my way of life   作:桜舞

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5話『出てきなさい』

僕らの祖母なのだけど、お祖母様は臣下の礼を取る。

銀色の髪が、この間会ったときよりも色褪せていて、また歳を召されたのだと感じた。

シャナはスカートの裾をつまみ、優雅に返答の礼であるカーテシーをする。

 

「お久しぶりでございます、お祖母様。お元気そうで安心致しました」

「「……は?」」

 

二人の間の抜けた声が聞こえ、僕は扉の隙間から二人の様子を伺った。

シャナの様子を見、あんぐりと口を開けて間抜けな顔をしている。

 

…女の子として、すごい顔をしている気がするなぁ…。

 

見て見ぬ振りしてあげるのが、一応男としての礼儀なのかもしれないと、一旦目を伏せた。

 

「え? シャナちゃん?」

「偽物じゃないの?」

 

魔力探知をすれば相手がシャナかどうかわかるだろうに、二人は動揺していてそこまでの考えに至らないらしい。

カヅキおばさんは盛大にため息をついて、二人を睨みつけたようだった。

 

「何を馬鹿な事を言ってるんだ、馬鹿者どもが。なんで私が忙しい中、わざわざシャナを連れてきたと思ってんだ。アホか」

「事情はわかりました。立花卿、口が悪いですよ。お母様がここにいたら、叱責ならずとも、注意される事でしょう。お気を付けなさい」

 

シャナがそう言うと、カヅキおばさんは姉に向かって臣下の礼をとる。

いつものシャナと様子が違うのは、姉が公私をわけているからだ。

これも、お祖母様の教育の賜物である。

 

「立花卿、それにテスタロッサ夫人。苦労しているようで、心中お察し致します」

「は…お恥ずかしい限りです、姫殿下。私の教育が至らぬばかりに、テスタロッサ夫人にもご迷惑をおかけし、姫殿下にもご足労いただきました。大変申し訳ございません。叱責は如何様にも」

 

シャナは、ふふふ、と笑ってユエとユタカを見据えた。

 

「ユエ嬢、ユタカ嬢。これくらいで根を上げているようでは、私の弟の伴侶などとてもなれませんよ。それで立花卿、私は何をすれば宜しいのですか?」

「は。姫殿下には食事のテーブルマナーを、この馬鹿どもに見せて頂きたいと思います」

 

おばさんが指を鳴らす。

影からテーブルやら椅子やらが現れた。

その上には食事のセットが置かれている。

 

あのセット、晩餐仕様か…。

 

シャナもそれに気付いたのか、ニコリとおばさんに微笑んだ。

 

「エスコート役はどなたが?」

「私が致しましょう」

 

おばさんがシャナの手を取って、椅子までエスコートをする。

椅子を引き、シャナが座るのと同時に押した。

 

少量だが、食事がおばさんの影から運ばれてきて、並べられていく。

シャナはそれらを音を立てずに食べていった。

 

途中、銀食器が曇っているのに気付いた姉が、取り替えてもらうようおばさんに言う。

銀食器が曇っているという事は、磨かれていないイコール、その家のメイドの教育不足だという事だ。

引いては、その家の主人の監督不行届に繋がる。

 

これが本当の、どこぞの晩餐会で起こったものなら、その家は王族の不興を買うという事と同義だ。

 

ちょっと意地悪しすぎたか、とおばさんはポツリと呟くように言う。

わざとやったのかと、僕もお祖母様も呆れた目でおばさんを見てしまった。

 

「大変美味しゅうございました」

 

ナプキンで口を拭き、シャナはニコリと笑う。

立ち上がる時も椅子を引いてもらい、腕を出したカヅキおばさんに連れられ、数歩テーブルから離れた。

 

「これがテーブルマナーだ、わかったか娘達」

「…本当にあれ、シャナちゃん?」

 

まだ言うユタカに、カヅキおばさんはまたため息をつく。

そして軽く手を叩いた後、おばさんは言った。

 

「シャナ、モードオフ。しても良いですよね、師匠?」

「えぇ。完璧でした、姫殿下」

 

お祖母様も頷いたのを見たシャナは、ぷはー、と大きく息を吐き出す。

 

「うわぁ、肩凝るんだよねぇこれ。ドレス着ながらだったなら、もっと肩凝ってたよー」

 

ブンブンと、腕を回し首を回しながらシャナはニヘラと笑った。

いつものシャナに、二人とも開いた口が塞がらなくなったようだ。

 

見てない、僕は何も見てない…。

 

二人の沽券に関わるだろうから、僕は見て見ぬ振りをする。

 

「そうですねぇ…後はダンスの見本でも見せましょうか。カヅキ、貴女本当に身内には甘いのですね」

 

言いながら、お祖母様は僕が隠れている扉の方へ目線を投げてきた。

気配遮断しているはずなのに、偶然だろうか?

魔力探知にも引っかからないよう、魔力だって極力抑えているというのに。

 

「殿下、いるのはわかっています。出てきなさい」

 

バレてた。

流石お祖母様。

カヅキおばさんの師匠なだけある。

 

僕は観念して、扉を開けた。

 

「アオちゃん…!」

「グンちゃん…!」

 

ユエとユタカが、僕を見て目を潤ませる。

それに対して僕は苦笑いしか返せない。

 

ちなみに二人がなんでそんなあだ名で僕を呼んでいるかと言えば、幼い頃カヅキおばさんの家に不可抗力でお邪魔してしまった時、僕の名前の由来を母様が二人に教えたからだった。

シャナの名前は、母様と父様から1文字ずつ取ったもの。

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