「群青の対になるような名前なんて、一つしかないじゃない。深紅。今日から貴方の名前はシンク。気に入ってもらえると、ありがたいんだけど…」
少し困ったように笑う母様、慈愛に満ちた目で俺を撫でてくる父様。
前世では当たり前だった家族って形を、感じたよ。
「その名前で良い。2人の事を、父様と母様って、呼んでいいのか、分かんないけど…」
「呼んで良いに決まってるじゃない。可愛いあたしの息子だもの。これから宜しくね、シンク」
俺の部屋も用意されて、次の日お前らと会ったってわけ。
◆◆◆
シンクが話終わると、コップに注いでいたシャンパンもどきを呷る。
その話を聞いて、僕は押し黙る他なかった。
もし、僕がシンクの世界の僕だったのなら。
前世の記憶など無しに、幽閉されていたら。
ここまで明るく振る舞えていただろうか?
答えは否だ。
きっと卑屈になっていたし、周りを恨んでいただろう。
なんで自分がこんな目に遭わなければならないのかと、怨嗟の声をあげていたに違いない。
「お前に話したシナリオも、その時2人と考えたんだ……んだから、そんな顔すんなって。言ったろ? 罪悪感なり、憐憫なり覚えんじゃねぇって。俺はこうだったってだけで、むしろ運が良かった方だよ。あの場から、偶然にも助け出されたんだから」
「……あの、殿下のお姉さんは…」
ツルギが色んな飾り切りを僕たちの前に置いた。
見た目がすごい。
林檎でここまで出来るんだと感心する。
「さぁな。シャナに殺されたか、もしくは撃退出来たのか。知る術はねぇよ。シャナの奴、おじさん達殺してるっぽかったから、こっちに来る手段もねぇだろうし。あぁ、シャナと言えば。俺が一番驚いたのはシャナだったなぁ。あっちとこっちでまるっきり性格違うでやんの。あっちは悪女だったが、こっちは小型犬じゃん? もう一人弟が出来たって、スッゲェ喜んでて。あっちのシャナしか知らなかったから、最初は警戒したんだけどよ。表情コロコロ変わんの見てて面白ぇよな?」
僕を和ませようと、シンクはニコリと笑った。
ツルギは大いに頷いているし。
そこ頷いちゃダメじゃないかな?
「あっちはどうかわからないけど、シャナはいつもあぁだよ。勉強は嫌いだけど、弟妹の事になると頑張って何とかしようって努力する。いつも僕らを見てて、元気がなかったりすると寄り添ってくれる。そんな優しい姉君だよ、シャナは」
コンコンと、部屋の扉がノックされる。
シンクが立ち上がり、扉を開けると苦笑してるシャナがいた。
どうやらさっきの話、聞こえていたらしい。
「どうしたよ、シャナ?」
「いや、あの、グンジョウの無意識念話がね、あったからちょっと、心配になって…立ち聞きするつもりはなかったんだけど…」
「それはごめんなんだけど。それより、あの2人大丈夫? 喧嘩してない?」
シャナがここに来たという事は、今ユエとユタカは部屋に2人きりという事だ。
心配になって聞くと、うーん、とシャナは苦笑いを浮かべる。
「どっちとも喋ろうとしてなくて。お互い無視してるっぽいんだよね。存在は認識してるけど、喋る必要ないっていうか…。ちょっと居た堪れなくて、こっち来てみたんだけど…」
「んじゃ、ユタカ連れ出すわ。シャナ、ツルギの手先器用だから、あれ食ってみろよ。あれ全部ツルギ作ったんだぜ」
ポンポンと姉の頭を軽く叩いて、シンクは女性陣の部屋へ向かっていった。
代わりにシャナが部屋に入ってきて、テーブルに並べられている林檎の飾り切りに驚いている。
シャナの様子を見ながら、本当に今後どうしようと僕は頭を悩ませる事になった。
◆◆◆
天気予報とは裏腹に、次の日の天気は快晴だった。
ホテルの従業員に聞いたら、今日は1日快晴で吹雪く心配はないそうだ。
昨日のシャナは、どこの天気を見ていたのだろうか?
「昨日はよく眠れた?」
今朝はペア同士で朝食を食べようとシンクから提案され、僕はユエと2人でみんなから離れた位置でモーニングセットを頼んで食べていた。
飲み物はもちろんブラックコーヒーである。
「まぁ、ね…」
「ねぇ、ユエ。僕少し不安なんだ。ユタカの事もだけど、このパーティで本当に魔王と戦えるのかって。歪すぎるとは思わない? 僕は、あちこち綻びが多過ぎると思う。雑念とでも言うのかな。戦いに集中できていないと感じるんだ」
僕の言葉に、ユエは頷いてくれる。
いくら母様達が鍛えてくれているからと、戦闘技術を磨いた所で、一瞬の判断ミスで命を落とす事だってある。
「まだ魔王の脅威を感じていないから、こんなのんびりしていられるんだと思う。本当はリーダーとして、非情にならなければいけないとは、分かってるんだけど…」
「アオは優しいから。でも、責任は重く感じてるんだよね。わかってるよ。ごめんね、私達の事で頭を悩ませてしまって。私達の事は気にしないで、って言ってもアオは気にしてしまうんだろうけど。でも私達は、王妃様の守り役を生前からずっと務めてきた、立花夏月の娘です。自分達の責任と立場は、誰よりも理解しています」