「ユエ…君、女神?」
「前もそんな事言ってたけど、私が女神だったらユタカと喧嘩してないし、貴方に群がる女の子達に嫉妬もしないでしょ? 私はただ、アオの事が大好きな一人の女の子だよ」
椅子に着席したユエは、そう言いながら微笑む。
あぁ、本当に城の中だったらユエの事口説き落とすのに。
残念で仕方ない。
ケーネ君の方をチラと見ると、個包装の包み紙に何か走り書きをしている。
何をしているのだろうと少し首を傾げると、ユエも同じ事を思っていたのか、彼に尋ねた。
「ケーネ、何やってるの?」
「んー? 味の感想書いてる。あと、何か入ってるやつにはその成分も書いてる」
何かってなんだろう?
疑問に思って更に首を傾げると、ユエの顔が険しくなった。
彼女の顔を見て、僕は察する。
あぁ、僕に何か盛ろうとしていた人がいたという事か、と。
なんと旧時代的なのだろうか。
僕は嘆息して、ユエが作ってくれたサンドイッチを頬張る。
「何入ってんのそれ」
「媚薬、惚れ薬、毒薬エトセトラ」
ケーネ君があげた上位三つに、怒りでユエの肩が震え出した。
僕の事が大好きで、大事に想ってくれてるからこその怒りなので、僕は可愛いなぁという感想しか抱けない。
「ユエ、怒ってくれるのは嬉しいけど、お昼休みもすぐ終わってしまうよ。君が食べないなら僕が全部食べるけど」
「食べていいよ」
即答かよ。
そこまで怒ってるのか。
というか、そんなものケーネ君に食べさせて大丈夫なのだろうか?
「ケーネ君、それ食べて大丈夫?」
「あー? 俺龍種だぜ? 人間用の毒とか媚薬とか効くわけないじゃん。俺用に調合するんだったら、これの数千倍持ってこないと」
そ、それは安心、なのか?
「あ、そう言えば。シンクにも僕と同じようにチョコが送られてきてたよね。ケーネ君にお願いして食べてもらったらいいんじゃないかな?」
「シンク?」
あの短時間で全て食べ終えてしまったらしい。
彼の足元には空の包装紙の山が出来上がっていた。
「ユタカの婚約者でね、僕の弟なんだ。多分困ってると思うから…」
「わかった。今日は甘いものいっぱい食えていい日だなー」
すごくニコニコしているので、甘いものがとても好きなようだ。
僕としては、あんな砂糖の塊美味しいとは思えないんだけど。
調味料で少しの甘さを感じる程度なら平気なんだけど、ガッツリ甘味ですって感じのやつは苦手なんだよな…。
「グンジョウ、お礼に俺の鱗やるよ」
ケーネ君はそう言い、僕へ何かを差し出してくる。
手を差し出すとその上に何か置かれ、見れば黒々とした鉄球のようだがあまりの重量で、体が傾いた。
「おっも!!」
「ユエにも」
ユエにも同じ物を渡したようだが、彼女は軽々とそれを持ち上げ眺めている。
え、嘘だろ…?
腕力が上がっていると思っていたが、ユエのあの様子を見て少し自信をなくした。
僕、彼女と力比べしたら負けるんじゃないかな…。
「アオ? なんでそんなに落ち込んでるの? …あ。いやいや、あの、魔力値が上がったから、身体強化してケーネの鱗持ってるだけだから! ケーネ、人化の術使って人になってるけど、本来20メートルくらい巨大な龍だから! 本当なら私持てないんだって! 重いって言いつつ持ってるアオの方が凄いんだからね? ね?」
僕の様子に察しがいったのか、慌ててユエが慰め始めるが、それ慰めになっていない気がする。
魔力値が上がっても上がらなくても、ユエは僕より強いのだから。
それに可愛いし、芯も強いし。
ユエに惚れている男子生徒だってたくさんいるだろう。
僕が恋人で、本当に良いのだろうか。
僕より、ユエと釣り合う人がいるのではないだろうか。
落ち込んでしまった僕に対して、ケーネ君はケラケラ笑い出した。
「え、この王子様メンタル弱くね?」
「黙ってろケーネ! アオ、落ち込まないでー?!」
ユエは僕を抱きしめてくるが、僕の思考は下方気味に落ちていった。
◆◆◆
ユタカの所にも行ってくると言うケーネ君を見送り、僕はユエ手製のお昼ご飯を食べ終え、彼女と共に教室に戻っている最中。
僕はユエに尋ねる。
「ねぇ、ユエ。ずっと前に組み手したら君の方が強いって話してたよね? それに賭けをした事も。有耶無耶になってしまってたけど…しなくても、君の方が強いってわかったよ…」
「ちょっ、だから身体強化してたって言ったじゃん! 普通なら私、アオより非力なんだよ? …アオは、こんな女の子嫌い…?」
立ち止まったユエより数歩先に行ってしまった僕は、彼女の泣きそうな声に振り返った。
涙目になって、ユエは僕を見つめている。
「嫌いではないよ。姉と母親がそんな感じだからね。僕が情けないってだけ。君を守りたいって思ってるのに、君からどんどん離されていくような気がしてて。ごめんね、ユエ。そんな顔させたいわけじゃないんだ。君の隣に、僕はいてもいいのかなって思っただけなんだ」
ユエの頬にそっと触れた。
ボロボロと涙を溢し始めたユエに、僕は苦笑いしか返せない。