こちらから連絡するべきかとも思ったが、その話はシャナ達が帰ってきてからでも良いだろう。
「んじゃ、俺はあいつらの出迎えでも行ってくるよ。後はごゆっくりー」
ベッドから立ち上がったシンクは、扉へ向かって歩き出し、後ろ手に手を振ってから扉を閉めた。
何をゆっくりすれば良いんだ。
それを教えてから何処かに行って欲しいのだけど。
「アオ…無事で良かったよ…」
僕を抱きしめながら、ユエはまた涙を溢した。
今日の彼女は泣き虫なようだ。
いつもの気丈なユエは、鳴りを潜めているらしい。
まぁ、そんな戯言は横に置いておいて。
「うん。君も無事で良かったよ、ユエ」
彼女を抱きしめ返し、額に口付けを落とした。
◆◆◆
ユーラ王国からリューネに帰ってきた僕達を、おばさんは空港で待ち受けていた。
とても真剣な顔で、シンクと二、三言話した後、僕達を運転してきた車に誘導する。
その間無言で、車の中は静寂に包まれていた。
〈一体何があったんだよ、シンク。ここまでカヅキおばさんが無言だなんて〉
〈父様の護衛としておばさんが着いて行った後、母様に何かあったらしい。二人が帰ってきたら、親衛隊から母様が何者かと戦闘になって、城の一部が破壊されているって報告を受けたんだと。それ以上は城に帰ってから自分達で見聞きしろって言われた〉
何だそれ?
城の一部が破壊?
母様なら余裕で直せるだろうに。
少し首を傾げる僕へ、シャナが不安そうに服を握って見つめてくる。
大丈夫だと安心させる為、僕はシャナの頭を撫でた。
城に着くと、確かに大広間の一部が崩れ落ちて兵士達が撤去作業に追われている。
カヅキおばさんがこっちだと一言言い、僕らはそれについていった。
おばさんが城の一角、人気のない廊下の壁を押す。
それは容易に開き、地下への階段が姿を現した。
「これ、ちゃんと許可もらってやってるんですよね?」
尋ねるが、おばさんは無言で階段を降りていく。
流石にここまで何も言わないおばさんを見て、僕は異様さを覚えた。
階段を降り切った先、隠し部屋とでもいうのだろうか。
円形の魔法陣の中、漂うように浮遊しながら眠っている母様の姿がある。
その傍には、母様を見つめながら憔悴している父様がいた。
「ナズナ、来てたのか。ここには来るなと言っていたはずだが?」
「………」
おばさんが声をかけるが、父様は何も反応せずずっと母様を見ている。
触れたいのに、触れたら母様が壊れてしまうと思っているようだった。
「一体何があったの…? カヅキおばさんに及ばなくても、母様だって強いはずでしょ…? ね、父様…」
シャナが父様に駆け寄り、その腕に触れる。
「敵襲に遭って、腹に穴を開けられた状態で昏倒しているのを発見された。すぐに治癒師が回復魔法をかけたが治らず、私宛に緊急で連絡が来た。私の異能を持ってしても、回復せなんだ。今は、固定魔法を何重にもかけて死なないよう維持している状態だ」
途端、父様の肩が震え出した。
傍にいたシャナが驚いた顔をしている事から、多分父様は泣いているのだろうか。
「…シャルも、連れて行けば良かった…っ! 自分も行ったら、相手が驚いてしまうと…そう言う彼女の反対を押し切って…!」
「お前がいても何も変わらなかったかもしれんが…そうだな。私も、自分よりお前を守って欲しいと、分身は置いていかなくて良いと言ったあいつに反すれば良かったと、今は思っているよ」
おばさんも、苦虫を噛み潰したかのような表情をしている。
だが、僕は少し疑問に思った事を二人に聞いた。
「母様、星読みの力を持っていたんですよね? なら、危機回避も出来たはずでは? この状態になるのを予見していなかったとは、僕には思えないんですけど…」
二人が驚いた様子で僕を見る。
何かおかしな事を言っただろうか?
「カヅキ…すぐシャルの躯体を作れ。シャルは後で説教しなければならん」
「その通りだな。こいつ…こうなる事も見てたってわけだ。速攻で作って、一発殴ってやる」
なんか急に生き生きし始めた二人に、僕は首を傾げた。
シャナが僕の傍に来て耳打ちする。
「多分、母様が何も反撃できずにこうなったって思ってたんだよ、二人共。別に母様、か弱いわけじゃないのにね? グンジョウの言葉で、そう言えば母様星読みがあった、って思い出したんじゃない?」
「…成程」
母様は最強の分類に属する人だ。
相手が誰だか分からないが、母様をこんな状態にするなんて。
暫くすると、カヅキおばさんの分身体が母様と寸分の狂いもない躯体を持ってくる。
ちゃんと母様の服も着せてあった。
ちなみに躯体とは、自分の魔力を流して自らの意識をそちらに移動させたヒトガタである。
生身では危険な場所でも、その躯体を使えば安全に作業できるというものらしい。
これを用いて、この間母様の魔武器である雛桔梗が躯体を作ってもらい、彼女は嬉しすぎて母様とカヅキおばさん、レヴィを抱きしめていた。
おばさんは円形魔法陣の中から一節だけ取り出し、躯体に刻む。