グラウンドに出て、エミル君と一緒に準備運動をする。
先程の事を見て言っているのだろうが、僕はとんと心当たりがない。
なので、首を横に振る。
「やるわけないじゃん。この学園内で立花先生に喧嘩売れるのって、実子であるユエとユタカだけでしょ。あとは、みんな怖くて逆らおうともしないじゃん」
隣のクラスも合同なので、ユエやユタカ、ツルギも一緒だ。
ツェリだけこの場にいない。
クラス替えで、彼女だけ遠いクラスになってしまった。
僕としてはホッとしたけれど。
「だよなー。でも立花先生、めっちゃ機嫌悪くない?」
「それは思う」
いったい何があったのだろうか?
訓練が終わった後、母様に何か言われたか?
だからといって、こちらに当たられても困るのだが。
「お前ら揃ってるな? 今から私が魔法で作った非殺傷の槍を、体育の時間が終わるまで避け続けてもらう。当たって脱落した者は、終わるまでトラックを周回してろ。魔法を使って防御しても構わん。だが、授業開始残り40分強。耐えられるものなら耐えてみせろ」
カヅキおばさんが現れ、そう説明した後トラックの内側に結界を張る。
おばさんの周り四方八方に、槍が浮かび始めた。
「では開始」
その言葉を合図にして、槍が飛んでくる。
僕は身体強化と魔力の気配で避けるが、隣にいたエミル君が槍と一緒に吹っ飛んだ。
「エミル君、大丈夫?」
「だから、俺は文官の出なんだってば! そんな目で見んなエーリ!」
少し心配になって声をかけたが、彼は僕など眼中になく、結界から出ながら自分の婚約者であるエーリに対して怒鳴っている。
何も言ってないじゃない、と槍を避けているエーリは答えるが、彼女も槍に当たってしまった。
段々生徒数が減っていき、結局残るのはいつものパーティだけになる。
僕やツルギは、いつも通り母様の魔法球を避ける感覚で避けていく。
魔法を多少なりとも使える組は、シールドで防いだり避けたりしながら、おばさんからの攻撃に耐えていた。
「ねぇ、グンジョウ! あと何分?!」
「そんなもの自分で見たら?! 見てる余裕あると思う?!」
シャナから残り時間を聞かれたから、若干怒鳴って返す。
残りが僕らになった途端、おばさんの槍を射出するスピードが上がったのだ。
流石に避けるだけで精一杯で、時間を見る余裕などない。
しかも一辺倒だった攻撃が、変化球を伴ってくるのだからかなりタチが悪い。
「残り10分だぞ、シャナ」
「嘘ぉっ?! あと10分耐えなきゃなんないの?! シンク、なんで余裕そうなの?!」
声の方向から、僕は槍を避けながらシンクの所まで後退する。
彼は、飛んでくる槍を瞬間的にシールドで防ぎながら、携帯をいじっていた。
「ほんっと…一人だと、楽そうだね…っ、君は!」
「楽ですよー、おにーさま…安心しろよ。残り5分なったら全員にシールド張ってやっから。おら、ツルギ! お前が落ちたらシャナも落ちる事忘れんなよ!」
こいつ、ユタカ抱えて余裕そうな顔するな!
あぁ、僕も多少なりとも使えればユエを守れるのに。
「アオっ!!」
そんな事を考えていたのがいけなかった。
僕に向かってくる槍に気付けず、当たりそうになった所をユエがシールドで防いでくれる。
「ごめん、ユエ!」
「いいから、来るよ!」
おばさんの槍が僕らに向かってきたので、二手に別れて攻撃を避けた。
シンクの宣言通り、残り5分になってから僕らにシールドが張られ、カンカンとおばさんの槍が当たる音がする。
若干息が上がってた僕は、その場に座り込んだ。
「アオ…疲れた…」
「僕も…。あぁ、ユエ。今凄い汗かいてるから、近寄らないで…汗くさいよ、僕」
よろよろ寄ってきて、僕に抱きつこうとしたユエを止める。
服の裾で汗を拭うと、はわ、という声が聞こえ、僕は声がした方…ユエの方を見た。
彼女は僕を見、自分の口に手を添え頬を染めている。
「はわ?」
「アオ、その動作格好良い…好き…」
あのデートの後から、ユエは自分の思ってる事を素直に口へ出す事にしたらしい。
お祖母様の教育を受ける前に戻ったのかと思いきや、ちゃんとスイッチの切り替えは出来るようになったようだ。
二人きりの時は僕にベッタリくっついているが、他の人がいる時はこうやって口に出すだけに留めている。
「え、これくらいで?」
「アオは何もかも格好良いんだもん。私の彼氏格好良い…王妃様、アオを産んでくれてありがとうございます…!」
クラスメートの一部にも、アイドルとかに対して同じ反応をしている人達がいたけど、これ推しに拝んでるってやつじゃないの?
え?
ユエさん、君僕の彼女で婚約者だよね?
「ユエ、後で話あるから」
「うん…アオが格好良くて尊すぎる…っ!」
まだ言うか。
授業終了のチャイムが鳴り、カヅキおばさんが指を鳴らして結界と槍を消した。
そしてシンクの所まで早足で来ると、その頭を思い切り撫でる。
「え? 先生?」
「いい判断だ、シンク。魔法の扱いも的確だ。これからも精進しろ?」