目が冴えている状態で、彼女の横で寝られるのかと問われたら、多分寝られないんだろうな、という自問自答の末に出た言葉である。
「うん? 何か不満?」
「違う。君が魅力的すぎて、今日眠れるのかなって思ってただけ」
お風呂上がりのユエが、僕が寝ている横へ来る。
座った際、ギシッとベッドのスプリングが鳴った。
「咲夜ちゃんいなかったら出来たのにね?」
「…やめて…本当に理性飛びそうだから。そんな事したら、王太子とか関係なくユーリおじさんに殺される…。嫌だよ、またユエと結ばれずに死ぬなんて」
そう言って起き上がり、彼女を抱きしめる。
僕の背に手を回して、ユエは甘えるように頭を擦り付けてきた。
僕と同じものを使っているはずなのに、ユエの髪からはとても甘い匂いがする。
そのまま、ベッドに倒れ込んだ。
「アオ? 寝るのにはまだ早い気が…」
「まぁ、夕飯もまだ食べてないしね。それでも君とこうしていたいって思うんだけど…駄目かな?」
しょうがないな、と彼女は言い僕の胸に頬をくっつけてくる。
そんなユエが愛おしくて、僕は腕の力を強めた。
「本当、情けない姿ばかり見せてるな…幻滅したんじゃない…?」
「どんなアオでも大好きだよ。むしろ、もっと見せてほしいかな。それは、私だけしか知らないアオだもん。私の前でだけ、そんな姿見せてね?」
ニコリと笑っているユエに、僕は彼女ごと体を起こして口付けを落とした。
早く婚姻が出来たら良いのに。
これだけではもどかしい。
ユエ、愛してる。
色んな感情がない混ぜになって、唇を離した後彼女の首筋に口付けし、跡をつけた。
つけている最中、彼女の体が揺れたが、気にせず続ける。
「アオ、ちょ…」
つけ終わり彼女を見ると、頬が紅潮し目が潤んでいるユエの姿があった。
情欲を掻き立てられ、慌ててユエから離れる。
「………」
口元を手で覆い、目を逸らす。
お風呂上がりということもあって、ユエの姿は扇情的である。
危ない、これ以上は危ない。
「ごめん、頭冷やしてくる…」
「え、ちょっと! アオ!? まっ、なんで?!」
ユエの制止の声を振り切り、僕は廊下に飛び出る。
ちょうど、散歩に出ようとしてたシャナと遭遇したのはそんな時だ。
「グンジョウ、元気になったみたいだね。何慌ててるのか知らないけど、ユエちゃん一人にして良いの?」
「シャナ…」
父様と同じ金の髪と、青色の瞳。
僕の半身で、僕の血の繋がった姉で、頼りになる人。
「もう僕どうしたらいいんだよ…ユエが好きすぎて、手を出しちゃダメだってわかってるのに、出しそうになる…シャナ、僕の煩悩封じて…」
顔を覆い蹲る僕に、シャナは頭上から呆れた声を出した。
「……そこ、本当に父様そっくりだね、グンジョウ…。冷えるから、部屋の中入ろ。あとでユエちゃんに謝りなね?」
シャナに手を引かれ、姉の部屋に入る。
僕の部屋の調度品とは少し違い、ぬいぐるみとか棚の上に置いてあった。
ソファーに座らせてもらい、その横にシャナが座った。
「母様が内緒よって教えてくれた事あったんだけど。父様、母様と寝床を共にしたいからって当時の学園長に交渉した事あるんだって。婚約者になったから、部屋も一緒でいいだろう。むしろ、婚前の練習になるって。それ普通に通ったって言ってて、母様呆れてたよ。でも、お祖母様が添い寝はともかくそれ以上は許さないって言ってて、父様今のグンジョウみたいになってたっぽい」
「……遺伝怖…」
ケラケラ笑う姉を見るが、僕は本当に笑えないんだけど。
「父様、お祖母様に念書書かされてて、結婚するまでに母様に手を出したら即婚約解消って話だったらしいよ。だからあたし達、すぐ出来たんだろうねぇ」
「笑えないし下世話すぎるよ、シャナ…」
はぁ、とため息をついて僕は俯く。
ユエの事を大事にしたいのに、壊してしまいたくなる僕もいるわけで。
二律背反に苦しむ。
そんな僕の背中を、シャナは優しく撫でてくれた。
「父様も卒業まで我慢出来たんだから、グンジョウも出来るよ。ユエちゃんからの誘惑は多いと思うけど、グンジョウなら耐えられるって、お姉ちゃん信じてるからね」
「ありがと…頑張るよ、姉上…」
シャナが優しく笑う気配と、扉が大きく開け放たれるのは同時だったと思う。
そちらを見ると、ユエがムッとした顔で僕らを見てた。
「アオ、浮気?!」
「なんで実の姉に情欲抱かなきゃいけないの?! 励ましてもらってただけだから!! それに、そんな感情抱くの君だけだからね?!」
ならよし、と何故か誇らしげにしているユエと、場の空気入れ替えるの強引だなぁと爆笑しているシャナ。
なんで僕の周りの女性は、こうも騒がしい人が多いのかな…。
◆◆◆
夕飯を食べ、就寝時間になったのでユエと二人ベッドに横たわる。
僕の右側にいた彼女が、僕の手を握ってきた。
「ユエ? どうかした?」
「ううん。なんでもない」
なんでもないなら、何故手を握ってくるのか。
とりあえず、彼女の手を握り返す。