最後力尽きて、僕はうつ伏せでグッタリする。
ツルギが少し慌てて、オロオロしているのが気配でわかる。
「ごめん…ただの癇癪だから…あまり慌てないでもらえると…」
「…あの、姫呼びますか?」
その言葉に、僕は腕を上げて横に振った。
呼ぶ程では無いし、今シャナを呼んだらユエとユタカが2人きりになって気まずい思いをするだろう。
もしくは喧嘩するか。
「前途多難すぎる…」
僕はまた深いため息を吐く。
そんな時、誰かが入ってくる音がして、僕はそちらに目を向けた。
「何だよ、辛気臭ぇ顔して」
「お前のせいだよ、この馬鹿弟…」
シンクが何か紙袋を持って現れ、僕を見て眉を寄せる。
瞬間、僕の頭に何か硬い物がぶつかった。
「痛っ!! 何…っ?!」
「だーれが馬鹿弟だ、馬鹿兄。言っとくけど、俺はお前なの。俺が馬鹿ならお前も馬鹿なの。お分かり?」
驚いて起き上がると、僕の腕辺りに何か転がってくる。
見てみるとそれは林檎で、少しへこんでる所を見ると、僕にぶつかったせいだと理解出来た。
「食べ物で遊ぶなって、母様に怒られた事ないのか?!」
「悪いけど、俺はずっと幽閉されて育ってきたから、親の愛情なんて一欠片も貰った事ねぇよ」
シンクはダイニングテーブルに併設されてる椅子に座り、足を組んで紙袋の中から林檎を取り出し、食べ始める。
あんなに食べたのにまだ食うのか、こいつ。
というか、どっから買ってきたそれ。
「というか、幽閉って…」
「飯食う前に言ったろ? 身の上話が聞きたいなら聞かせてやるって。何、聞きたい?」
今日何度目かわからないため息をついて、近くにあった林檎をツルギに投げる。
受け取ったツルギは、少し困惑気味に僕を見た。
「ごめんそれ切ってくれる? シンク、君の身の上話、聞かせてもらおうじゃないか」
「おーおー、目が据わってらっしゃる。お前、そんな顔も出来んのな? どう? 一杯?」
シンクは紙袋から瓶状の何かを取り出して、ニヤニヤとしている。
それに対して、僕は首を横に振った。
「酒なら未成年だから飲めないよ」
「アルコール入ってない子供用のシャンパンだって。小さい頃飲んだ事ない?」
あるわけなくて、また首を横に振る。
ツルギはうんうん頷いていたけど。
飲んだ事あるんだ?
「まぁまぁ。あ、ツルギ。それウサギ型に切って。てかお前、マジ器用。それも要家の教えってやつ?」
ダイニングキッチンで作業しているツルギの手元を見る。
ウサギ以外にもリンゴを飾り切りしていて、シンクの言うようにかなり器用だ。
「で、話逸れたけど。聞いてやるから話せよ」
「うわ、お兄様こわーい………んな目で見るなよ。はいはい。聞いて罪悪感なり、憐憫なり覚えんじゃねぇぞ? 別に、俺はこうだったってだけだからよ」
◆◆◆
物心がついた時には、俺は薄暗い部屋に閉じ込められていた。
窓はあれど、鉄格子が嵌められていて出られるわけもなく。
唯一外に出られそうな扉には、鍵がかかっていた。
食事は一日三度だったから、まぁ、食わせて貰えてる方だとは思う。
食事の時にだけ、その扉が開いてお盆ごと床に置かれた。
そんな生活を続けていたある日の事。
五歳くらいの時だったか、食事の時間でもないのに扉が開いた。
俺には前世の記憶があったし、服とか湯浴み出来る場所も部屋の中にあったもんで、困ると言ったら食事くらいだけだった。
俺は扉の方に目を向けると、金色の髪をした二人が部屋の中に入ってきた。
「お姉様、この部屋臭すぎません? 鼻が曲がりそうですわ」
「シャナ、別に普通じゃないの。あまり意地悪を言うものではないわ。グンジョウ、初めまして。私はソルフィアナ・エリスリーナ・ブリリアント。この子は、シャナ・アジアンタム・ブリリアント。私達、貴方のお姉さんになるの。よろしくね」
ソルフィアナと名乗った女の子と、もう一人意地が悪そうな俺と同じくらいの女の子。
ソルフィアナは、俺に手を差し出してくる。
俺は一応警戒しながら、差し出された手を握った。
シャナは俺と手を握ろうともせず、見下すような目しか向けては来なかったが。
それから、ソルフィアナの訪問が増えた。
マナーとか、ダンスの練習とか色々教えてもらったよ。
両親には会った事なかったが、写真が部屋の中にはあってな。
蒼髪の男と、金髪の女が並んで微笑んでいたよ。
これが俺の両親だって、ソルフィアナは言ってた。
名前は、ナズナとシャルル。
こっちとそう変わんないだろ?
一回、ソルフィアナに聞いた事があった。
なんで父様と母様は、俺に会いに来ないのかと。
その時の彼女は、少し悲しそうな顔をしていてな。
会いには来れないけど、俺の事をとても気にかけている。
だからこそ、自分を寄越して様子を見ているのだ、と。
俺の話をすると、両親はとても喜ぶらしい。
ソルフィアナは、この国では女が跡を継ぐ事、双子は凶兆の証で忌み嫌われている事、双子が産まれたら片方は殺すという風習がある事、そして俺を殺させない為に、父様と母様が画策して俺を幽閉している事を教えてもらった。