無茶をさせたのは誰なのだ、という目なのは理解出来たので、僕は困ったように笑うしかない。
ユエを抜いたパーティで母様達に挑むが、いつも通り全滅させられる。
やっぱり、中衛であるユエが抜けると、とても連携にヒビが入るようだ。
シンクも少し僕らを動かしづらそうに、眉を寄せていたし。
「アオ、大丈夫?」
倒れている僕の側に座り、ユエは頭を撫でてくれる。
それが心地良くて、僕は目を閉じた。
「うん、いつも通り…」
「…アオ、さっきの事だけど」
ユエの首を絞めてしまった事についてだろうか。
僕は目を開け、彼女を見上げる。
「ちゃんと、私がアオより弱いのわかってくれた? アオより強く見せてるのはただ単に、魔力を利用してるだけなんだよ? …流石に、今日はショックだったよアオ」
「…本当にごめん…」
それでも愛想を尽かさず、僕の傍にいてくれる彼女に感謝した。
普通なら、嫌われて別れを告げられていてもおかしくはないのに。
僕はそっと、ユエの方に手を伸ばす。
それに気付いた彼女が、僕の手を取り自分の頬へ添えた。
「あんな事されて、怖いとか感じないの?」
「あれは戦闘時だからで、いつものアオは優しいじゃない? それに、甘さが捨てられてきてるって事じゃん。良い事だと思うよ?」
そう言い、彼女は微笑んだ。
流石立花の娘。
よくカヅキおばさんに訓練されているようだ。
そしてふと思い出す。
「ユエ、今日何の日だか覚えてる?」
「覚えてるけど…。アオ、その状態で物を食べるのは、お行儀が悪いと思うよ?」
それは確かにそうだけど。
僕は起き上がり、少し不機嫌そうにユエを見る。
首を傾げる彼女へ、僕は言った。
「少し恋人らしい事しようと思ってたんだけど。君の膝枕で、チョコをもらうっていう。そっかー。ユエはしたくなかったかー」
「なっ?! し、したくないと言えば嘘になるけど! で、でも周りの目が…」
僕は訓練場を見回す。
母様達はおろか、シンク達もいなくなっていた。
訓練場にいるのは、僕とユエの二人だけ。
誰の目を気にするというのか。
「ユエ? したくないって普通に言えばいいと思うよ?」
「え? あれ?! みんないつの間に?! え、嘘?! 違っ、違うのアオ!! さっきまでみんないたんだって!! あっ、ママだな?!」
魔力の痕跡から、おばさんがみんなを影に引き込んだのはわかっていたが。
多分、僕と喧嘩したユエに気を遣ってあげたんだろうな、と察する。
「無理にとは言わないよ。帰ろうか、ユエ」
「ーっ!! やだぁっ! アオとイチャイチャするぅっ!!」
立ち上がった僕に動揺したのか、ユエがお祖母様の教育を受ける前の彼女の口調に戻り、僕に抱きついてくる。
そのまま重心をかけて、僕を押し倒した。
風魔法を使ったのか、衝撃が僕にくる事はなかったが。
「ちょっと、ユエ…アクティブ過ぎるよ…」
「んっ!!」
自分の口に咥え、僕にキスをするついでにチョコを食べさせてくる。
僕の事を考えて、ビターな味だ。
そこまでは望んでなかったのだけど、ユエが多分勇気を振り絞ってしてきたので、僕は受け入れる。
深いキスをした後唇を離し、僕はニヤリと笑った。
「ユエ、誘ってるの?」
「……っ、そうだって言ったら、どうするの?」
頬を染め、僕を見つめるユエから、顔を背ける。
多分聞いた僕の顔も、真っ赤になっている事だろう。
腕で顔を隠しながら、彼女に言った。
「ユエ…あまりそういう事言わないで。ユーリおじさんに殺される…」
「アオが殺されたなら、私も後を追うよ。もう離れるのは嫌だもん」
僕の胸に頬を埋め、目を閉じるユエをとても愛おしく感じ、僕は照れ隠しで乱暴に彼女の頭を撫でたのだった。
◆◆◆
ユエとしばらくイチャついた後、彼女が屋敷に帰るのを見送って、僕も自分の自室に帰る。
帰る途中、カヅキおばさんが僕を待ち受けていた。
やばい…絶対さっきの見られてただろうし、怒られるかも…。
「あの、カヅキおばさん…」
怒られるなら怒られるで、先に口を開いてしまおうとした僕に、おばさんは何かを投げて寄越す。
それは少しの燐光を帯び、回転しながら僕の方へ向かってくる。
暗い廊下に差し込む月光に照らされたそれは、短剣だった。
柄の部分を片手で受け止めそれを見、そして顔を上げておばさんに尋ねる。
「自害しろって事ですか?」
「違うわ阿呆。お前専用の強化アイテムだ。今回の動きを見てて、成長していないのはお前だけだと感じてな。精神的にも、肉体的にも。他の者を見習えと言われた所で、お前が努力しても真似できない芸当ばかりだろう。だから、切り札というものを授けてやろうじゃないか」
おばさんがニヤニヤと、僕を見て笑う。
それは、僕も感じているところだった。
ユエを大切だと言いながら、力加減を間違えて模擬戦で殺しかけるなど、愚の骨頂だろう。
少し彼女に負けたくらいで落ち込み、ユエを悲しませるなど。
おばさんの言う通り、肉体的にも精神的にも、僕だけ成長出来ていないと感じる。
ユエやユタカは、自分の足で自分の人生を歩いている。