my way of life   作:桜舞

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76話『せめて口説いておけ』

「だーめ。妃教育が始まるまでこのまま。ユエ? あまりその事を言うと、腰が立たなくなるまでキスするから、そのつもりでね?」

 

僕の言葉に自分の口を両手で覆いながら、ユエは大きく頷く。

今するとは言ってないのに。

 

というか、夕陽め。

雪那を大事にしていたのは分かるんだけど、せめて口説いておけ。

キスもしないとかお前本当に男だったのかと問いたい。

いや、そのおかげでこんな反応をするユエを見れるから、感謝するべきなんだろうけど。

 

「あー…ユエ可愛い…」

「…ありがとう」

 

胸に頬擦りをして呟くと、お礼を言われる。

少し恥ずかしそうにしているユエにキスをしたいと思った瞬間、親衛隊の人が彼女を呼びにきた。

どうやらお祖母様が城に到着したようだ。

僕はユエから自らの手を離し、彼女の手を取ってその甲にキスを落とす。

 

「いってらっしゃい、ユエ。無理はしないように、と言いたいけど、お祖母様のレッスンだから無理をせざるを得ないよね。今日はずっとここにいる予定だから、何かあったらおいで」

「…うん、いってきますアオ。大好きだよ」

 

ユエは少し身を屈めて僕の頬にキスをすると、踵を返して扉の方に歩いて行く。

された方の頬に手を添え、僕は苦笑した。

 

「僕も、愛しているよユエ」

 

◆◆◆

 

ユエが妃教育に行ってから一時間経っただろうか、僕の向かいに誰か座る気配がして、目をそちらに一瞬だけ向けた。

 

「何か用? シンク」

「別に。俺も本を読みにきただけ。そんな邪険にするなよ」

 

してるつもりは全くないのだが、そう聞こえてしまっただろうか。

まぁ、そんな事を気にするシンクではないから、放っておくが。

 

「ユタカと婚約したんだってね。おめでとう」

「お前とユエのダンスを見て、吹っ切れたらしくてな。あんなに仲睦まじそうに、私とは踊ってもらえないんだろうな、って泣いてたよ」

 

誕生日のパーティーの時のだろう。

その時に、ユエが僕の婚約者として発表された。

お披露目として、二曲くらいユエと続けて踊ったのは、とても楽しかった記憶しかない。

 

「うん、それはまぁ…」

「空き部屋に連れてって、泣き止むまで抱きしめてたら、ユタカからキスされた。今までごめんなさい、これからは貴方だけを見るからって。別に俺は今のままで良いって言ったんだけどさ。こんな私を愛してくれてありがとう、ってお礼を言われたよ」

 

惚気かな?

その割には、髪は赤のままだけど。

 

シンクの話は独白みたいなもので、僕は本を読みながらスルーする。

別に聞いてもらいたいとは思っていない。

僕自身だからそれはわかった。

 

「こんな酷い女なのに、どうして貴方はそんなに優しいのってまた泣いてたよ。ユタカの事が大事で、愛してるからって返してさ。俺の事を道具として扱ってくれても構わない、お前が幸せなら俺はどうなっても良いんだって言ったら、私変わるって言ってきたんだよ。貴方から貰ったものを返せるように、努力する。だからどうか、まだ私の事を愛してくれませんかって懇願されてさ。懇願されなくてもそのつもりなんだけど。髪もさ、お前を思い出すだろうからってまだ戻せないままだ」

 

チラリとシンクの方を見る。

彼は本を取り出して読んでいる所だった。

本当に本を読みに来ただけのようだ。

その割にはお喋りだけど。

 

「ユタカがちゃんと吹っ切れたら、髪色戻そうかなって思ってる」

「そう」

 

そこで言葉が途切れた。

紙を捲る音だけが、図書室に響く。

その内、昼を知らせる鐘が鳴った。

 

まぁ、別にお昼食べなくても死にはしないとそのまま読んでいたら、肩に手を置かれる。

顔を上げると、いつの間に入ってきたのかユエが苦笑していた。

 

「アオ、お昼休憩もらったからご飯一緒に食べよ?」

「……あぁ、うん」

 

向かいを見ると、ユタカがシンクに抱きついて泣きついている所だった。

妃教育キツイよー、って。

ユエも同じ事してるんだけど、そういえば泣きつかれた事ないな、なんて思う。

 

僕は立ち上がり、ユエの手を取って歩き出す。

シンク達の邪魔はしない方がいいと思ったから。

 

「アオ、何処に行くの? 食堂あっちだけど」

「化け桜のとこ。そこで昼食摂ろう」

 

通りかかったメイドに、化け桜の所へ昼食用で食べやすい物を持ってくるよう頼み、僕らはそこへ向かう。

化け桜はちゃんとした桜なのだが、意思を持っている桜で、カヅキおばさんがどこからか持ってきてこの城の庭に植えてしまった。

その上、花びらが舞い散っているのにも関わらず枯れる様子もない。

だから、化け桜と呼ばれていた。

 

「やぁ、化け桜。ここでお昼を食べようと思うんだけど、花びらを散らすの抑えてもらえないかな?」

 

化け桜が鎮座している庭につき、僕は彼? 彼女? に話しかける。

最初大量に花びらが散っていたが、それが少量になった。

不思議な事に、花びらは積もる事無く地面についた瞬間消えている。

掃除しなくて良いのは良い事だと、メイド達が話しているのを聞いた事はあったが、こういう事かと納得する。

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