ユーラ王国までは、立花家が運営している浮遊航空艦で3時間かかる。
チケットの方はおばさんが取ってくれていたようで、普通のエコノミークラスであった。
それについて、ユエとユタカが不満げに愚痴を漏らしている。
「アオ達王族が乗るっていうのに、なんでエコノミーにしたのママ…」
「ファーストクラスでも良かったじゃんね?」
ねー、と二人で言い合っていたが、窓側の席二つ三列で取ってくれていたのだから、あまり文句を言うのも…。
座席はもちろん、ユエと僕、シンクとユタカ、シャナとツルギとなっている。
「ユエ、どっち座る?」
「んー…窓側かな。3時間だけだけど、廊下側嫌」
彼女に問いかけると、そう答えが返ってきた。
女性陣皆そうな様で、男性陣が廊下側の席に座る。
え、なんで? とか思っていたら、シンクから念話が来た。
〈外見てた方が安心できるって奴も中にはいるが、廊下側で通り過ぎ様にセクハラされたら堪ったもんじゃない、って考える奴も一定数いるってこった。覚えておきな、グンジョウ〉
成程。
確かに知らないおっさんがユエに触れたら僕も嫌だし、下手したらそのおっさんにキレる可能性もある。
刃傷沙汰になる事だって有り得るかもしれない。
「アオ、顔怖い。ちょっとシンク、アオに何言ったのよ」
「何も言ってねーよ。何でもかんでも、俺のせいにすんのやめてくんない?」
いや、シンクから念話で来ただけで確かに彼は口を開いてはいない。
それはユエもわかってはいるが、普段穏和な僕がこんな表情をしているのが問題なようだ。
「大丈夫、ユエ。何でもないから」
「大方、航空艦の浮遊とかが怖いんじゃねぇの?」
ニヤニヤ笑っていうシンクに、僕は振り向き様言った。
「それは君の方じゃないのか? シンク。君の話を聞く限り、こういうのに乗った事なさそうだったけど」
「魔法使える俺が、浮遊感どうこうでビビると本気で思ってらっしゃる? やだなぁ、おにーさま。魔法ちょびっとしか使えないおにーさまじゃあるまいし」
あ?
僕が気にしてる事をよく言えたな、こいつ。
いや、僕だから分かるのか。
大体、魔力がないのはシャナがほぼ持ってったせいだと、未だに思ってるんだが?
「もうそろそろ離陸するっぽいから、黙れ馬鹿弟共」
シャナのドスの効いた声で、僕らの言い争いが止まる。
あの声をしたシャナ、怖いんだよなぁ。
眼光も鋭くなるし、雰囲気も本気で怒った母様そっくりだし。
シンクも僕から目を逸らして少し青ざめている。
僕も彼から真正面に顔を戻してため息をついた。
「ごめん、姉君」
「分かればよろしい」
僕もだけど、うちの王族でスイッチの切り替えがないの、弟妹と父様だけな気がする。
その内航空艦は離陸を開始し、ユーラ王国へ出発した。
確かに浮遊感はあったが、別に恐怖を感じる程でもなく、シートベルトを取っていいという表示が出たので、僕はそれを外す。
「そう言えば、ホテルとかどうするの? 何も聞いてないけど」
前の席から、シャナが身を乗り出して聞いてくる。
少しはしたないなぁ、と思いつつ、姉の質問に答えた。
「おばさんが一応、部屋取ってくれてるっぽい。遺物の回収なり破壊なりしたら、そのまま引き上げて来ていい、とは聞いてるけど」
「それ、ボロ宿とかじゃないよね?」
流石に航空艦のこの席じゃあるまいし、宿はちゃんとした所を取ってくれてる…はず。
名前しか教えてもらわなかったので、調べてすらいない。
娘も一緒なのだから、ボロ宿はない…と思いたい。
「ねぇ、グンちゃん。ホテルの名前なんて言うの?」
「ユーラ・ザ・シーアって聞いてるけど」
ユタカも身を乗り出して来たので名前を言うと、持っていた携帯で検索し始める。
そして彼女は、僕の前に携帯の画面を見せてきた。
「普通っぽいね。良かったね、グンちゃん」
「うん、画面近いよユタカ。もっと遠ざけてくれない?」
ごめん、と言って彼女は後ろの席に戻っていく。
シンクの方を見ると、少し面白くなさそうだ。
まぁ、自分の彼女が他の男…自分なんだけど…に、言い寄るのは見てて気分のいいものでもないだろう。
「うぅ、眠い…」
前の席からシャナがポツリと呟いた。
それもそうで、昨日ユーラ王国に行くと決まった後、何を持っていくか、城にある自室のクローゼットを姉は漁りまくっていたのだから。
別にそんな決める要素ある? と聞いた所、あるに決まってるでしょと怒鳴られた。
「寝たら? シャナ」
「…寝ない、絶対寝ない…」
僕の提案を、シャナは頑なに拒否する。
ユエに目配せすると、彼女は苦笑した。
「ツルギ、交代して。シャナ、降りる時になったら起こすから」
「え、ちょ…」
前の席にいたツルギの肩を軽く叩き、立つよう促す。
僕の意図が少し理解出来ないようで、立ちはしたが彼は首を傾げている。
だからシャナに聞こえないように、小声でツルギに言った。
「ツルギが隣にいると、シャナ緊張して寝られないんだ。寝顔見られるの恥ずかしいんだよ」
「……別に気にしないんですけど、俺は…」