珍しい事もあるものだと、今日はユエを寮に返し、僕はそのまま自室で寝る事にした。
そして早朝、訓練場に来て僕は目を丸くした。
「…誰?」
赤い髪で、ユタカと談笑している男の子がいた。
結構大きめの杖を軽々と持って、彼女に笑いかけている。
「おはよう、アオ。どうしたの?」
「おはよ、ユエ。いや、あれ誰? 見た事ない人いるんだけど」
僕の背後に転移してきたユエに朝の挨拶をし、ユタカの方を指差す。
ユエは僕の後ろから顔を出して、固まった。
そして顔を俯かせ、肩が震え出す。
「…ユエ?」
「っ!! ユタカぁっ!! あんた何やってんの?! 別次元のアオを呼び出すなんて!! そんなにアオの事諦められないの?!」
ユエが駆け出し、止める間も無くユタカに掴みかかろうとする。
だがしかし、赤髪の男の子がそれを止めた。
「おいおい、ユエ。俺の愛しい彼女に暴力を振おうとしないでくれ。それに、ユタカに呼び出されて俺は幸せだぜ? あんなクソみたいな世界にいるなんて、ごめんだったんでな」
そう言い、赤髪の男の子は指を鳴らす。
ユエの体が宙に浮き、僕の上まで来るとそのまま落下した。
「ユエ!!」
なんとか彼女を抱き止めたけど、僕は訳がわからなくて、男の子を見つめてしまう。
その視線に気づいたのか、男の子は恭しく僕へ頭を下げてきた。
「初めまして、もう1人の俺。俺はグンジョウ・デルフィニウム・ブリリアント。まぁ、ここでのグンジョウはお前だから、便宜上俺の事はシンクとでも呼んでくれや。これから宜しく、おにーさま」
もう1人の僕…シンクは人を馬鹿にしたように笑った。
というか、今何と言った?
「おにー、さま?」
「そそ。ほら、俺もグンジョウじゃん? 一応王族になるわけ。でもグンジョウなんて二人も居ないだろ? だから、都合良く俺はお前の弟って話になったわけ。シナリオはこうだ。三つ子を産んだ母様だったが、そのうちの一人が病弱で手元で育てる事が出来ず、地方に療養に出す事になった。そして元気に健康に育った俺を、城に戻す事に決めたってシナリオだ。それは、こっちのカヅキおばさんと母様、そして父様も了承済みだ。そういうわけだから、弟が増えたぞ喜べよ」
頭が理解を拒んでいる気がする。
とりあえず彼は、ナツキ叔父さんと同様に僕の異次元同位体という事なのだろう。
だからって、はいそうですかと納得できる訳がない。
「でも、アオなら魔法は使えないはず…」
「異次元同位体がまるっきり同じってわけないだろ? 母様に聞いたけど、男の母様がこっちにいるんだろう? なら、魔法に特化したグンジョウがいてもおかしくはない。それに、リューネの元々の位置は南だったってきいたぞ。俺が育ったのは北の方、雪が降って寒さが厳しいとこだったの」
くぁ、と大きな欠伸をしたシンクは、ユタカに抱きつく。
抱きつかれたユタカは、少し嬉しそうに口元が笑っていた。
「おはようございます、殿下。あの、あの方は?」
ツルギも、眠そうなシャナの手を引いて、訓練場に現れる。
その姿を見たシンクが片手を上げて、ツルギに挨拶した。
「よぉ、ツルギ。久しぶり。なんだ、お前も死んじまったのか。災難だなー」
「え…どちら様で…」
ツルギが戸惑った声をあげた。
ユエの方から、まさか、と呟きが漏れる。
「俺俺、夕陽」
「夕陽君はそんなチャラくなかった! 嘘つかないで!!」
キッと、ユエはシンクを睨みつけている。
だがそんな目線を向けられているシンクは、馬鹿にしたように笑った。
「あのな、ユエ。異次元同位体って、並行世界の自分なんだよ。少しの誤差で、同じ自分なのに別の力を得ていたりな? 俺とそっちのグンジョウは、前世も一緒だったらしいけど? だが、お前の知っている夕陽と、俺は違うんだよ。なんてったって、並行世界の自分だからな。てか、その言いよう…お前雪那か。あー、やだやだ。俺の可愛い彼女はユタカだけだってのに、元カノが出てくるとか」
シンクはそう言い、ユタカの頭に頬擦りする。
ユエの方を見ると、拳から血が滲んでいた。
「ユエ、落ち着いて」
「アオ……ごめん。大丈夫。私の知ってる貴方は、アオだけだもんね…」
彼女の手を開くと、爪が食い込んでいたようだが、それも瞬時に治っていく。
流石カヅキおばさんの娘である。
「というか、ツルギと知り合いだったのか?」
僕の質問に、シンクは肩を竦めながらユエを見た。
「何言ってんの? 雪那とも知り合いだったろ? なぁ、ユエ」
「気安く呼ばないでくれない? 私は…夕陽君と、別の高校だったから。ツルギとは会った事ないよ。夕陽君から話は聞いてたけど」
なんか、僕だけ置いてけぼり感すごい。
いや、シャナもか。
何を話しているのか、全く理解できていないような顔をしている。
「そ。俺は普通に会わせてたけど。あ、おばさん達来たな。んじゃ、訓練始めっか」
訓練場の入り口を見ると、母様達が入って来たのが見えた。
「おはよう、みんな。シンクとの挨拶は…なんか険悪な雰囲気なんだけど、貴方何かしたの?」