「せ、先生…そんな事、許されるんですか?」
クラスメートの一人が、挙手をしながら尋ねる。
だがおばさんは、それに対して鼻で笑った。
「お前ら、相手はこの国の王妃だぞ? ここの法律に関して全てを記憶している。国に脅威が訪れる場合、それが難敵であろうとも排除する。王妃は陛下が即位された際、戴冠式に来ていた全ての貴族に宣言なさっているんだ。ならば、それを引き起こした者を殺すのは、王妃の仕事という事になる。私は忠告したからな? それでもやるようなら止めんし、一族郎党皆殺しになるのを覚悟しておけ。自分一人だけだと思うなよ?」
周りが、僕とシャナを見る。
やらかしても温情を、とか思っているんだろう。
いつも優しい母様しか、見ていないとでも思っているのだろうか?
王妃としての責務と、無慈悲さを知っているというのに。
「なんかめっちゃ見られてるんだけど」
「悪戯したら殺されるって言われたんだ。しなければ良いだけの話なのに。何かやらかしても、僕らが母様に口添えしてくれるとでも思ってるんでしょ」
居心地悪そうにシャナが僕を見る。
そんな姉にそう返した。
誰がそんな事をすると言うのか。
僕は優しいと言われているけれど、王族の務めは理解しているつもりだ。
国へ脅威が迫るというのなら、僕の優しさなど塵芥にも等しい。
そんな甘さは捨てるべきだと、父様は言っていた。
母様も、優しい人ではあるのだ。
でも敵と見定めた者には、容赦しない。
それが、王族のあるべき姿だと、僕もシャナも理解している。
おばさんは影から椅子を引っ張り出し、座った。
偉そうに足を組んで、円形魔法陣を起動し書類整理を始める。
各自勝手にやれという事だろう。
「グンジョウ、どうする?」
「やるしかないでしょ。やり方は教科書を見ながらやれって先生も言ってたわけだし」
僕は教導の教科書を開き、召喚のページまで捲る。
描くものが見つからなかったので、適性ではないが多少使える風魔法で召喚の魔法陣を描いた。
「シャナ、先にやる?」
「うーん…ちょっと怖いから保留で」
保留って…やらなければならないのに、保留等出来るわけないだろうに。
僕は少しため息をついて、魔法陣に魔力を流し始める。
魔武器は自分の半身とも言える武器だ。
だからこそ、自分が取り扱いしやすいイメージが必須になる。
うーん…好きなものと言ったら本なんだけど、それは実用的ではないし…戦闘訓練するのに本はないなぁ…。
やっぱり剣かなぁ…。
そう思っていると、僕の両手に重量がかかった。
見ると、黒と白の一対の剣が現れている。
あぁ、これが僕の魔武器か、と納得した。
「白がブランシュ、黒がノワール。よろしくね、君達」
魔武器に名付けを行う。
一対の剣が現れたのと同時に、僕の腰辺りにナイフホルダーが出現し、それぞれの鞘が納められていた。
とりあえず一対の剣をそれぞれの鞘にしまい、姉の方を振り向く。
「出来たよ」
「う、うん。よーし、やるぞー!」
妙に気合を入れるシャナだったが、そんなに力まなくても良い気がする。
ちょっと嫌な予感がした僕だったが、それは当たってしまったようで、シャナが魔法陣に込める魔力が多すぎて、魔力風が吹き荒れ始めたのだ。
「ちょ、シャナ! 多い、多すぎる!! 何作るつもりなの?!」
「え、多かった? 少ししか入れてないつもりだったんだけど」
姉が僕の方へ振り向き、きょとんとしている。
こういう所が、母様に似ている所だと思わざるを得ない。
戦闘訓練で魔法を連発していた母様に対して、カヅキおばさんが注意しに来た事がある。
お前は大技に頼りすぎる所があるって、すごい怒ってたっけな…。
その姿と、今のシャナの姿が重なった。
閃光が迸り、僕は思わず目を閉じる。
次に目を開けた時、シャナの腕には黒い腕輪が巻き付いていた。
多分あれが、シャナの魔武器なのだろう。
「えーと…黒だから…シュヴァルツ!」
ニコニコ笑う姉へ、僕は抗議の意を込めて頭を軽く叩いた。
「いった!! 何するの、グンジョウ? 頭叩いて脳細胞が減ったらどうするの? あたし馬鹿になるよ?」
「今も馬鹿だから問題ないだろ。あのね、シャナ。僕ら王族なの。自覚してないかもしれないけど、王族なの。一応見本にならないと駄目なの。わかる? 少し文言変えて、次は使い魔の召喚に使おうと思ってた魔法陣、吹き飛ばしてるの。ねぇ、シャナ? なんであんな馬鹿な事したの?」
詰め寄る僕に、シャナは冷や汗をかきまくっているようで、目を逸らした。
「いやー…馬鹿な事をしたという自覚が…」
「じゃあ馬鹿じゃん。アホの子じゃん。少し頭使った方がいいよ、シャナ」
僕がそう言うと姉は目を潤ませ、ツェリの方に駆けていく。
「うわーん! ツェリーっ!! グンジョウが虐めるーっ!!」
「シ、シャナちゃん…あ、あの…」
困ったように、僕とシャナを交互に見るツェリに、僕は肩を竦めるだけにしておいた。