「ツェリ…なんで…」
僕の隣に立っているツェリを見上げる。
彼女は少し笑っていた。
「色んな女の子を知ってた方がいいよ、グンジョウ君」
ツェリはそう言い、舞台袖に消えていく。
僕は呆然と、彼女の後ろ姿を見送った。
◆◆◆
「アオ、大丈夫?」
心配そうな声で尋ねてくるユエの声に、僕はぎこちなく笑う。
劇が終わり、各自解散になった。
僕は着替えた後、迎えに来てくれてたユエと一緒に学園祭を見て回っている最中だった。
「大丈夫…」
「じゃなさそうだよね。何かあったの?」
先程の事を思い出していた。
ツェリのあの笑顔と、言葉を。
「ここにもカヅキおばさんの目があるんだろうなぁ…」
「? 多分あるだろうけど…何? したくなったの?」
明け透けに言うユエに、普段なら注意する所なんだけど、僕は頷いた。
僕の腕に抱きついていたユエが固まる。
冗談で言ったのに、と顔には書いてあるようだった。
「あ、あの、アオ…」
「焦んないでよ…ちょっと、ね。ユエをもっと近くで感じたかっただけだから…しないから警戒しないでくれない…?」
ちょっと困ったように笑う僕に、ユエは何か決意したように僕の手を引いて校舎内に入っていく。
僕は彼女に手を引かれるまま、どこに行くのだろうと考えた。
着いた先は図書室。
学園祭の間は閉まっているはずだが、彼女は魔法を用いて鍵を開けてしまった。
「ユエ?」
一緒に入ると、ユエは中から鍵をかける。
「ここなら誰も来ないでしょ? 確かにママの目があるから、そういう事は出来ないけど。さっき何があったのか話してよ? 怒らないし、嫌いにもならないから…いや、私より別の女の子がいいって言うなら、すごく怒るし泣くけど」
言うわけないじゃん、と呟いて彼女を抱きしめた。
そしてそのまま、長机に押し倒す。
甘えたくて、先程の感触を消したくて、ユエにキスをした。
とても、とても深いものを。
暫く続けているとユエが肩を叩いてきたので、僕は名残惜しげに唇を離した。
「…ア、オ…どう、し…」
「さっき、ツェリにキスされた」
そう言うと、ユエは目を丸くして驚く。
それはそうだろう。
ツェリは内向的で大人しく、少し吃音気味だがとても良い子だ。
そんな子が僕に出来るとは思えないだろう。
だが、事実だ。
だからこそ、ツェリの感触をユエのもので上書きしたかったのだから。
「ねぇ、ユエ。他の女の子にキスをされている僕は、浮気者ではないのかな。嫌だって言っているし、ユエとの仲も公言しているはずなのに。君に嫌われる出来事ばかり起こる…もう嫌だよ…」
涙が滲む。
男のくせに情けないが、悲しいという感情が溢れて仕方ない。
これでユエからも嫌われたら、僕はもう駄目になる。
眼鏡を外し、ユエの胸に顔を埋めて彼女自身を強く抱きしめた。
そんな僕の頭を、ユエは優しく撫でてくれる。
「貴方が望んでしているならともかく、望んでないのに起こっているんだから、私が嫌うわけないじゃん。それに、シャナちゃんからアオの精神状態が宜しくないから、慰めてやってってきてたの。だから、貴方は浮気者ではないし、私は貴方に愛されているって、自信を持って言えるよ。愛してるよ、アオ」
「ユエ…っ!」
泣きながら、ユエを見上げた。
僕の表情に少し驚いているようだった彼女だが、優しく微笑んでくれる。
「不安にならないで、アオ。私は貴方から離れないから。何回でも言うよ? 私は貴方が大好きだって」
ユエの撫でてくれる手が心地よくて、僕は目を閉じた。
直ぐに、くぅ、とお腹が鳴る音がして、僕は彼女に尋ねる。
「…お腹すいた?」
「…だって、お昼の時間過ぎてるんだもん…」
目を開けてユエを見ると、少し恥ずかしそうに顔を逸らしている。
ダメって言ったら怒られるかな。
今日の学園祭が終わるまで、このままずっといてって言ったら。
「ねぇ、ユエ。このままここにいたいんだけど…。そんな我儘言ったら、君は呆れるかな…」
「んー…呆れはしないけど。お腹すいたから、誰かに何か買ってきて貰お?」
携帯を操作する音がする。
すぐにピロンと音がして返事が返ってきたようだ。
「アオ、ちょっと離れててもらえる? この状態だと多分シャナちゃん驚くと思うから」
さっきメッセージを飛ばしたのは、シャナだったのか。
僕は言われるがまま、ユエから離れた。
数分してから図書室の扉が開く音がして、僕はそちらに目を向ける。
まぁ、眼鏡外してるから誰が来たかわからないんだけど。
「ありがと、シャナちゃん」
「ごめんね、うちの弟が。グンジョウ酷い顔してるから、今日一日一緒にいてあげて。あ、ユーリおじさんにも話通しておくし、カヅキおばさんにもお願いして今日の訓練なしにしてもらうから。母様達にも頭下げておく。だから、元気出してねグンジョウ」
「姉上…」
僕がシャナをそう呼ぶのを聞いた事がなかったユエは、少し驚いたように僕を見つめる。
そんな様子に、シャナはカラカラと笑っていた。