「やだなぁ、母様。おにーさま達に弟が出来たぞって報告してただけだって。訓練始めようぜー?」
弟?
と首を傾げるシャナに、後で説明するからと告げる。
そして最初の、カヅキおばさんの体術の訓練。
おばさんはプラスチックで出来た定規を持ち、それで軽く自分の手を叩いていた。
「今回の私はこれだけで戦ってやろう。あぁ、ちなみに今回もヒールだが、私はヒールというものは好かん。お嬢様が履けとうるさいもんでな…」
若干嫌そうに、カヅキおばさんは言う。
うちの母様がすみません、と僕は心の中で謝罪した。
母様が横で、
「女性としては、身だしなみは服やメイク、髪型だけじゃありません。靴にも拘ってこそ、女性らしさというものが…」
とカヅキおばさんの方を見ながら言っている。
それを聞きながら、おばさんの顔はげんなりしていた。
「わかった。わかってます、お嬢様。やる気が削がれるから、ちょっと黙れ」
「貴女、TPOはちゃんと守るのに、こういう大雑把な所は男性だった時から変わらないんだから…」
母様が呆れて肩を竦めている。
というか、今なんて言った?
「…カヅキおばさんが、男?」
「その話は訓練の後で話してやる。さて、やるぞ」
おばさんがそう言った瞬間、もう僕の前まで来ていた。
ブランシュを呼び出し、右でおばさんの攻撃を受け止める。
「いい反応速度だ。だが、脇がガラ空きだぞ」
おばさんの左足が、僕の脇腹にめり込む。
そのまま、僕は蹴り飛ばされた。
「ぐぅ…っ!!」
地面に転がり、何回転かした後止まる。
僕が転がされた後、ツルギとユタカがおばさんに攻撃を仕掛けた。
「だぁっ!!」
「やぁっ!!」
カヅキおばさんへ真正面から。
ツルギは下から、ユタカは上からの攻撃をする。
「一辺倒では、私を倒す事など敵わんぞ」
おばさんは足を振り上げ、ツルギの腕を蹴って軌道を逸らした後、彼の顔面を踏みつけた。
ユタカの攻撃には、手の甲で剣を弾き飛ばし顔を殴り飛ばす。
僕は起き上がり、ノワールも呼び出しておばさんに攻撃を仕掛けた。
「ユエっ!!」
「わかってる!」
おばさんに攻撃を仕掛けると同時に、ユエがおばさんの背後に周り、双銃でおばさんを狙う。
「なかなかいい動きだが、やはりまだ甘いな」
ニヤッと笑ったおばさんは、僕とユエの同時攻撃の瞬間上に飛ぶ。
その際どうなるかと言えば、ユエの弾丸が僕を狙う事になるわけで。
「アオっ!!」
見えている範囲で叩き落とせはしたが、見えてない範囲の銃弾が僕を貫く。
足にも当たったようで、僕は蹲った。
「アオ! ごめん、ごめんなさい…っ!!」
「大丈夫、だから…取り乱さないで…。 ……っ! ユエ、後ろ!!」
僕に駆け寄り、泣きそうな顔をしているユエの背後。
カヅキおばさんが、定規を振り上げユエの頭を殴った。
普通なら思い切り殴られたとしても、定規の方が先に壊れるか、少し痛いだけで済む。
だが、おばさんの持っている定規はどんな材質なのか、ユエが吹っ飛んでも壊れていなかった。
「はい3人ダウン。グンジョウ、お前も眠っとくか?」
「朝早いんで、それは魅力的ですよね…」
ははは、と空笑いをすると、脳天に衝撃が来て、僕の意識は暗転した。
◆◆◆
「おーい、起きろー」
頬を何かで叩かれて目を覚ました。
目線を上げると、カヅキおばさんが定規で僕の頬を叩いている所だった。
「う…」
「本当にお前ら弱いなぁ。これからナツキの魔法訓練だってのに」
体を起こすと痛みはなく、母様が回復魔法をかけてくれたのだとわかった。
周りを見ると、僕より離れた場所にいるシンクが、僕同様に起き上がって、少し悔しそうにおばさんを見ている。
「グンジョウ、精進しろ。もしかしたらあれに取って代わられるやもしれんぞ?」
「おばさん、冗談キツいんですけど…」
僕は立ち上がり、ユエの所に行く。
さっきの僕同様気絶しているようで、彼女を揺り起こした。
「ユエ、起きて。大丈夫?」
「ん…アオ…」
僕の姿を認識した後、ユエは急に起き上がり肩を掴んできた。
すごく泣きそうな顔で。
「アオ、大丈夫?! ごめん、私…っ!!」
「大丈夫だから、落ち着いてユエ。まだ訓練の範囲内だから、怪我しても治してもらえるけど…」
これが実戦なら、本当に僕らは死んでいる。
僕はユエを守れるのだろうか、と考えが頭をよぎっていった。
「あー、クソ! 後もうちょいだったのに!」
シンクが杖を支えに立ち上がる。
そして僕を見て、こっちに来いという動作をした。
一体なんだと立ち上がり、彼の所に行く。
「何?」
「次、母様の魔法訓練なんだろ? お前ら連携できなさすぎ。それだとユタカも死んじまう。今から俺が指示を出す。一回だけ従え。俺が司令塔になってやる」
僕の肩に手を置き、シンクは真剣な表情で僕に言う。
「グンジョウ、お前周りが見えて無さすぎだ。このパーティのリーダーはお前だ。リーダーが判断下さなきゃいけない時だって来るだろうさ。だがお前は、前線タイプだ。前に突っ込んでったら、周りなんて見てる余裕なんてないだろ。こっちのシャナはそこまで頭回らなさそうだし。だから、俺が司令塔になってやる。まぁ、信用出来ないのはわかっちゃいるが…」