シャナも、ツルギを想いながらも頑張って成長しようとしているし、ツルギは言わずもがなだ。
シンクは…どうだろう。
もう一人の僕だけど、考える事は読めても何を思っているのかわからない。
あの薄ら笑いを浮かべた彼は、何を思ってここにいて、僕らと一緒に戦ってくれるのか。
「それを使えば、神殺しをしてもお釣りが来るぐらいの能力が手に入る。全リミッターを解除した私と同等以上の力をな。ただし、使用時間はお前の万全で30分。満身創痍なら10分しか保たないと覚えておけ」
おばさんから渡された短剣をマジマジと見る。
そんな風には見えないのに、おばさんにそう言われると、重みを感じる。
「使い方は?」
「自分の心臓に突き立てろ。それで発動する。ただし、使用回数はたったの一回。自分も含め、周りが窮地に立たされた時、死期を悟り、しかしどうしても退けない時に使え。言っておくが、それを使った後お前は指先一つ動かせずに倒れるだろう。
おばさんが真顔になり、自分の心臓に親指を突き立てた。
いつものおばさんらしからぬ固い声に、柄を握る手に力が籠る。
冷や汗が、僕の頬を滴り落ちていった。
「…切り札をいただけるのは、ありがたいと思います。ですが、他の者にもこれを渡しているんですか?」
「いいや。お前にだけだグンジョウ」
何故だろう。
僕が未熟だというのなら、能力が低い僕ではなく他の…例えば、自分の娘達に渡せば、生還率は上がるのではないだろうか。
それを見越して、おばさんは僕に言う。
「これは、お前が主人公の物語だからだ」
それは一体どういう意味だろうか。
また母様から何か言われたのだろうか。
疑問が僕の頭を駆け巡るが、問いかける前におばさんは踵を返した。
「おばさん…っ!」
「精々励めよ、グンジョウ。それを使う事態に陥らないよう鍛えてはやるが、使わざるを得ない時は躊躇なく使え」
それと、とおばさんはこちらを見つつ続けて言う。
「シャナの方にも先程会って伝えてきたが、周りが死に絶えても、グンジョウだけは生還させるよう言い含めてある。泣かれてしまったが…最終的には頷いてくれたよ。お前も、自分が生き残る事だけを考えろ。甘さは捨てろと、私は前から言い続けていたな? 覚悟を決めろグンジョウ」
「………」
僕は無言でおばさんを見つめるしか出来ない。
そんな僕の様子に、おばさんは表情を真顔から苦笑いへと変えた。
「お前達に重荷を背負わせてしまって、申し訳ないと思っている。私やナツキが出れれば、何も問題はないのだが…ナツキは今あの状態だ。私も若い時に無茶をしすぎてな。前線に出られる状態ではない。すまんな」
「いえ…」
おばさん達が出られないのなら、城の兵士や騎士団、魔法師団、ギルド員、全てを動員して総力戦をした方がいい。
だが、それをしたところで、魔王には敵わないのだろう。
それで片がつくなら、既に父様が動かしている。
これは、僕達でどうにかしなければならない問題なんだと感じた。
僕はおばさんに向かって、深々と頭を下げる。
「ありがとうございます、立花卿。魔王に勝てるよう、これからも精進致します」
「あぁ。あと、その切り札の存在は全ての者には伏せておけ。何処からそれが漏れるかわからんからな」
カヅキおばさんの気配が消える。
顔を上げると、そこにはもうおばさんの姿はなかった。
◆◆◆
自室に帰り、ベッドに寝転がりながらおばさんから渡された短剣を見る。
光に照らしてみると、若干透けているのがわかった。
触るとちゃんとした刃が付いている。
指を滑らせてみるが、指には傷一つ付かない。
おばさんの手製だろうから、説明通りの効果があるのだろう。
「…はぁ」
僕はため息を一つついて、自分の収納空間に短剣を投げ入れる。
横向きに体勢を変えて、目を閉じた。
今日の事を思い出す。
全てにおいて、ユエに酷い事をしまくっていたような気がした。
いや、いつものほほんとしているシャナが注意してきた時点で、酷い事をしているのだ。
「ユエ…なんで君は…」
なんで君は、そんなに僕に優しいの?
僕が夕陽の生まれ変わりだから?
「そんなわけないじゃん」
ユエの声がして目を開ける。
目を開けた先、僕の目に映るのは青々とした草だった。
どこかの草原にいるようで、風を感じる。
え?
僕、さっきまでベッドにいたのに…。
少し戸惑っているとクスクスと笑う声が聞こえ、僕は起き上がって寝ていた方向とは逆の方を見る。
そこには、白いワンピースを着たユエが僕を見て笑っていた。
「ユエ…? ここは…」
「アオの夢の中だよ。夢渡りを覚えたから、使ってみたの。アオ。私は、貴方が貴方だから好きになったんだよ? 夕陽君とか関係ないって前も言ったじゃん。貴方がもし夕陽君じゃなくても、私は貴方が大好きになっていたよ?」
さっきのを聞かれていたらしい。
少し恥ずかしくて、僕は彼女から目を逸らした。
「アオ、貴方が夢を見ている時は、ここに来てもいい? 多分ママとかにはバレてるから、あんな事やこんな事は、出来ないだろうけど」
「別に良いけど…って! 夢でも君には手を出さないからね?!」
えー、と不満げなユエに、僕は苦笑するしかなかった。