おばさんは胸ポケットからエリクシールが入った缶を出し、一本出した後火を付けて吸い始める。
母様は煙草もそうだが、煙が出るこういう系は嫌いらしい。
何でも、嫌な記憶が蘇るから、とか何とか。
だから父様は絶対こういう系は吸わない。
匂いだけで母様にバレて、一時期夜の営みどころか公務の同行も拒否られたとか。
『ちょっと興味本位で、一本だけ吸っただけなのに…シャルから、臭いが完全に消えるまであたしに近寄らないでっ!! って強く言われてなぁ…』
と、肩を落としながら言っていた。
両親のそんな事情、知りたくはなかったが、母様の嫌いなものが知れて良かったとは思う。
絶対に僕も吸わないでおこう、と心に決めていた。
おばさんのエリクシールも煙は出るが臭いはつかないタイプのようで、ちゃんと窓も開けて換気をしている。
母様が嫌がる事は極力しない信条のようだ。
「ふーん? なら、旅行に行く準備してから行くか」
「旅行ではないけど、何泊するかわからないから…まぁ、荷物まとめるのはそうだよなぁ…」
服と下着と替えの服以外、僕は別にいらないとは思うのだけど、シャナの準備に時間がかかるだろうなぁ…。
「お前ら、遊びじゃないんだが…」
「わかってますって、おばさん。俺が引率するんで心配いらないっすよ」
その言葉に、僕とシャナはえっという顔をした。
同い年の君が引率?
むしろ出来るの?
ユタカの事しか頭にないのに?
◆◆◆
ユエとユタカ、ツルギにもユーラ王国に行く事を伝えた次の日、空港に僕達は集まった。
「はーい、御一行様こちらですよー」
「いや、本当に引率するじゃん…」
ガイドの旗を持ち、シンクがニヤッと笑いながら手を振っている。
その様子に、僕とシャナは少し引いた。
「引くなし。ガイドの服着てねーだろうがよ」
「それは無理でしょ。何そのテンション」
ユエが、ユタカの手を引いて現れる。
ユタカはロングスカート、ユエはパンツスタイルで、二人ともダッフルコートを着ていた。
「ユタカ、いつ見ても可愛いなお前は」
「シ、シンク…あの、褒めすぎじゃ…」
シンクが旗を僕に渡し、ユタカを抱きしめる。
編み込みされ、ウェーブがかけられている髪は崩さず、彼女の頬に自分の頬をくっつけて楽しそうだ。
「……これは、何というか…」
「バカップルってやつでしょ。アオ、ごめんね。ユタカが服決まらないって煩かったから、コーデ決めてやってたら遅くなっちゃって」
ユエの方はポニーテールにしているようで、ユタカの服がゆるふわ系なら、ユエはスタイリッシュ系だろうか。
「いや、搭乗時間に遅れてなかったら別にいいんだけど。ユエ、その服似合ってるよ。いや、君は何着ても似合うんだけど」
ユタカみたいな服を着ても似合うし、この姿も似合っている。
…結婚したら、色んな服着てもらおうかな…。
「はい馬鹿弟共ー。もうそろそろ搭乗口開くから準備してー」
僕らの様子に呆れたのか、シャナが声をかけてくる。
多分、僕の考えにも思い至っているようで、殊更僕の方を呆れた目で見ていた。
それに、僕とシンクは反論する。
「何が馬鹿弟だよ、馬鹿姉」
「お前より、こっちはいい成績しかとったことねーよ」
何ですって、と怒るシャナの肩をツルギが掴んだ。
それによって、姉が大人しくなる。
「姫、行こう」
「う、うん…」
シャナの手を取り、彼は搭乗口に向かう。
その様子に、シンクが二人を指差した。
「あれ、付き合ってないの?」
「付き合ってないんだって。むしろ、シャナの片想いだってさ。一回ツルギに振られてるし、シャナ」
嘘だろ、とシンクが呟く。
まぁ、僕もシンク同様の感想ではある。
シャナを振っているはずのツルギだが、うちの姉の事を結構大事に扱ってくれていた。
護衛だから、と言われればその通りなのだが、動作がそれ以上なような気がしてならない。
「んー…無自覚?」
「自覚があったら、アオみたいに慌てふためいてるだろうし」
ユタカは少し首を傾げ、ユエは腕を組みそんな事を言う。
それはどういう意味だろうか、ユエ。
前世の記憶と合わせて喋ってないかい、君?
「俺らも遅れる前に行こうぜ」
ユタカの肩に手を回し、シンクは彼女を連れて行く。
その場には僕とユエが取り残され、僕はため息をついた。
「今から魔王の遺物回収に行くっていうのに…なんか本当に旅行みたい…」
「まぁ、ずっと緊張してても仕方ないよ。気を引き締める所は引き締めて、緩めるとこは緩めようって意図じゃない? アレの考えが解るって、本当に嫌なんだけど。同じ解るんだったら、アオの考えてる事が解りたい」
ジト目で、ユエはシンクを見る。
そしてそんな事を言う彼女を愛しく思った。
僕はユエの手を取り、耳元で囁く。
「僕の考えてる事が解ったら、君は卒倒するかもね。君を愛しく想う反面、君を暴いて滅茶苦茶にしてやりたいって思ってるんだから」
「ーーっ?!」
耳を押さえ目を見開き、顔を真っ赤にさせるユエを見て苦笑する。
おばさん達には内緒だよ、と彼女の手を引きながら自分の口元に手を当てた。