シンクも僕と同じ身長だから、頭を撫でる為にカヅキおばさんは爪先立ちになっていた。
撫でやすいように、シンクは少し身を屈める。
「そりゃどーも。なんならユタカくれても良いんですよ?」
「それとこれとは話が別だ。まったく、その生意気さは誰に似たのやら……いや、ナズナだな」
おばさんはシンクの頭を撫でる手を離し、僕の方に来ると、腹を軽く殴ってきた。
予測してそこを身体強化で防御していたのだが、当たっていて良かったと思う。
これが頭だったら昏倒していた可能性があるからだ。
僕は軽く痛いだけで済んだが、おばさんは表情を変えず殴った手を振っていた。
おばさん自身も、まさか僕が防御しているとは思わなかったのだろう、予想外過ぎて痛かったんだなとその素振りで気付く。
「ちっ…そこの判断は早いな、グンジョウ。だが、攻撃を受けている最中考え事をしていたな? 余程死にたいと見える」
ギロリと先程の痛みも加えて、おばさんは物凄く僕を睨みつけてくる。
なら、頭の方を叩けばよかったのではないだろうか、と僕はチラリと考えてしまった。
途端、臀部に衝撃が来て、僕は前のめりに倒れそうになる。
見れば、カヅキおばさんが片足をあげていたのでそこを蹴られたのだろう。
「すみません。次からは気を付けます」
臀部をさすりながら、僕は謝罪する。
授業中に考え事をしていたのは事実だし、これが授業でも訓練でもなく、本当の戦闘だったら命を落としていた。
そこは僕の落ち度だと思い、素直におばさんに謝罪する。
ふん、と鼻を鳴らしたおばさんは、踵を返してトラック周辺でへばっているクラスメートに声をかけた。
「次は座学だぞ、お前ら。さっさと着替えて教室に戻れ」
抗議やだるさといった声が上がるが、おばさんは無視して校舎に戻っていく。
「アオ、お昼一緒に食べようね」
「そうだね」
いつも彼女の手製を頂いているので、今日はなんだろうと楽しみに思っていたのだが、そんな僕を見てユエは申し訳なさそうな顔をした。
「…どうかした?」
「ごめんね、アオ。今日、寝坊しそうになっちゃって。お昼ご飯のお弁当、作れてないんだ…」
シュンと落ち込んでしまったユエを見て、僕がそれで怒ったり、ガッカリするんだろう、とか思っていたんだなと察する。
大丈夫だよと伝えるために、僕は彼女の頭を撫でる。
「いつも作ってもらってて、悪いなって思ってたんだ。今日は食堂に行こうか。ユエの好きなもの、僕に奢らせてくれる?」
「…別に、好きでやってるからそう思わなくてもいいんだけど。うん…お願いします」
ニコリと笑って僕を見上げるユエに、僕も笑いかけた。
◆◆◆
お昼休みになり、僕とユエは食堂に向かう。
何故か他のメンバーも付いてきて、僕は背後を見た。
「いつも別々なのに、なんで今日に限って…」
「別にいーじゃん。俺達だって、飯食わなきゃ死んじまうんだし」
ニヤニヤ笑いながらシンクは言うが、人間は一週間食事を取らなくても死なない。
水は取らなければ死んでしまうが。
それくらいわかっているだろうにと、僕は彼を軽く睨む。
「ごめんね、グンちゃん。私も寝坊しちゃって…」
手を合わせて謝ってくるユタカに、僕は首を傾げた。
「ユタカも? 二人して珍しいね。どうかしたの?」
ユエだけではなく、ユタカもなんて。
僕は物珍しさで、二人に尋ねる。
「いや、その…」
「まだ内緒」
僕の問いにしどろもどろになったユタカの口を塞ぎ、ユエはニコリと笑った。
何か隠し事しているなと気付いた僕は、ユエの手をとる。
「ユエ?」
「リンクは繋がないからね、アオ?」
僕の手を握りながら微笑む彼女は可愛いが、僕が魔力少なくて読心術が使えない事を知っての言葉に、少しムッとした。
だが、僕は続いてシンクを見る。
彼は僕とは目を合わせないよう、顔を背けていた。
「シンク?」
「分かってても言わないのが優しさってもんだと思うぜ? グンジョウ。あんまりしつこいと、ユエに嫌われるかもな?」
こいつ、やっぱり僕だから突かれたら痛い所を理解しているのか。
ユエの事を出されたら、諦めざるを得ないではないか。
僕はため息をついて踵を返し、シャナに抱きつく。
ツルギがギョッとしているが、ツルギ以外は毎度の事だと理解しているようで、あまり気にしていないようだ。
だが、僕がシャナに抱きついた事によって、一行の足が止まる。
「シャナー…」
「はいはい。拗ねてないで、もうちょっと大人になろうねグンジョウ? お昼休み短いんだから、早く行こうよ」
僕の背をポンポン叩いて、シャナは苦笑しているようだった。
そして僕は、思い切り後方に引っ張られる。
その前に足音が僕に近づいてきていたのを聞いていたので、シャナに回していた腕の力を抜いていた。
「アオ? シスコンも大概にしようね?」
「隠し事を教えてくれたら、しなくても済んだと思わない?」
思わない、と僕を引っ張ったユエが笑いながら言うが、気配が滅茶苦茶怒っている。
あーあ、とユタカが呆れたようにユエを見ていた。