配そうにしていた。
大丈夫と返して、彼女の頬に触れる。
「どうしたの?」
「…ううん。キスしていい?」
聞かないでよ、と頬を赤らめたユエは目を閉じた。
彼女の唇に触れるだけのキスを落とし、目を開けたユエに笑いかける。
「じゃあ、行こうか」
◆◆◆
朝食を食べ、おばさんに学園まで送り届けてもらう。
それぞれの教室に入り、荷物を置いて体育館に向かった。
聖・メリーディエース学園の学園長をしている、おばさんの知り合いの娘であるアイラ学園長が、開会式の挨拶をする。
いつもは眠そうにしている学園長だが、今日はちゃんと起きているようだ。
「あー…緊張する」
「シャナは裏方だろ。僕なんてガタイがいい男なのに、姫役…シャナがすればよかったのに…実際姫なんだから…」
少し悲しくなって、両手で顔を覆う。
まぁまぁ、とシャナは僕の肩を軽く叩いてきた。
「今日だけじゃん。それに、通し稽古でやってたお芝居、ちゃんと上手かったよ? 後で、ユエちゃんと学園内デートしてきたらいいじゃん。それで心の傷癒しなよ」
「…そうする」
学園長の挨拶が終わり、僕らは舞台裏に行く。
そこでサイズ合わせしていた衣装を着るのだ。
「グンジョウ君…」
王子の格好をしたツェリが、僕に話しかけてくる。
黒髪で長髪のウィッグをつけている途中だったので、ツェリの顔が見えなかった。
「ん? どうかした? ツェリ?」
「ううん。今日は、よろしくね?」