僕とシャナは、ポカーンと彼がいた場所を見つめる。
「…何かおかしな事言ったかな…?」
「……あー、そういう事。ツルギ、迂闊な事したな…反逆罪に問われてもおかしくないっていうのに…」
反逆罪という単語に、シャナの顔が一瞬で不安へ染まった。
フラれた相手だろうに、未だに好意を持っているのか。
うちの姉は一途過ぎる気がする。
僕も人の事は言えないけど。
「ど、どうしよう…いや、もうどうにも出来ない…?」
「それを止める為に、シンクが飛んだんでしょ。何なら、シャナも行ってきたら? シンクの魔力を辿って飛べるでしょ?」
その手があったか、という顔をしたシャナはすぐに転移していった。
まぁ、ツルギが敵に回るのなら、僕は容赦なく斬り伏せるだけだ。
「シャナの事、大事に想ってると思ってたんだけどなぁ…」
本棚から適当な本を取り出し、席に戻って読む。
数百ページあるそれを半分くらい読み終えた所で、シンク達がツルギを連れて戻って来た。
「お前、本当に無茶すんな! 下手したら反逆罪で頭と胴体おさらばしてんぞ?!」
「…すみません。姫も…心配かけて、ごめん…」
煩いなぁ、と思いつつも、僕は本から顔を上げてシンクに尋ねる。
「で? どういう顛末だったわけ? 場合によっては、カヅキおばさんに報告しなきゃいけないんだけど」
「こいつ、桃華に呼び出されたんだと。あっちは世間話程度だけだったっぽいけど、こいつは桃華を殺そうと思ったらしい。ツルギお前…よく初恋の相手殺そうと思えたな?」
僕は少し驚いてツルギを見た。
初恋?
桃華が?
あの頭のおかしい奴を?
ツルギが?
「え、趣味悪…」
「…すみません。狂うまではマトモだったんです、あいつ…」
思わず呟いてしまった僕に、ツルギは頭を下げてくる。
いや、そこは少しムッとしてもいい気がするんだけど。
「で? 殺そうとした後は?」
「俺とシャナで止めに入ったよ。こいつ1人で桃華を殺せるとは思えなかったんでな。無謀が服着て歩いてるのか、お前は」
シンクが軽く睨みつけるとまた、すみません、とツルギが謝ってくる。
「桃華が撤退してった後、事情も聞いた。こいつ、夕陽と桃華の墓を死ぬまで弔いたかったんだとさ。あっちで唯一の友達だったんだと。だから、日本に帰りたがってたっぽい。その夕陽が、俺かお前かは知らねーけど」
少なくとも、雪那と桃華の事は思い出したけど、ツルギの事は思い出してない。
もしかしたらツルギの言う夕陽は、僕ではないかもしれないけど。
「どうする? おばさんに報告する?」
「しなくても良いんじゃね? それに、おばさんの結界がこいつを弾かなかったって事は、まだシャナの傍に置いていても問題ないって事だろ。結界自体、おばさんの感覚と繋がってるわけだし」
本当、どういう原理でこれを作ったのか教えて欲しい。
少し興味がある。
「ツルギ君…」
シャナが少し心配そうにツルギの名前を呼ぶ。
その声に彼はシャナの方を見て、僕らがいる前で姉を抱きしめた。
「ごめん、姫。今度からちゃんと、行き先は言う」
「え、あ、うん?! あ、あの、ツルギ君?! グ、グンジョウ達が見てるから、離してほしいかなぁ?!」
シャナが顔を真っ赤にし、目を泳がせながらツルギにそう言うと、彼は素直に姉を離す。
「? 姫、顔が真っ赤だが…」
「う、うん! ちょっとこの部屋暑くないかな?!」
そんな馬鹿な。
暖房が入っているとは言え、少し底冷えがするというのに。
照れ隠ししているのはわかるが、僕らにどっかいけってジェスチャーすれば、空気読んでいなくなったのに。
「シャナ、馬鹿だろ」
「馬鹿だね…」
ポツリと呟く僕らに、シャナが涙目になった。
そんな事はわかっているが、どうしたら良いのかわからないと言った感じで僕らを睨む。
「だから、あれほど彼氏作っておけって…」
「…姫、彼氏いた事ないのか?」
ツルギがトドメを刺しに来る。
俯いて肩を震わせるシャナを彼は心配そうに見つめているが、その状態にしたのは自分だという自覚がなさそうだ。
「いた事ないよ! うわぁぁぁんっ!!」
シャナは泣きながら、僕らに背を向けて図書室から走り去っていく。
驚いて固まったツルギだったが、ハッと我に返り慌ててシャナの後を追いかけて行った。
「ねぇ、シンク。ツルギはなんでシャナに告白しないんだと思う?」
「知らね。自覚がないのか、自分に何か制限をかけているのか。どっちにしろ、シャナ可哀想ー」
それは同意する。
姉の一途さが報われて欲しいと、弟としては思っているが…相手が悪いのではないだろうか。
「ツルギじゃなきゃ、シャナはダメなんだろうなぁ…」
「だろうな。初恋って拗らせるって聞くけど。まぁ、何とかなるだろ」
椅子に座りながら、シンクは後ろ手に手を組む。
僕は彼の方を見ながら尋ねた。
「それ、星読みの力? それとも希望的観測?」
「さぁな。まぁ、これ以上はデバガメになるからやめとこーや、お兄様」
それもそうかと納得して、机の上に散らばったシャナの宿題をまとめ、机の隅に置く。
ユエ達が帰るまで、僕らは読書をしながら過ごしたのだった。