「ユエがお昼持ってきてくれるって言ってたから、僕ユエと食べようと思うんだけど、シャナはどうする?」
座学の授業が終わって、僕は立ち上がりながら伸びをする。
それをしながら姉に聞くと、シャナは首を横に振った。
「あたしは屋上でお昼食べるから、そこ以外で食べなよ。なるべく二人きりになりたいんでしょ?」
「そんな気遣いしなくていいよ…」
苦笑いを浮かべるシャナに、ツルギとまた何かあったのだろうかと思ってしまう。
あと、この校舎で二人きりになれる場所なんて、校舎裏か、空き教室くらいではないだろうか。
そこもこの学校の生徒全員が知っているので、その場所に行った所で、カップルだらけではあるとは思うのだが。
まぁ、時間が限られているので僕は教室を出て、ユエを迎えに行く。
中庭でお昼を食べようという話になり、僕らはそこへ向かった。
「…ん?」
中庭のガゼボに、黒髪の幼児が座って暇そうにしているのが見える。
幼等部の制服を着ているが、この学園のものではなさそうで、スカートを履いている事から女の子だという事がわかった。
「ユエ、あの子…」
誰だろうね、と話しかけようとして、ユエがいつの間にか僕の隣からいなくなっている。
見れば、暇そうにしている女の子に駆け寄っていた。
「ケーネじゃん。何してるの?」
「よ、ユエ。義母さんがアイラさんに用事だってんで着いてきたんだけど、あんまりにも話長いから散歩してここに落ち着いたとこ」
ユエを追いかけると、二人のそんな会話が聞こえてくる。
あの子、ユエと知り合いだったのか。
「ユエ、その女の子…」
そう言いかけると、二人から同じ事をステレオで言われる。
「「男だけど?」」
予想外の返しに、僕は固まった。
「は?」
女の子の制服着てるのに、男の子?
髪も長いのに?
僕の疑問が顔に出てしまっていたのだろう。
ケーネと呼ばれたその子がケラケラ笑い出した。
「うちの教育方針でよ、似合ってる格好するべきってやつでな。だからスイカも、数年前まで女の格好だったろ? てかユエ、こいつお前の彼氏?」
こいつ、のところでケーネ君は僕を指差す。
それに対して、ユエは頷いた。
「アオ、この間話した義理のイトコ。龍種の。あと、ケーネ。スイカは願掛けで女装させられてただけで、本人嫌がってたよ」
そう言いつつ、ユエは僕の腕に抱きついてくる。
腕に柔らかいものが当たって、僕は思わず顔を背けてしまった。
「私の恋人のグンジョウ。この国の王子様なの。格好良いでしょう?」
僕の事を自慢してくるユエの言葉を聞きつつ思う。
スイカ君の女装、二人が面白がって、着せ替え人形の如く女の子の服着せまくってたの、僕覚えてるからね?
彼、本当に嫌そうにしてて、アンナからも女の子だと思われてるの本当に嫌だって、若干半泣きだったよ?
あれ本当に可哀想だったんだけど?
ケーネ君は、僕の周りを半周しながらジロジロ見た後、
「うーん、イケメンだな。俺には劣るけどな!」
と宣った。
それに対し、ユエが不満そうに言う。
「龍種の中ではでしょう? 人の中だったら、アオほど格好良い人いないよ」
「褒められて嬉しいとは思うんだけど、僕ぐらいなんていくらでもいるでしょ?」
父様然り、ユーリおじさん然り。
僕なんてそこら辺にいても存在感あるかどうか、って程度だと思う。
その発言を聞いた二人が、少し驚いていた。
「え、自己肯定感低くね?」
「アオ、自信持って。アオ程格好良い人いないよ? 顔が良いし、性格も良いし、高身長で頭良くて、優しいし、甘えて来る所はとっても可愛いし…」
指を折り畳みながらユエが言ってくるので、僕は軽く彼女の口を塞ぐ。
わかったのでそれ以上言わないでほしい。
二人きりならともかく、今はケーネ君が目の前にいるわけだし。
「ユエ、わかったから。それ以上は言わないで」
僕の言葉に、彼女は頷く。
そっと手を離すと、ユエは何かを思いついたようにケーネ君に言った。
「ケーネ、チョコあるけど食べる?」
「ユエさん?」
そのチョコ、僕宛で来たやつだよね?
いくら龍種って言っても、幼児に食べさせて良いものなのか?
だが、ユエの言葉にケーネ君の目が輝いた。
「いるーっ!」
「個包装と、出して一纏めにしたの、どっちが良い?」
ユエが二択を出し、ケーネ君は個包装でと答える。
彼女は指を鳴らして、ガゼボ内にあるテーブルに乗り切らない程のチョコを転送してきた。
更にケーネ君の目が輝き、包装を剥いでチョコを口の中に入れ噛み砕き始める。
すごい音がしてるなぁ、なんてのんびり見ていたが、ユエがテーブルと椅子を転送してきて、その上にお昼ご飯を並べ始めた。
そういえば、今お昼休憩の時間だったと今更ながらに思い出す。
「簡単なものだけど…途中でお腹空いたら、購買とか行ってね?」
「いや、美味しそう。ありがとうユエ」
サンドイッチやサラダとか、あんまり量を食べない僕に対しての気遣いが伺えた。
しかも、ケーネ君よりテーブルとか風上に設置してあるおかげで、甘い匂いもこちらには来ない。