my way of life   作:桜舞

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49話『私は絶対エミルと結婚するわ』

変になっていないか、鏡を見ながら調整するため顔を上げる。

舞台裏は少し薄暗く、僕の背後にツェリは立っていたようだ。

その顔が、薄く笑っている。

少し、不気味に。

 

「…ツェリ?」

「じゃあ、また後で」

 

踵を返し、ツェリは去っていく。

首を傾げながら、僕は衣装を点検した。

 

『一年Z組による劇、白雪姫です』

 

体育館での舞台進行役である、生徒会の人の案内で、僕らの劇は開始される。

 

最初のシーンは白雪姫の継母が鏡に問うシーンだ。

ちなみに、継母役はエミル君の婚約者であるエーリ・ゼーゲルシュタインである。

 

似合ってるぞ、エーリ。

なんて稽古の途中で言ったエミル君が、エーリに叩かれていたっけ。

 

「鏡よ鏡。この世で一番美しいのは誰?」

 

少しキツめの声で、エーリは鏡に尋ねる。

それに、鏡役で声だけの出演であるツルギが返答した。

 

「はい、王妃様。この世で一番美しいのは白雪姫でございます」

「なんて事!! 即刻あの娘を殺してしまわなければ!」

 

錯乱している演技が迫真すぎて稽古の時に一回心配になったけど、シーンを切られると普通に戻るので、エーリには女優の才能があるのではないだろうか。

一回エーリに、エミル君と婚約しなかったらどうしてたかと聞いた事がある。

 

『グンジョウ君、それは愚問ね。私は絶対エミルと結婚するわ。それ以外考えられないもの』

 

その返答に、こうも想われているエミル君は幸せ者だな、なんて感想を抱いた。

 

「あの子を森に追放するのよ! 獣に食い殺させるの!!」

 

舞台が暗転して、エーリが舞台袖に下がってくる。

 

「お疲れ様、エーリ」

「私の出番これと後一つで終わりだもの。別に疲れてはいないわ。エミルはどこ?」

 

労いの言葉をかけると、なんて事は無いという風にいう彼女は、エミル君を探しているようだった。

あっちと指を差すと、エーリはエミル君の方へ向かう。

少し耳を欹てると、自分の演技の感想と終わった後どこを回るかの相談をしているようで、意識をそちらから舞台に向けた。

 

次はいよいよ、僕の出番である。

 

「ここはどこかしら…あぁ、お腹がすいた…」

 

僕が舞台に出てきた瞬間、一部から失笑が上がった。

 

あぁ、もう!

僕だって恥ずかしいってのに!

笑った奴出てこいぃっ!!

 

キュッと口を引き結び、観客に見えないように拳を握りしめる。

しかし劇を止めるわけにもいかないので、僕は演技を続けた。

 

「あら? あそこに光が…誰か住んでいるのかしら…?」

 

ヨロヨロと、舞台袖に歩いて行く。

ドレスを身に纏っているが、ワイヤーで出来たパニエというもので足回りは空洞ができているため、歩くのは苦ではない。

ヨロヨロ歩いているのはただの演技だ。

 

舞台袖につくと舞台が暗転し、僕はまた舞台に引き返す。

 

「あの、すみません…誰かいますか?」

 

そこには誰もおらず、しかし舞台の上には模型で作られた食事が置かれていた。

僕はそれに手を伸ばし、食べるフリをする。

 

そこへ、小人役のクラスメートがやってきて、食べたものを返すように言ってくる。

食べてしまったものは返せないので、労働力で返すと話し、僕こと白雪姫は小人達と暮らす事になった。

 

舞台は暗転するが、今度はエーリの番なので僕は舞台袖に引っ込む。

 

「グンジョウ、メイク落ちてない? 大丈夫?」

「落ちてないけど、やっぱり笑われたじゃん…」

 

肩を落とすと、シャナが苦笑しながら僕の手を握ってきた。

 

「ユエちゃんとユタカちゃんも観にきてるよ。ユエちゃんとのデートの時、ユタカちゃんは引き止めてて上げるからね。それ励みにもうちょっと頑張れ」

「ありがと…姉上…」

 

あちゃー、とシャナは頭を押さえた後、携帯を取り出し、何かを打っている。

画面が見えなかったけど、まぁ、今の僕には関係ない事だ。

 

僕の出番がまた来て、老婆からリンゴをもらう。

それを一口食べるフリをし、苦しむ演技をした後倒れた。

舞台が暗転し、棺のセットを持ったクラスメートが、舞台の真ん中にそれを置く。

僕はそれに入り、手を組んで目を閉じた。

 

小人役のクラスメートの嘆く声が聞こえる。

劇なのだが、本当に僕のお葬式を執り行っている気さえしてきて、軽く複雑になった。

まだ生きているのにな、なんて。

 

そのうち、王子役のツェリが現れ、僕の近くに来る気配がする。

この後のシナリオ的に王子が姫にキスをして、姫が目覚めハッピーエンドで幕が降りる、はずだった。

 

唇に、暖かく柔らかい感触が触れる。

その感触に覚えがあり、僕は思わず目を開けた。

ツェリの顔が、僕の近くで目を閉じている。

まだ、感触は続いていた。

 

「っ?!」

 

ツェリがいる方向を見る。

観客からは見えないように、背を向けているようだ。

なら、ユエにも見えていないという事。

だが、クラスメートからは見えているはずだ。

 

僕は、ツェリの肩を押して自分から引き剥がす。

 

「まぁ、貴方は?」

 

起き上がり、何事も無かったかのように振る舞った。

あとはシナリオ通りに進み、舞台の幕が降りる。

観客席が見えなくなった後、僕はその場に座り込んだ。

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