「わかってるわよ。そんな情けない顔にならないで、あなた。グンジョウ、約束を違える男になってはダメよ? 将来こうなるから」
ニコリと笑いながら、母様は父様の肩を叩いた。
今そうなりかけているから、笑う気にもなれない。
でも、父様の話から得られるものもあった。
「ありがとう、父様、母様」
僕が礼を言うと、母様は苦笑する。
どうせ全て見えているんだろうな、と思った。
◆◆◆
母様とカヅキおばさんの訓練の前に、ユエと勝負する旨を、訓練場に集まったパーティのみんなに伝える。
アホか、と呟いたシンクが、呆れたように肩を竦めた。
「なんでそんな事になってるの?」
「グンジョウの馬鹿が、ユエちゃんの気持ちガン無視して傷つけるような事言うから。ユタカちゃん、あれと付き合わなくて良かったね。もしかしたら、ユタカちゃんが泣かされてたかもしれないよ」
首を傾げるユタカに、シャナが昼間の出来事を凝縮して伝えるが、ユタカはうーんと更に首を傾げる。
「ユエも意固地になってるだけじゃないかなぁ…。グンちゃんにか弱いとこ見せておけば、こんな事にならなかったと思うし」
「うっさい、ユタカ」
準備運動を終えたユエが、ユタカを軽く睨みつけた。
僕の方も準備運動は終わっていたので、ユエを見る。
「やろうか、アオ」
「そうだね」
シャナがため息をつきつつ、腕を上げた。
「はい、始め」
腕を下げた瞬間、ユエが僕に向かって走り、飛び上がって蹴りを叩き込んでくる。
それへ腕を使って防御するが、僕は驚いた。
重さがない?
少し痛いだけで、ユエの蹴りには全く重さが乗っていなかった。
シャナも非力な方ではあるが、身体強化を使えば僕の蹴りも難なく止める事ができる。
それどころか、身体強化なしで僕を蹴って来る事があるが、結構痛い。
そんな姉を見てきているからこそ、僕よりも魔力量が多いユエは、身体強化を使わなくてもとても強いと思っていた。
その認識が誤っていた事を、今この瞬間理解する。
でも、彼女との約束を違えるわけにはいかない。
僕は防御している方向と同じ足で、彼女に足払いをかける。
重心がその足に全てかかっていたので、ユエは体勢を崩した。
彼女の腕を引っ張り、その腹に向けて拳を叩き込む。
「う…ぐぅっ!!」
腹を抱えて、崩折れる彼女の首を掴んだ。
僕の手のひらから少し余るくらいで、ユエの首はとても細い。
「降参する?」
「…誰が…するもんか…っ!」
足を振り上げて抵抗しようとするが、それをもう片方の手で止めた。
更に腕を振り上げて殴って来ようとしたが、それも首を少し捻るだけで避けられる。
ユエの首にかけている手に少し力を込めた。
苦しそうに眉を寄せるが、それでも彼女は僕を睨みつける。
無駄な抵抗だな、なんて考えがよぎった。
「はい、そこまで!! グンジョウやり過ぎ!! そのままだとユエちゃん死ぬよ?!」
シャナが僕の背中に蹴りを入れてくる。
その痛みで僕はユエの首から手を離した。
ユエが自分の首を押さえ、蹲って咳き込んでいる。
自分がやった事なのだが、少し驚いた。
僕って、結構残忍性ある?
宮塚のあれ見たせいかな…。
「ユエ、ごめん。苦しかったよね? 大丈夫?」
「…げほっ!! だ、だいじ…げほげほっ!!」
強く押さえ過ぎたようだ。
ユエの咳き込みが止まらない。
シャナが慌ててユエに回復魔法をかける。
僕も彼女の背を撫で、ユエが落ち着くまで撫でていた。
「ごめん、ユエ。シャナ基準で考えてた。僕が間違ってた。本当にごめん」
「…ちょっと待てグンジョウ。聞き捨てならないんだけど。人の事ゴリラかなんかだと思ってんの?!」
僕の胸ぐらを掴み揺さぶってくるシャナに僕は首を横へ振る。
目線は横を向いてはいるが。
「思ってるわけないじゃん」
「こっち見て言いなさいよ?! あたしだってか弱いレディなんだからね?!」
それはわかってる。
しかもシャナをゴリラとか思ってしまうと、それ以上の母様はどうなるというのか。
「グンジョウ、あたしの事ドラゴンレベルとか思ってる?」
「思ってません、母様。父様に殺されるのでやめてください」
母様がニコニコしながら、カヅキおばさんと共に訓練場に入ってくる。
少し思考しかけた事を言い当てないでもらいたい。
流石に怖いです、母様。
あと、そんな事を父様の前で言おうものなら、僕の命なんてそこら辺の虫以下だ。
蹲っているユエを見て、カヅキおばさんはため息をついた。
「ユエ、あまり無茶をするんじゃない。お前は冷静そうに見えて、昔から頭に血が昇りやすい性質がある。それにグンジョウ、お前もだ。頭良さそうに見えて、若干脳筋なところは直せ。さっきの戦闘を見ていたが、本当にシャナが止めていなかったら、お前はユエを殺していたぞ」
「……反省してます」
胸ぐらを掴むシャナの手を外し、僕はユエを抱き上げる。
「アオ、大丈夫だから、降ろして…」
「無茶したから、ユエは今日見学で良いですよね、おばさん?」
僕の視線を受けたおばさんが、呆れた目で僕を見た。