僕らの祖母なのだけど、お祖母様は臣下の礼を取る。
銀色の髪が、この間会ったときよりも色褪せていて、また歳を召されたのだと感じた。
シャナはスカートの裾をつまみ、優雅に返答の礼であるカーテシーをする。
「お久しぶりでございます、お祖母様。お元気そうで安心致しました」
「「……は?」」
二人の間の抜けた声が聞こえ、僕は扉の隙間から二人の様子を伺った。
シャナの様子を見、あんぐりと口を開けて間抜けな顔をしている。
…女の子として、すごい顔をしている気がするなぁ…。
見て見ぬ振りしてあげるのが、一応男としての礼儀なのかもしれないと、一旦目を伏せた。
「え? シャナちゃん?」
「偽物じゃないの?」
魔力探知をすれば相手がシャナかどうかわかるだろうに、二人は動揺していてそこまでの考えに至らないらしい。
カヅキおばさんは盛大にため息をついて、二人を睨みつけたようだった。
「何を馬鹿な事を言ってるんだ、馬鹿者どもが。なんで私が忙しい中、わざわざシャナを連れてきたと思ってんだ。アホか」
「事情はわかりました。立花卿、口が悪いですよ。お母様がここにいたら、叱責ならずとも、注意される事でしょう。お気を付けなさい」
シャナがそう言うと、カヅキおばさんは姉に向かって臣下の礼をとる。
いつものシャナと様子が違うのは、姉が公私をわけているからだ。
これも、お祖母様の教育の賜物である。
「立花卿、それにテスタロッサ夫人。苦労しているようで、心中お察し致します」
「は…お恥ずかしい限りです、姫殿下。私の教育が至らぬばかりに、テスタロッサ夫人にもご迷惑をおかけし、姫殿下にもご足労いただきました。大変申し訳ございません。叱責は如何様にも」
シャナは、ふふふ、と笑ってユエとユタカを見据えた。
「ユエ嬢、ユタカ嬢。これくらいで根を上げているようでは、私の弟の伴侶などとてもなれませんよ。それで立花卿、私は何をすれば宜しいのですか?」
「は。姫殿下には食事のテーブルマナーを、この馬鹿どもに見せて頂きたいと思います」
おばさんが指を鳴らす。
影からテーブルやら椅子やらが現れた。
その上には食事のセットが置かれている。
あのセット、晩餐仕様か…。
シャナもそれに気付いたのか、ニコリとおばさんに微笑んだ。
「エスコート役はどなたが?」
「私が致しましょう」
おばさんがシャナの手を取って、椅子までエスコートをする。
椅子を引き、シャナが座るのと同時に押した。
少量だが、食事がおばさんの影から運ばれてきて、並べられていく。
シャナはそれらを音を立てずに食べていった。
途中、銀食器が曇っているのに気付いた姉が、取り替えてもらうようおばさんに言う。
銀食器が曇っているという事は、磨かれていないイコール、その家のメイドの教育不足だという事だ。
引いては、その家の主人の監督不行届に繋がる。
これが本当の、どこぞの晩餐会で起こったものなら、その家は王族の不興を買うという事と同義だ。
ちょっと意地悪しすぎたか、とおばさんはポツリと呟くように言う。
わざとやったのかと、僕もお祖母様も呆れた目でおばさんを見てしまった。
「大変美味しゅうございました」
ナプキンで口を拭き、シャナはニコリと笑う。
立ち上がる時も椅子を引いてもらい、腕を出したカヅキおばさんに連れられ、数歩テーブルから離れた。
「これがテーブルマナーだ、わかったか娘達」
「…本当にあれ、シャナちゃん?」
まだ言うユタカに、カヅキおばさんはまたため息をつく。
そして軽く手を叩いた後、おばさんは言った。
「シャナ、モードオフ。しても良いですよね、師匠?」
「えぇ。完璧でした、姫殿下」
お祖母様も頷いたのを見たシャナは、ぷはー、と大きく息を吐き出す。
「うわぁ、肩凝るんだよねぇこれ。ドレス着ながらだったなら、もっと肩凝ってたよー」
ブンブンと、腕を回し首を回しながらシャナはニヘラと笑った。
いつものシャナに、二人とも開いた口が塞がらなくなったようだ。
見てない、僕は何も見てない…。
二人の沽券に関わるだろうから、僕は見て見ぬ振りをする。
「そうですねぇ…後はダンスの見本でも見せましょうか。カヅキ、貴女本当に身内には甘いのですね」
言いながら、お祖母様は僕が隠れている扉の方へ目線を投げてきた。
気配遮断しているはずなのに、偶然だろうか?
魔力探知にも引っかからないよう、魔力だって極力抑えているというのに。
「殿下、いるのはわかっています。出てきなさい」
バレてた。
流石お祖母様。
カヅキおばさんの師匠なだけある。
僕は観念して、扉を開けた。
「アオちゃん…!」
「グンちゃん…!」
ユエとユタカが、僕を見て目を潤ませる。
それに対して僕は苦笑いしか返せない。
ちなみに二人がなんでそんなあだ名で僕を呼んでいるかと言えば、幼い頃カヅキおばさんの家に不可抗力でお邪魔してしまった時、僕の名前の由来を母様が二人に教えたからだった。
シャナの名前は、母様と父様から1文字ずつ取ったもの。