「んー…なんか、その内出来そうな気がする」
「魔法や剣技の話じゃないんだから。何、その内って」
本から顔を上げ、僕はシャナの方を仰ぎ見る。
お風呂上がりの姉は、冷蔵庫からミルクを取り出しコップに注ぐと、一気に飲み干した。
内装の関係上、僕が座っているソファーの後ろにキッチンがあり、シャナはそこでミルクを飲んでいるので、結果自然と仰ぎ見る形になるのだ。
「なんだろ、勘?」
「お気楽すぎるだろ、シャナ。まぁ、僕も決めあぐねているんだけど」
第一候補はユエとユタカだった。
おばさんが貰っている称号、トリスタンは騎士の家系のもので、王族の護衛役を度々排出している家だったらしい。
本来なら、王族の親衛隊隊長であるニーナ隊長が、トリスタン最後の生き残りとして領主の座に着くはずだったのだが、彼女自身がもう歳だからと辞退した。
だからこそ、カヅキおばさんがトリスタンを名乗れているわけで。
「ユエか、ユタカ…どっちか、専属護衛になってくれたらなぁ…」
「いや、無理でしょ。どっちもグンジョウのお嫁さんになるんだって聞かないじゃん」
そうなんだよね。
チート能力者であるカヅキおばさんと、ユーリおじさんの子供だから、実力自体申し分ないのに。
どちらか片方が専属護衛になるのは嫌だと、おばさんに言ったらしい。
「困ったなぁ…」
「あたし達くらいだよね、専属護衛がいないの」
シャナは僕の隣に腰掛け、テレビをつけた。
テレビの向こうでは、この世界でお馴染みになった歌番組が流れている。
リーゼやアンナ、それに一番下のラゼッタに至るまで、専属護衛がついていた。
大半は立花の家の子だけれど。
ついていないのは僕らだけ。
「どっちか諦めてくれたら良いのにね」
「そんな希望的観測言うのやめよう。それに、今努力してる彼女達に失礼だ」
僕はそう言って、本に目を落とす。
そんな僕に、シャナは呆れた目で見た。
「お風呂どうすんの」
「これ読んだら行く」
スパンと頭を叩かれる。
痛くて頭を押さえ蹲っていると、シャナが本に栞を挟んで抱え上げてしまった。
「ちょ…」
「グンジョウが本の虫なのはよく分かってるけど、お風呂と睡眠はちゃんとしなさいって、母様も言ってたでしょ? あんまり酷いと、母様に告げ口するからね」
ムッとしている姉に、僕は両手をあげて降参の意を示す。
「わかった、わかったからそれ返して」
「グンジョウとは生まれた時から一緒なんだから、それは絶対わかってない言い方。だから明日の朝まで返さないからね」
僕の事をよくわかってらっしゃる。
僕はため息をついて、シャナに頭を下げた。
「すみませんでした、お姉様。僕が悪かったです。お風呂に入ってもう寝るので、それはそこの机に置いててもらえないでしょうか」
「よろしい」
最近母様に似てきたんだよな、シャナ。
そんな事を言ったら、グンジョウは父様に似てきたよ、なんて返される事必死だ。
僕は観念して着替えを自室から持ち出し、お風呂に向かうのだった。
◆◆◆
「えー、今日は使い魔の召喚をする。ついでに魔武器の召喚もするからそのつもりでな」
訓練場に集められた僕達生徒は、カヅキおばさんの授業内容説明に耳を傾ける。
魔武器と使い魔は、リューネ国民誰しもが持っているものだ。
魔力が少ない子でも、自分の半身になる使い魔と契約できるのだから。
かく言う、僕も魔力量は少ない。
母様のお腹の中にいた時に、半分以上シャナに持って行かれたせいだと思っている。
帰ったら楽しみが待っているので、早く今日の授業が終わらないかな、なんて考えてしまった。
授業は真面目に受けろという話ではあるが。
「では、出席番号一番から順次魔武器の生成と使い魔の召喚をしろ。やり方は教科書に載ってるから、それを見てやるように。良いか? やり方をアレンジしようとしたり、自分の実力に見合わないような物を召喚しようとしたり、禁忌に触れるような事をしたら…王妃が直々に処刑しに来るから、気を付けろ」
カヅキおばさんのその言葉に、周りがざわついた。
一介の国の王妃がそんな事出来るわけない、という考えなのだろうが、身内である僕らにはカヅキおばさんの言葉が真実なのだと知っている。
母様が転生者だと、母様自身から聞かされていた。
転生者とは何ぞやという話になるが、別の世界で死んだ者が違う世界に転生する際、神から莫大な力を与えられた者らしい。
ちなみに、カヅキおばさんやユーリおじさん、カヅキおばさんの妹であるルカさんもだそうだ。
だからこそ、王妃である母様はこの国を守る義務がある。
父様も国を守ってはいるが、それは政治的な事。
母様の力は国内外からの武力に対して、対抗する力を持っている。
カヅキおばさんが敵に回ったら、この惑星は消滅すると母様は常日頃から言ってはいるが、おばさんが母様の敵に回る事はないだろう。
むしろ、母様の敵を先んじて滅ぼすのがおばさんの役目なのだろうと、おばさんの行動を見る限りそう思うのだが。