彼も小声で返し、僕がいた席に座る。
そして僕は、ツルギが座ってた席に座った。
「ちょっと、グンジョウ…!」
「はいはい、文句は起きてから聞くから今は寝なよ。そんな寝不足で観光出来るわけ無くない?」
シャナの頭を抱き寄せ、僕の肩に乗せる。
姉はまだブツクサ文句を言っていたが、そのうち寝息が聞こえてきた。
僕の服を掴み、幸せそうな寝顔をしている。
たまに笑ったりしているので、良い夢でも見ているのだろう。
「おーおー、間抜け面で寝てら」
「あまり言ってやるなよ。シャナの未来の夫は、この顔を見て可愛いと思うかもしれないだろ」
シンクが席を立ち、僕とシャナを眺めに来てそう言った。
そしてツルギが席を立つ気配がして、僕は彼の方を振り返る。
「ツルギは見るなよ。何のために席交換したと思ってるんだ」
「…御意」
彼はそのまま、後ろの方に歩いて行った。
どうやらお手洗いに行こうとしていたらしい。
僕の早とちりだったか、と思ったが、シンクがニヤニヤ笑いながらツルギを見ながら言う。
「あれ、普通に見ようとしてたな。全く、無自覚って怖いねぇ」
「じゃあ自覚させてやればいいんじゃない? あんたなら出来るでしょ、ツルギの事分かってるんだろうし」
ユエが、シンクに突っかかる。
一体何が気に食わないのだろうか。
自分の中の夕陽が、崩れてしまうのが嫌なのだろうか。
それとも、ユタカの事だろうか。
多分聞いてもはぐらかされてしまうんだろうな、と僕はこっそりため息をつく。
「わかるって言ったって、俺の知り合いのツルギじゃねぇし。一番付き合い長かったの、こいつだろ」
「僕は前世の記憶を持ってない。だから、ツルギの事は知らないとしか言えない。思い出せるなら…思い出してみたいかもだけど…」
多分、辛い記憶も一緒に思い出す事になるだろうから、あまり乗り気ではない。
母様の前世を見てしまったから、余計に。
「思い出させてやろうか?」
「断る」
ニヤニヤしながらシンクが言うが、僕は即座に断った。
思い出すなら、絶対国に帰った後にしてもらいたい。
いったい何が起こるかわかったものじゃないから。
せめて、何かあった時に対処出来る人の近くにいた方が、僕としても安心なわけで。
そんな時艦内のアナウンスで、もうそろそろユーラ王国に着く事が流れ、ツルギが戻ってきた。
僕はジェスチャーで、そのまま座れと指示を出す。
シンクも元の席に戻って行った。
「シャナ、起きて。もうそろそろ着くって」
「んー…ツルギ君…好き…」
僕はツルギじゃないんだけど。
幸せそうなとこ悪いが、デコピンして起きてもらう。
「いったぁっ!? って…あれ?」
「寝ぼけてないでシートベルトして。着陸するから」
僕の言葉に、シャナは素直に自分の席のシートベルトを締めた。
さっきの言葉はツルギにも届いていただろうが、後でユエにどんな反応だったか聞かなくては。
そんなこんなで、僕らはユーラ王国に足を踏み入れたのだった。
◆◆◆
航空艦から降りて搭乗口を潜り抜けると、車とかは走っているものの、辺り一面雪景色で僕は驚く。
「真っ白だねぇ…」
「リューネより降るんだね、こっち」
事前に情報を手に入れてて良かった。
今年のユーラ王国は寒波に見舞われていて、結構雪が降っているって現地情報の天気予報が言っていたから。
うちの方は南方に位置しているから、雪が降っても積もる事はない。
防寒具持ってきておいて正解だった。
「……ちっ」
この景色を見て、シンクが舌打ちする。
嫌な記憶でも思い出したのだろうか。
とりあえず僕らは、拾ったタクシーでホテルへ向かう事にした。
「さむーっ!!」
「寒いね…」
「いや、舐めてた。寒冷地の寒さ、舐めてた…」
女性陣がホテルに備え付けの暖房器具の前で暖を取っている。
入った途端これだ。
その傍でツルギが、心配そうにシャナを見ていた。
三人にはちゃんと防寒着の準備しておいてね、って伝えていたはずなんだけど。
多分僕が心配して、大袈裟に言っていると思っていた節さえある。
僕とシンクはと言えば、ホテルへのチェックインの手続きをしていた。
おばさんはどうやら、僕の名前で手続きをしていたらしい。
三人部屋を二つ、期間は無制限ときたものだ。
「無制限って…一応学校あるんだけど…。いつまで居させるつもりなのさ、おばさんは…」
「部屋の期限を気にすんなって事だろ。一週間って期限付きだと、お前焦んじゃん? おばさんの優しさだと思えよ」
確かにその通りだし、期限が一週間とかだと下手したら強行軍をしかねない。
最悪の場合、僕一人で行くと僕の思考なら言い出しかねない。
流石おばさん、僕の事をよく理解しておられる。
女性陣に声をかけ、与えられた部屋へ向かう。
結構最上階の方で、部屋は隣同士みたいだ。
女性と男性で別れ、それぞれの部屋に入る。
中に入ってみると結構広めの部屋で、ダイニングテーブルみたいな物も置いてあった。
「キッチン付きなのか…」
「こん中に料理出来る奴いる?」