もしかしたら、僕らを宿す前に母様も誰かから言われたかもしれない。
もし、父様との間に子供が出来なかったら、側妃を迎えるようにと。
お祖父様の時代だと、側妃は沢山いたという話だったし。
父様の兄弟姉妹も多くいたという事だった。
今は統合騒乱でほぼいなくなってしまったらしいが。
僕が会った事がある父様の兄弟は、トンプソン領にいるユキヤ叔父様、迷いの森にあるエルフの里にいるアキカ叔母様、そして各地を視察という名目で旅行しているハルト叔父様だけだ。
「知ってるよ。だから何?」
「は?」
ユエの声が低くなる。
これ以上だと、魔法を使った喧嘩が始まるかもしれない。
流石にこれ以上はと思った僕は、振り返った。
「はいはい、寮の前で喧嘩しないでよ。ユエ、グンちゃんと出かけるんでしょ? だからそんなおめかししてたのに、ツェリちゃんとの喧嘩で台無しにする気?」
「ユタカ…」
シンクを伴って、ユタカがその場にいた。
一体いつの間にと思って、僕が顔背けてた間かと結論づける。
「ユタカちゃん。もうユタカちゃんには関係ないよね? グンジョウ君より、シンク君を選んだんだから」
「だから何かな。うん、客観的に見るとこれキッツイね…ごめん、ユエ」
ツェリの様子を見て去年あたりを思い出していたのか、ユタカがユエに謝った。
そんな彼女の頭を撫で、シンクは僕に早く行くよう手を振ってくる。
「やっとわかったの、ユタカ」
「ユエ、行こう。シンク悪い、後任せた」
ユエの手を取り、僕は歩き出す。
そんな僕を見て、背後からツェリが呼び止めようとした。
「ちょっと待って、グンジョウ君!」
「はいはい、人の恋路を邪魔すんじゃねぇよツェリ?」
足音からして僕を追いかけてこようとしたのだろうが、シンクに足止めされたようだ。
僕は二人に感謝しながら、その場を離れた。
◆◆◆
「幸先悪ーっ!」
「そうだね」
学園都市内にあるユエがお気に入りのコーヒーショップでテイクアウトし、僕はブラック、ユエはキャラメルマキアートを飲みながら歩いている。
先程の事が余程癇に障ったようで、ユエはまだ怒っていた。
まぁ、怒ってるのはツェリに対してだけで、僕ではないからそこは別に良いんだけど。
恋人繋ぎをしている片手の指で、彼女の手の甲を撫でる。
「……何?」
「今日のデート、僕楽しみにしてたんだけど? ツェリの事なんて忘れて、僕の事だけ考えてよユエ。ね?」
少し彼女の手を持ち上げ、手の甲にキスをする。
チラリとユエを見れば頬を染め、困ったように目を逸らしていた。
「もうそろそろ慣れない?」
「な、慣れるわけ…ないじゃん…っ! 恥ずかしいよ、アオ…!」
プイッと顔も逸らしてしまったユエを見て、本当に彼女は可愛いと思う。
クスッと笑い、僕は手を下ろした。
「何笑ってるの?」
「君がとても可愛いと思ってね」
ニコリと笑いながら彼女の耳元にまで唇を寄せ、小声で囁く。
「愛してるよ、ユエ。ここが街中でよかったね? 城の中なら、グズグズに甘やかしてるところだ」
「ーーっ?!」
僕から手を離し、囁いた方の耳を押さえてユエは僕から離れる。
その顔は真っ赤に染まっていた。
「ア、アオっ!! そういう事言うの禁止っ!!」
「うーん…。禁止されると、今後君に愛を囁けなくなるけど、それでも良いの?」
僕がそう言うと、ユエは顔を真っ赤にしたまま、僕を睨む。
威嚇しているつもりなのだろうが、僕には逆効果すぎて噴き出した。
「何笑ってるのーっ?!」
「痛っ、痛いって。ごめんって」
ユエがポカポカと僕を叩いてくるが、魔力を乗せてはいないので普通に痛いだけだ。
良かった、意識がツェリから逸れたな。
流石にあの状態でデートするのは勘弁願いたい。
ユエが怒りっぽいのは昔からだし、それを知ってはいるけど。
多分後で、ユエ自身が後悔する事になるだろうから。
「ユエ、好きだよ」
悲しむ彼女は、もう二度と見たくない。
僕の事に関しても、他の事柄に対しても。
もう、泣かせる事はしたくない。
彼女に対してそんな気持ちを込めながら言うと、キャラメルマキアートを飲み終わったのか、彼女は容器をゴミ箱に捨て、僕に抱きついてくる。
まだ僕は飲み終わってなかったので、片手で彼女を抱きしめた。
「私もだよアオ。でも! お願いだから、口説くのは部屋の中だけにして? こんな人が多い所で言われたら、どうしたら良いかわからなくなるの…」
最後の方は小声で言う彼女だったが、ちゃんと聞こえていたので、僕は苦笑して彼女にしか聞こえないように囁いた。
「わかったよ、僕の姫。君の仰せのままに」
「だから…っ! …もー…」
少し不満そうに言う彼女だったが、諦めたのか僕の胸に顔を埋めた。
◆◆◆
ショッピングモールというものも学園都市内にはあり、そこのブティックでユエは服を二着取り、どちらがいいか悩んでいるようだった。
一つは体の線が出る服で、母様やおばさんの生前の世界にあった、チャイナ服と呼ばれるものだ。