ウンディーネ3の月。
少し前にシンクがうちの学園に入学した。
僕とシャナ、ツルギがいるクラスは定員で入れず、シンクはユエとユタカのクラスに編入する事になり、少し羨ましいと思ってしまった。
休み時間の度にユエに会いに行ってはいるが、シンクとユタカのイチャつき具合は噂になるくらいで、この間彼女のクラスに行った時など、シンクはユタカを自分の膝に乗せていた。
「いつも、あぁなの…?」
「うん、休み時間になる度に。隣の席じゃないから、イチャつけないっていうのもあると思うんだけど」
ユエのクラスの入り口で、彼女と話すために来ていた僕に、ユエはそう言った。
何とも羨ましいな、と見ていると、ユエが僕の手を握ってくる。
「二人きりの時なら、良いよ…?」
「ユエ、人の心読まないで」
アオは少し表情に出やすいから気をつけた方がいい、と彼女に言われてしまい、そう言えばそうだったと苦笑いをした。
そんな学園生活を送っていた時、僕とシャナ、シンクは学園にあるカヅキおばさんの執務室に呼び出されていた。
早朝狂化訓練をして、お昼を食べた直後だから、少し眠気がきている。
僕は欠伸を噛み殺していたが、シャナは思い切り欠伸していた。
女子としてそれはどうなの、シャナ。
「…いや、眠いのはわかるんだが…」
おばさんは苦笑しながらシャナの方を見ている。
シンクの方を見れば、腕を組んで目を閉じていた。
お前も眠いのかよ。
僕も眠いけど我慢しているというのに。
「寝るな、シンク」
「寝てませんよ、ちゃんと起きてますって」
おばさんが注意すると、シンクは薄目を開け少し眉を寄せた。
眠いんだな、という事が一目でわかる。
僕も寝たい。
最近シンクを見てて思った事が何点かあった。
一つは、赤髪もだけど瞳の色も赤になっていた事。
顔は僕なのだが、確かに色が違うだけで別人に見える。
二つめは、髪が僕より長い事。
僕はショートだが、シンクは肩に付くくらいまで長い。
それを後ろ手に一つに纏めている。
三つめは、彼は眼鏡をかけていなかった事。
それについて聞いたら、魔法で視力を上げているだけで、本来は僕と一緒の視力らしい。
「お前ら喜べ。期末テストを免除してやる」
椅子に座っていたカヅキおばさんが、偉そうに少しだけふんぞり返る。
それを聞いたシャナの目が輝いたのは、言うまでもないだろう。
「マジで?! やったぁあっ!!」
「シャナ、喜びすぎだろ…え? そんなにこっちのシャナ、頭よろしくない?」
シンクがこそっと、僕に耳打ちで聞いてくる。
並び順で言えば、僕の右隣にシンク、僕、左隣にシャナの順でいた。
だからこそ僕に聞いてきたのだろう。
「君のとこのシャナは何なの。あんなにアホの子じゃないの?」
僕も小声でシンクに問いかける。
それ対して、彼は肩を竦めた。
「いや、性悪。目も当てられないような、我儘姫。弟の俺を馬鹿にして遊んでいた、とんでもない鬼畜」
…僕の姉があれで良かった。
というか、家庭環境悪すぎじゃない?
そっちの父様と母様何してたの。
だから少し擦れてるのか?
シンクは。
カヅキおばさんの咳払いで、僕らは口を噤んだ。
おばさんは、収納魔法でできた空間から一冊のファイルを取り出し、僕に投げてくる。
それを受け止めたが、近くに寄らせて渡せばいいものを、僕らの雑談が多すぎて口を開くのも面倒になったのかな。
母様がいたら怒られている所じゃないだろうか。
「一時間で頭に叩き込め。お前らの期末テストが免除になったのは、陛下の口添えがあったからだ。帰ってきてから小テストなりはするがな」
「えー…」
小テストって、範囲が極々狭い分類なので馬鹿でも良い点は取れるはず。
なんでそんなに不満そうなの、シャナ。
僕は姉を呆れた目で見た後、ファイルを開いて目を落とす。
パラパラと捲っていくと、二人とも覗き込んできた。
そして僕は、ある一文を見つける。
「魔王の遺物…」
「何だっけ、それ?」
シャナが首を傾げ、僕に聞いてきた。
その問いに、僕は呆れた目をシャナへ向ける。
「昔、父様が話してただろ。大昔に、当時の王妃に懸想した魔法使いの話。王妃は王を愛していたから、魔法使いの想いに応えられなかった。それによって魔法使いは魔王に堕ちたって話」
「あぁ! その魔王の遺物のせいで、昔父様が攫われて、母様が半分人間やめたって話だっけ?」
「え、何それ詳しく」
シンクのとこではそれは起こらなかったのか。
一体父様と母様の馴れ初めって、そっちではどうなっているのか聞いてみたい所ではある。
「場所、ユーラ王国ってなってる」
「なんでそんなとこに、うちの魔王の遺物があるんだろうね? 大体リューネ国内にありそうなのに」
シャナの言葉に、僕は確かにと思った。
ユーラ王国。
僕らと同じ王政の国で、先の統合騒乱で生き残った国のうちの一つだ。
確か、リューネの友好国だったか。
「最近ルカがな、十数年前にナツキ達が持ち帰った魔玉の欠片から、他の魔王の遺物を探知出来る装置を開発したそうだ。反応したのがそこだったらしい」