その横で、トーカが足を組んでこちらをニヤニヤ笑って見ていた。
「おっそーい。待ちくたびれちゃったよ。退屈すぎて死ぬかと思ったじゃーん?」
「そのまま死ねば良かったのに」
ユエがぼそっと、トーカに暴言を吐く。
それも聞こえていたようで、トーカはニヤニヤとユエを見た。
「わー、お兄ちゃんがいる前でそんな事言うなんて、幻滅されても知らないよー? あはっ! お兄ちゃんが何も言わないの、そういう事なんじゃないの? 可哀想ー!」
「こんっの…っ!!」
ユエが魔武器を取り出し、トーカに向ける。
瞬時にシンクが固定魔法を半径2キロに張ったようで、空気が淀むような感覚を覚えた。
「桃華、お前暴言ヤバくね? てかそもそも、グンジョウの報告書読んだ限りじゃ、お前死んでんだけど。なんで生きてるわけ?」
ユエがトーカに向かって銃を撃ちまくり、左右からユタカとツルギが攻撃を仕掛ける。
銃弾をどうやってか避けたトーカは、ユタカの剣に自分の剣を当て、ツルギの拳には足を上げて対抗し、二人を弾き飛ばす。
「お兄ちゃんモドキもいるんだー。アタシが生きてる理由? そんなの決まってんじゃん。アタシが魔王の手先だからだよ。アタシの命は、魔王が握ってんの。だからアタシを生かすも殺すも、魔王次第ってわけ。アタシの血飛沫を浴びたお兄ちゃん、格好良かったなぁ…」
恍惚とした表情をするトーカを、僕は素直に気持ち悪いと感じた。
シャナが魔法を唱える瞬間、僕は駆け出す。
「シャナ!」
「わかってる!」
ブランシュとノワールに、シャナが魔法付与をしてくれた。
光と闇を付与された2対の剣をトーカに叩き込む。
「あぁ、お兄ちゃん。やっとアタシのとこに来てくれたのね。周りが鬱陶しいし、お兄ちゃんとお話ししたい事いっぱいあったの。てーことで、アンタら足止めよろ」
二本の剣の攻撃を、トーカは片手剣一つで受け止めている。
彼女が空いた片方の手で指を鳴らすと、異形の人型が影から現れた。
「精々耐えて見せなよ。お兄ちゃんとアタシの邪魔はするんじゃねぇぞ」
「この馬鹿女!! アオに何かしたら、魂までぶっ殺してやるんだから!!」
ユエさん、暴言凄い。
これ、カヅキおばさんの影響かなぁ…。
なんて頭の片隅で考えながら、トーカと拮抗状態に陥る。
ニヤニヤ笑う彼女が気持ち悪すぎて、思わず足が出た。
トーカの顔側面に、蹴りを叩き込んでしまう。
彼女はそのまま吹っ飛んで、遺跡にぶつかった。
「いったーい! お兄ちゃん、妹の顔に足を上げたわね! お父さんにもやられた事ないのに!」
「そんな事を日常的にやる父親は、虐待で訴えられても仕方ないとは思うけどね」
岩でも蹴ったかのような感触に、僕は眉を寄せる。
骨は折れてはいないが、痛いものは痛い。
シャナ達の方を見ると、ツルギやユタカが二人を守るように戦っている。
ユエもこちらに来ようとはしているようだが、異形の人型に阻まれて来られないみたいだ。
「トーカ、お前は何がしたいんだ」
「アタシ? アタシがしたい事かぁ…」
立ち上がったトーカは、口元に手を当て首を傾げた後、ニヤリと笑う。
「お兄ちゃんが絶望してくれたら、アタシは嬉しい。アタシが味わった絶望の一欠片くらい、お兄ちゃんも味わったって良いでしょ? それが、アタシのしたい事」
「…悪趣味過ぎる。僕が絶望? させられるものなら、させてみろ」
トーカに剣を向ける。
ケラケラ笑うトーカだったが、一瞬で顔が真顔になった。
目に光も灯っていない。
深淵を覗いているかのような不気味さを感じる。
「なんでアタシがここまで来たか、考えてみなよ。いや、思い出してみろよ。なぁ、グンジョウ。アタシを殺した感覚、思い出せないの?」
「何を言って…」
トーカの言葉に、僕の視界がグラつく。
シンクが何か叫んだが、聞こえない。
倒れるわけにはいかず、僕は唇を噛みちぎった。
痛みで視界はマトモになったが、トーカの声以外聞こえてこない。
「アタシのお腹に包丁を突き立てたよね? その感触はどうだった? お肉を切るようだった? 硬かった? それとも…楽しかった?」
「何を…馬鹿な…」
頭がぐらついて、思わずブランシュを地面に突き立て、手をついた。
その時だった。
バリンという音がして、トーカ以外の声が僕の耳に入ってくる。
「あぁぁぁあっ?! それ持って帰れって言われてたのに、何壊してんの?! 魔王に怒られんじゃん!!」
「グンジョウに気を取られてた、お前が悪くねぇ? グンジョウ、無事か?!」
シンクの声が聞こえたが、僕は動けそうもなかった。
トーカの先程の言葉が、僕の頭の中をぐるぐる回っていたからだ。
グンッ、と腕を引っ張られ、僕の体はトーカから離される。
一体誰がと思ったら、身体強化を使ったユエだった。
「アオ、しっかりして! それを考えるのは後!! 今はあいつをどう殺すか考えなきゃ…っ!!」
僕を抱き抱えながら、ユエはトーカを睨みつけている。
その表情を見たトーカは肩を竦め、やれやれと首を横に振った。