僕らはどうやってケーネ君を倒すか、しか考えていなかった為全滅し、指揮官であるシンクはこんこんと、おばさんから説教という名の教練を受けていた。
最適解としては、誰か、もしくは僕がケーネ君と対話を試みている間に、シンクとシャナが結界を破壊する、というものだったらしい。
おばさんが張った結界なのだから、地中まで囲ってあるという先入観で、破壊するなどという頭はなかった。
あれ以来、シンクは暇ができる度に図書室とかで戦術書を読み漁っているようだ。
ユタカが妃教育を受けている合間だけだけど。
訓練なのだが、命の危機を感じ過ぎて危うくあの短剣を取り出すところだった。
「もっと頑張らないと…」
「何が?」
僕の呟きに返答があり顔を上げると、そこにはいつの間にかツェリが立っている。
あの日以来一緒に登校はするものの、僕らは一切話をしなくなった。
彼女から話しかけてくる事もなく、今まで過ごしていたのに。
「ツェリ…」
「そんなに警戒しないで、グンジョウ君。私はもう何もしてないでしょう?」
クスクス笑う彼女に、違和感を覚える。
いつもの彼女なら、吃音気味に話し、少し目を伏せて自信なさげに笑うような子だった。
でも、今の彼女はそんなものは一切なく、むしろ別人のようだ。
「君、本当にツェリ?」
「そうだよ? 貴方に恋人がいても想い続けてる、愚かな女だけど…何か?」
何かではないだろう。
流石に、この様子の彼女に恐怖心を抱かないと言われたら、嘘になる。
僕は少し目を細めて、彼女を睨みつけた。
「幼等部から君と接してきたけど、そんなそぶりなんて今まで見せてこなかったじゃないか。僕が好きだと、態度で示した事あった?」
「何回もしてたよ。ちゃんと、シャナちゃんやユエちゃんは気付いていたでしょう? グンジョウ君が鈍いだけだよ」
ふふふ、と笑うツェリから目を逸らす。
確かに、ユエから彼女が僕の事を好きだと聞かされた時は驚いたけど。
「それは…悪かったと思うよ」
「私も、もう少しグンジョウ君にアピールしておけば良かったとは思ったよ。お弁当作ったり、バレンタインには、甘いものが好きじゃないグンジョウ君の事を考えて、甘くないチョコを作ったりして、渡していたの。応えてもらえなくても、私の気持ちはわかってくれてると思って…まぁ、ただの自惚れだったわけだけど」
自嘲気味に笑うツェリに、少し申し訳ない気持ちになる。
そう言われたら、過去の僕の所業って最悪ではないだろうか?
ツェリからの贈り物に関しても、有難いな、なんて思うだけでそれ以上の事は思わなかった。
ほんの少しぐらいそれがどういうものか考えれば、僕らの今の関係も多少は穏やかなものになっていただろう。
僕に彼女が出来ようが、ツェリは笑って祝福してくれていたはずだ。
「ツェリ…」
「グンジョウ君。私、諦めないから。高等部卒業まで振り向かせられなくても、側妃として召し上げてもらうよう、陛下や王妃様に直談判するつもり。それに、何をやっているのかは知らないけど…もし、ユエちゃんに何かあったら、私がグンジョウ君の正妃になるよね?」
にこやかに、そう言うツェリの笑顔がとても怖いものに感じる。
「何やってるの?」
僕の背後、寮の入り口から不機嫌そうな声がかかった。
そちらに振り向くと、肩が出ている黒いワンピースを着たユエが、不機嫌そうに腕を組みながら僕らを見ている。
「何をやっていると思う?」
「ツェリちゃん、いい加減にして。アオは、私の婚約者なの。アオを勝手に想うのには目を瞑ってあげるけど、それ以上だと黙ってないから」
ユエとツェリの間で火花が散っている気がする。
ツェリの方が身長が高いので、ユエを見下ろす形になっているのも、見てる側としては怖い。
「ユエちゃん。別に、私は2番目でもいいの。グンジョウ君の隣は貴女でも、彼の傍に居られれば、私は構わないの。もし私が正妃になって、貴女が2番目になったとしても、私は怒ったりしないよ」
「そんな未来、来るわけなくない?」
そう言うユエに、ツェリは嘲笑した。
僕だって、そんな未来は来ないと思っている。
だが、ツェリの考えはそうではないのだろう。
「ユエちゃん? グンジョウ君はいずれ、この国を背負って立つんだよ? 王妃の仕事って、陛下の仕事のお手伝いをするだけじゃないよね? 後継者を産まなきゃいけないのも、妃の仕事だってわかってる? 貴女がグンジョウ君の子供を何年も産めなかったら、どうするの?」
「それはツェリちゃんにだって言えるじゃない。それに、立花家やブリリアント家は子供多いの知らないの?」
これ、朝からする話じゃないだろ。
僕は耳を塞いで、彼女らから顔を逸らした。
まぁ、ツェリの言い分もわからないではない。
僕はユエ以外を愛するつもりは全くないけど、国として、そして国王として、時にそれを覆さなくてはならない事態は、間々あると思っている。
先程ツェリが言った後継者問題とかだ。