その瞬間、ユエの方から嗚咽が聞こえて僕は身を起こした。
「ユエ?」
「ごめ……幸せすぎて…夕陽君とは、出来なかった事だから…」
またユウヒの名前が出てきて、僕は少しムッとする。
僕は彼女の上になるように移動し、ユエの手首を掴んだ。
「アオ…?」
「僕以外の男の名前を言うなんて、酷いじゃないかユエ。君は今ユエなの? セツナなの? それによっては、僕も対応を変えざるを得ない。ねぇ、ユエ。僕はユウヒじゃなくて、グンジョウなんだけど」
ユエの顔がハッとなる。
そして気まずそうに、顔を横に背けた。
「ごめん…深い意味で言ったわけじゃないんだけど…不愉快だったよね……ごめんなさい。でも、私は雪那じゃなくて、ユエだよ」
「なら、もうユウヒの名前は口に出さないでくれる? 嫉妬で頭がおかしくなりそうだ」
彼女の首筋に口付けを落とし、また跡をつける。
つけ終わった後、そこを舐めた。
「ひゃ…っ!」
「今はこれで許してあげる。また嫉妬させたら、もっとつけるからね」
顔が真っ赤になった彼女は、何回も首を縦に振る。
気が済んだ僕は、彼女を抱きしめて目を閉じた。
そして朝、少しの息苦しさで目を覚ます。
「………」
目の前に、人の顔。
口には生暖かい感触。
ユエと似た顔をしているが、彼女ではない。
だって、僕の右側に重みと寝息が聞こえるから。
では誰か。
答えなど明白だ。
僕は彼女の額に手をかけ、引き剥がす。
「ユタカ、何やってんの…。ユエが隣で寝てるっていうのに」
不愉快で、彼女が離れた後僕は口を拭う。
寝ているユエを起こさないように、小声で彼女に問うたが、ユタカは不敵な笑みで僕を見つめていた。
「今日の学園祭、私と周ってくれるよね? グンちゃん。昨日はユエがずっと独り占めしてたんだから、今日は私の番だもんね?」
「いや、なんで…」
そもそも、次夜這いかけたら本国送りって言われてなかったっけ、君?
そう言い出そうとして、隣の重さが無くなった事に気付いた。
この状況、非常にまずいのではないだろうか。
ユタカが僕の上に跨っていて、隣のユエの重みがなくなっている。
考えなくてもわかる。
こんな簡単な事、馬鹿でもわかるはずだ。
つまりは、修羅場に突入するという事態になったという事だ。
「ユタカ、なんでここにいるの。アオに夜這いかけようとしてたわけ? 恋人の私が横にいるのに?」
「私がここに来たのは、朝になってからだし。夜に侵入もしてなければ、ちゃんとママとパパにグンちゃん起こしてくるって言って来てるもん。シャナちゃんに口添えしてもらった、ユエとは違うよ」
あぁ、口喧嘩が始まってしまった。
せめて僕の上から退いて、ユタカ。
そんな僕のささやかな願いも虚しく、二人は口論を繰り広げていく。
「はぁ? 恋人のケアをするのも、彼女の務めでしょ? 確かに、昨日は助かったよ。でも、なんで今日アオと周るって話になってんの? 許すわけなくない?」
その話してた時、君寝てたよね?
狸寝入りしてた?
いつから?
と聞いた所で僕に矛先が向くので黙っていた。
「昨日は助けてあげたでしょ? なら、今日1日はユエが店番するべきだよね? ユエの分まで私、出てあげたんだもん」
そう言われて、ユエはぐぬぬという顔をする。
そして僕の方を彼女は見た。
「アオ、行かないよね? 私って彼女がいるもんね?」
うん、と言いかけて僕はユタカから手で口を塞がれた。
ユタカがニコニコと笑っている。
「グンちゃん、昨日ツェリちゃんとキスしたんでしょ? 結構学園で噂になってるよ? 私がグンちゃんの近くにいないと、ツェリちゃんグンちゃんとデートしようとするかもね? そしたら、グンちゃんの次のお嫁さんはツェリちゃんって噂、確定しちゃうんじゃないかな?」
「……はぁ?」
なんでそんな話になっている?
客席から見えていないはずだったのでは?
僕の勘違い?
ユエもそれを聞いて驚いているようだった。
「だからグンちゃん、私とデートしよ? 大丈夫、ツェリちゃんが近寄らないように、ずっと抱きついてるからね」
「抱きつく必要性…あるかな…」
ユエの方に手を這わせ、彼女の手を握る。
そして声に出さずに、ユタカを退かしてとお願いした。
「いつまでアオの上に乗ってるつもりなの? いい加減退いたら? 私よりも重いんだから」
「胸の分だけでしょ? ユエと違って、私胸大きいもん」
朝からする話じゃない。
僕は居た堪れなくなって、両手で自分の顔を覆う。
「うわ、修羅場。グンジョウ、朝ご飯できたから呼びに来たんだけど…」
扉をノックしてシャナが呼びにきてくれたけど、この惨状に姉は苦笑していた。
ふと、僕は思いついた事をユタカに言う。
「いや、シャナと回れば良くない? ユタカじゃなくても、別にいいんじゃ…」
「ツルギとのデート、邪魔するの? シスコンも大概にしないと、シャナちゃんに嫌われると思うなー?」
は?
驚いてシャナの方を見ると、口笛を吹きながら僕から顔を逸らしている。
ユタカの言った事は本当の事なようだ。